対パーティー戦

 第二階層へ足を踏み入れたゼニガーは、すっかりと気が緩んでいた。


「いや~、最初はヤバいと思うたんやけど、落ち着いて対処すれば余裕やな!」

「うん、あと二日ちょっとあるし、配分的にはかなり順調だね」

「肯定、マスターミース。正確には二日後の正午までに聖杯を持ち帰ればいいので、今日で2~3階層目、明日で~4階層目、そして明後日の午前中に五階層目のボスを倒して戻ってくるというスケジュールであります」


 レドナが魔力で浮かび上がらせた時計の針によると、現在はまだお昼だ。

 階段付近のフロアはモンスターが入ってこられない聖域となっているので、酒場で買った軽食の黒パンと塩漬け肉を食べながら話している。


「よゆ~や、よゆ~! なんなら、今日だけで五層目までいけるんとちゃう? 知らんけど~!」


 ゼニガーはガハハと笑っていた。

 ミースとレドナも攻略に余裕があると思っていた――第二階層を進み始めるまでは。




 ***




「うおおおおい!? やばい、やばいでぇ!?」

「くっ、上手く邪霊を狙えない!」

「復活が早くて倒しきれないであります」


 三人は想像以上に手こずっていた。

 敵としてはほぼ種類が変わらない。

 しかし、その数が違ったのだ。


「右のゴロストンを倒したであります! 次は左のレッドグーミスライムを――ああっ、もう真ん中が復活を!?」

「復活した敵に阻まれて邪霊を倒せない……!」

「うわああ、複数からの攻撃は地味に痛い痛い痛い助けてやー!」


 邪霊モンスターは一体を相手にするだけなら、三人の連携で対処できる。

 しかし、第二階層は敵も複数でPTを組んできたのだ。

 一体を倒して邪霊を狙おうとしても、別の一体が襲ってくる。

 その一体に対処していると、浮き出ていた邪霊は身体に戻って復活してしまう。

 単純な足し算というより、かけ算のように敵の数によって難易度が上がる。


「な、何とか倒した……」


 ただのアイアンゴロストンやレッドグーミスライム程度にも、かなりの時間と体力を消耗させられた。

 移動の最短距離なら第二階層も突破はすぐだと思っていたが、道中のモンスターに時間を取られて焦りが出てくる。


「先に進めばもうちょっと戦いやすいモンスターが出てくるかもしれない。次に行こう……」

「そ、そうやな……いたた……」

「ゼニガー、大丈夫?」

「平気……とも言い切れんな。目立った傷とかはないんやけど、盾で防ぎ続けても、どうしても身体のあちこちが痛くなってきてしまうんや。青銅の槍+99のドレイン効果もそんなに大きないしなぁ」


 疲れた表情のゼニガーを見て、ミースは大収納に入っていたポーションを渡す。


「おっ、サンキュー。これで少しは楽になるさかい」

「ゼニガー、負担をかけてごめん」

「はっ、ポーション飲んで元気百倍や!」


 正直なところ、ゼニガーは無理をしていた。

 ポーションという薬は、そこまで即効性があるものではない。

 ジワジワと体力を回復させるような効果だ。

 それも始まりの町で手に入るような普通のポーションではスズメの涙。

 即効性のある回復魔術でもあれば別なのだが、実用性のある魔術を使える人口は少ないので貴重なのだ。


「……って、こら、無言でこっちを見ているレドナはんも、変に気にせんといてや!」

「べ、別に気にしてないであります」


 表情はあまり変わらないのだが、そろそろレドナと付き合い慣れてきたので心配そうにしているのがわかったのだ。

 ゼニガーは面倒臭そうに言った。


「ワイにはワイの、レドナはんにはレドナはんの今できることをすればええやろ。それがPTっちゅうもんや」

「クルーゼニガー……」


 ちょっと良いことを言ったなという表情のゼニガーは言葉を続ける。


「知らんけど!」

「このたこゼニガー」

「あ、たこ言うたな! たこ言う方がたこなんや、このたこ人形!」

「たーこ、たーこ」


 落ちかけた志気が元通りになったと感じたミースは、このPTメンバーに感謝をした。


「よし、進もうか!」

「せやな! 気合いで突破やー!」

「お~」


 そして、避けられない通路の真ん中にいたのは、見たことが無い敵が混じるPTだった。


「あれは……ナイチンゲール?」


 看護師の女性をかたどった白衣の自動人形のモンスターである。

 それだけならいいのだが、全体的に異様な印象を受ける。

 なぜか頭部だけが鳥なのだ。

 その奇抜な特徴のため、事前情報に記されていたモンスター名を当てられた。


「当機の方が可愛いでありますな」


 なぜかレドナが自動人形同士張り合おうとしているが、それは気にせず戦闘開始することにした。

 ゼニガーは盾を前にして、敵PTに突っ込んで行く。

 一斉に殴られるが耐える。

 敵PT構成はナイチンゲールが1,ゴロストン1,レッドグーミスライム1,それとリビングデッドナイト――の鎧無し版なのでただのリビングデッドが1だ。

 ただのリビングデッドなら、攻撃がどこにでも通る。

 技量もナイトと違ってそこまで高くないが、それでもゴロストンなどよりは厄介なので先に倒したい。


「星弓……!」


 安全な位置からレドナがリビングデッドの肩を撃ち抜く。

 腕をだらんと弛緩させた格好になっているので、充分に効いているのだろう。

 これを起点に攻めていこうとミースが前に出るのだが――


『ナイチンゲール……ヒーリング……実行……』


 ナイチンゲールの手の平の部分がカパッと展開して、淡い輝きを放つ。

 すると、輝きを当てられたリビングデッドの傷が即座に癒やされていった。


「くっ、回復魔術か!」


 ヒーリングは初級回復魔術だ。

 魔術の素質がある者なら、比較的簡単に習得できる。

 その効果は傷口を一瞬で塞ぎ、すぐに戦闘復帰をさせられるという優れものだ。

 ただし初級なので処置できる傷口の大きさには限度があるのと、受ける側のスタミナが消耗させられる。

 戦闘中は圧倒的にポーションより有利だ。


「危ない! ミースはん!」


 腕を回復させて隙のなくなったリビングデッドの目の前に躍り出てしまった無防備なミースだったが、横からゼニガーが身体を張って庇った。


「助かった! ゼニガー!」

「た、盾役やからな……!」


 ゼニガーの身体から血液が滴り落ちているのが見えた。

 ミースはハッとして、すぐに後退する指示を出す。


「いったん引こう!」

「わ、ワイはまだ……」

「クルーゼニガー、艦長の命令は絶対です」

「だ、誰が艦長や……誰が……って、おい……!?」


 まだ戦おうとするゼニガーを、レドナが米俵のように片腕で抱え上げる。

 そのまま後方へ走る。

 殿を務めつつ、ミースも撤退を開始する。


「くっ、前方に先ほどとは別個体のナイチンゲール一体を確認したであります」

「無茶だ、レドナ! 片腕が塞がってて星弓は使えな――」

ZYXジックスパンチ!」


 そんなわけのわからないことを言いながら、レドナは空いている片手でダッシュストレートパンチを決める。

 頭部にクリーンヒットしたのか、ナイチンゲールは一撃で倒れた。

 邪霊が出現。

 ミースが走り寄って一撃で破裂させる。

 ドロップアイテムは球状の何かだったのだが確認している暇はない。

 拾って走る――

 後ろからやってくるかもしれない敵PTを引き剥がすために。

 三人は何とか第二階層の入り口聖域まで戻ってきていた。

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