ゴロストンのダンジョン
「突然なんやけど今、ワイらはゴロストンのダンジョンに来ているでぇ……!」
ゴツゴツとした岩で作られたダンジョンを進む三人。
その前列でゼニガーがひのきの棒を
「何をやっているのさ、ゼニガー?」
「どこかに頭部をぶつけたでありますか?」
「う、うっさいわ! 冒険小説の主人公気分でナレーションや! さて、ワイらが、そもそもゴロストンのダンジョンに来た理由は――」
ミースとレドナは溜め息を吐きつつ、そろそろノリに慣れてきているのでBGM代わりに聞きながら歩く事にした。
エアーデから渡された攻略情報の中に、聖杯のダンジョンボスは近接麻痺攻撃を使うとあったのだ。
麻痺とは状態異常の一種で、食らうと身体の動きがかなり制限されてしまう。
ボスということなので、盾役のゼニガーが麻痺をしてしまえば壊滅は必至だ。
そこで耐麻痺の指輪というドロップ品が有名なので、どこかに売っていないか探したのだが、運悪く品切れ中だった。
魔石で耐麻痺スキルというのを考えるも、出回っているランクの魔石ではスキルが付いていなかった。
23日――つまり3日後正午の結婚式を阻止するためになるべく急ぎたいミースだったが、さすがに万全で挑まなければならない聖杯のダンジョンの〝仕組み〟があった。
その〝仕組み〟自体はどうしようもないので、耐麻痺の指輪がドロップするダンジョンに1日、聖杯のダンジョンに2日(と正確には正午まで)をかけることが決定した。
「――そして、今潜っているダンジョンが耐麻痺の指輪がボスドロップする〝ゴロストンのダンジョン〟や!」
「わーわー」
「ぱちぱち~」
ノリノリのゼニガーに対して、ミースとレドナは優しく盛り上げてやっていた。
「……にしてもや、丁度運良くゴロストンのダンジョンの依頼があってよかったなぁ。報酬は安いけど、ついでやし」
どうやらゼニガーは
「うん、このダンジョンのボスを倒してくるだけでよくて、ドロップ品も全部くれるんだから楽だよね」
「何やワケありっちゅう感じだったけど、冒険者ギルドの常連さんらしいから罠みたいな依頼でもなさそうや」
「報告の際にでも事情を聞くであります。我々は、我々の目的を果たしましょう」
「そうだね――おっと、アイアンゴロストンだ」
道の曲がり角から、ミースだけが感知できる程度の微音が聞こえてきた。
さっそく、大収納のチョーカーに付与した音感知が活躍したようだ。
「おっ、ミースはんすごいなぁ。普通なら意表を突かれて不利な戦闘に突入するところやったでぇ」
ダンジョンではどうしても死角が多いために、レベルの高いパーティーでも意表を突かれて簡単に全滅ということもざらにある。
そういう意味で索敵系スキルというのは、何より強力といっても過言ではないだろう。
「それじゃあ、三人で戦ってみよう!」
「それも目的やからな!」
ミースは思い出していた。
まだ三人でダンジョンに潜ったことがないとエアーデに言うと、『それはいけませんね。まずは手軽なダンジョンでコンビネーションを確かめないと取り返しの付かないことになります』と言われたのだ。
それもあって、比較的難易度の低いゴロストンのダンジョンに来ているというのもある。
「ほな、ワイが前に出て盾になるでぇ!」
「任せた!」
ゼニガーが青銅の盾+99を構え、アイアンゴロストンに立ちはだかる。
このアイアンゴロストンというのは、『コロコロと転がる石っぽいの』で有名なゴロストンの鉄バージョンだ。
しかし、それだけで単純に防御力が高く、しぶとい敵となっている。
攻撃力は低いので、三人で色々と試すにはもってこいだ。
「おっほぉ、やっぱりワイを狙ってくる! ヘイトアップの効果はすごいで――でぇっ!? いだい!!」
ゼニガーが痛みで声をあげたのは、アイアンゴロストンの攻撃を受けたからではない。
味方側の位置から攻撃されたからだ。
「クルーゼニガー、邪魔です」
「ワイごと撃つなや!?」
レドナの星弓が、ゼニガーの背中に当たっていたのだ。
そんな口論をしていると、アイアンゴロストンがゴロゴロと転がってきた。
気を取られていたレドナは吹き飛ばされる。
「お、お気に入りの服が……」
「ダーッハッハッハ! ワイを撃った罰や! それにワイと違ってレドナはんは装備を付けられへんからなぁ~! ミースはんが作った装備を、ワイと違ってなぁ!」
「カチーン」
所々破けた服を隠しながら、レドナは怒りの表情を見せていた。
一触即発で仲間内のバトルが始まりそうだったが、ミースはそんなことを気にせずにアイアンゴロストンに一撃を加える。
打撃に弱いゴロストン族だったため、その一撃で倒すことに成功した。
ドロップしたのは鉄つぶてが複数個。
ミースは笑顔で収納していく。
「暇が出来たら合成してみよっと……! それにしても、盾と弓の二人は相性が悪いみたいだね」
「最悪や!」
「最悪であります!」
それなら――とミースは村の先生の話を思い出した。
「えーっと、『世の中には頭で考えてうまくいくタイプと、実際にやってみてうまくいくタイプがある』らしいよ。たぶん二人は実際にやってみたらうまくいくタイプだよ、きっと!」
二人は嫌そうな顔をしていた。
「というわけで、俺は索敵だけするから、実際に戦うのは二人に任せたよ!」
「「えぇ~……」」
その嫌がる声だけは二人の息がピッタリだった。
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