最強のひのきの棒は友を守るためバスタードソードを砕く

「ミースはん、どうしてここに……?」

「決まってるだろ、友達を助けに来たんだ」

「こ、こんなワイのことを……友達と……」


 涙でグシャグシャの顔になっているゼニガーは面白かったが、ミースは敵に囲まれているのを忘れてはいない。

 明らかに筋力が高そうな厳つい男が四人。

 それと遠巻きに見ている鑑定士。

 倉庫の中にはまだ人の気配もある。

 このままゼニガーを連れて逃げても、二人だと追いつかれてしまうだろう。

 ここで倒すしかない。


「へっへっへ、突然現れた小僧。仲間想いなのは良いことだが、オレたちは元騎士でなぁ……王宮剣術を使えるんだぜぇ……。さっきは意表を突かれたが――」

「てぇいッ!!」


 何やら口数の多い男目掛けて、ミースは懐に飛び込む。


「なっ!? はえぇ!?」


 ミースの手には、ゼニガーが持ち込んだのとは別に三本目のひのきの棒+99があった。

 それは昨日のダンジョンのドロップした素材があったので、追加で作った物だ。

 下段から上段への一振り。

 男のアゴをパカンと強打。


「ぐへぇ……ッ」


 男は一瞬で気絶した。


「王宮剣術? 俺は――五年間鍛え上げた我流剣術だ!」

「クソッ、舐められたままじゃ終われねぇ! 痛い目を見せてやるぜ!」


 残り三人の男たちが一斉に襲いかかってきた。

 王宮剣術らしく、息の合った三人の振り下ろしだ。

 武器はバスタードソード――いわゆる大剣というやつだ。

 威力的には馬も両断しそうな分厚い重さがある。

 それをミースは避けない。


「なっ!? このガキ、避けない!? しかも異様な構えを!?」


 ただ身体を思いっきり捻り、全身をやわらかいバネのようにイメージして力を溜め込み、足先から脚、胴体、腕、手先へ――そしてひのきの棒へ魔力を極限集中させて力を解放する。


「我流――〝日ノ軌ひのき〟!」


 金属片が散らばる。

 迫っていた三本のバスタードソードが砕けたのだ。


「し、信じられねぇ!?」


 ミースの動きは、頭上から見るとまるで太陽の軌跡を描くような形をしていた。

 ひのきの棒+99が弧を描き、それがバスタードソード三本を同時に粉砕していたのだ。

 男たちは唖然とするしかない。


「まだやる?」


 その雰囲気は普段のミースとは違う、鞘を外されたような刃物の鋭さが込められていた。

 いつでも生殺与奪できるという圧倒的な差だ。

 これにて決着――と思われたが。


「いや~、うちの者を虐めんのはそこまでにしてもらいたいねぇ……」

「!?」


 声が聞こえた。

 それは真横からだ。

 ミースは耳元で気配無く囁かれ、ゾワッとして急いで振り向く。


「やぁ」


 そこには三十代前半、整った目鼻立ち、金色の眼、赤い髪をした背の高い男がだらしなさげに立っていた。

 仕立ての良い白いフリルシャツを着ているのだが、ボタンを開けて胸元をだらんとさせて着崩している。


「おやおや、そんなに警戒しないでよ。ほら、素手だよ」


 だらしない男は両手を上にして、何も持っていないことをアピールした。

 しかし、ミースからしたらそれが恐ろしい。

 素手相手に簡単に殺されるイメージを見せられたからだ。


「うちの村の先生並みに警戒するよ……」

「戦うってことは無益だからね。そちらも手打ちにしてくれると助かる。それに僕たちは口が硬いから、も心配しなくていいよ」


 明らかにどちらが助かるのかというのを理解しつつ、ミースは構えを解いた。

 すべてを見透かしてきているような発言。

 いったい何者なのかという疑問が浮かぶ。


「だ、団長!!」

「こら、団長言うな。もう僕たちは闇商人なんだからね」


 元騎士が団長と呼んだということは、騎士団長だったのだろう。

 国の武力を象徴する実質的なトップだ。


「ああ、キミたち二人悪かったね。もう帰っていいよ」

「いいんですか、団長!?」

「だから団長言うな。将来性ある、いや、将来性ありすぎる若人に対しては粉をかけておくもんだよ」


 ミースは圧倒的力量差に世界の広さを感じながら、お辞儀をしてから去ろうとした。


「ああ、キミたちの名前を教えてくれるかな?」

「ミース・ミースリー」

「ぜ……ゼニガー・エンマルクや……」


 だらしのなかった男は鷹のような笑みを見せた。


「僕はハインリヒ。何かあったらまた来ると良い。今度は剣でなく、自慢のお茶と甘い甘~いお菓子で歓迎しよう」

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