レベルも999
「エアーデはん、また新規冒険者や。よろしうな~」
「あ! ミース君とゼニガー君! 前回は逃げられましたが――って、誰ですかその美人!? 舞台女優さんですか……?」
ギルドのカウンターに向かい、受付嬢のエアーデに話しかけたのだが、何か混乱させてしまったようだ。
それもこれも口を開かなければ人を惑わせる美しさを持つレドナが悪いのだ。
「マスターミースの姉です」
「……マスター? ええと、お姉さんでしたか……」
事情を知らないエアーデからしたら、弟のことをマスターと呼ぶヤバい美人だ。
脳がバグる。
しかし、受付嬢のプロとしての矜持がある。
ここは冷静に対応しなければと奮闘する。
「え、ええと、ではこちらの水晶に手を乗せてください」
「了解」
水晶はノイズ混じりの輝きを放つが、無事に冒険者カードが作成された。
エアーデがそれを確認する。
「御名前はレドナ・ミースリーさんですね」
ミースとゼニガーは、きちんと名前が改ざんされていたことにホッとした。
「レベルは――ゲッ!? 999!?」
「ぶはっ!?」
「なんやて!?」
――ホッとしたのもつかの間で噴き出してしまう。
さすがにレベル999というのはあり得ない数字だ。
レドナは何故か誇らしげにしていたが、二人の刺すような視線で不味いと気が付いた。
そして、棒読みしながら冒険者カードをひったくる。
「え~、当機のレベルが高すぎるって~? おっかしいでありますなぁ~?」
再び改ざんされる冒険者カード。
99の部分が消され、レベルは9になった。
それをレドナが、エアーデに突き付ける。
「見間違いでありますとも、ええ!」
「れ、レベル9ですね……最近、疲れが溜まっているのかもしれません……。有給、使おうかな……」
エアーデは眉間を指でムニムニしながら、社会の闇のような溜め息を吐いた。
受付嬢というお仕事も大変なのだろう。
そんな事は露とも知らず、社会経験皆無の三人は悪魔討伐の件を切り出す。
「エアーデはん、ワイら悪魔を倒してきたんやけど、それの死骸引き渡しと報酬の受け取りに来たでぇ」
「えっ!? あれって国からの特例クエストですよ!? それを!?」
「あ~……そうやったんか。それだったら穏便に話した方が――」
そのゼニガーの話を聞く前に、ミースは大収納から悪魔の死骸を取り出していた。
冒険者ギルドの天井に届きそうなそれが突如として出現して、周囲はどよめいた。
「アホかミースはん!? 何をやってんねん~!?」
「あ、ごめん」
それを見ていた冒険者たちは『な、なんだアレは……!?』『すげぇ、もしかしてあの三人パーティーでやったのか!』『悪魔って噂でしか見たことがない……』と話題にしていた。
「と、とりあえず、エアーデはん。頼むわ……って、エアーデはん!?」
エアーデは一日の驚き許容量を越えて、泡を吹いて気絶していた。
「あぶぶぶぶぶ……」
「エアーデはーん!?」
悪魔の死骸は冒険者ギルドに併設された倉庫のような建物に運ばれ、そこで解体されることになった。
ミースたち三人は応接室に通され、茶を出されていた。
「はぁ~……。受付嬢、辞めようかな……」
「エアーデさん、大丈夫ですか? お姉さんみたいな素敵な人を困らせてしまってすみません……」
「お、お姉さん……素敵な……」
エアーデは、年下のミースからそう言われて頬を赤く染めていた。
彼女からすればミースは期待のルーキーで、それでいて性格も増長せず慎ましやかで、どこか愁いのある美少年という認識だ。
もう少し頑張ろうと思えた。
「大丈夫! お姉さん、きっちり仕事はこなすから!」
「姉は当機です」
「じゃあワイもミースはんのアネキっちゅうことで」
ミースとしては、みんな姉ではないと突っ込みたかったのだが、ややこしくなりそうなので黙っていた。
「あ、それで冒険者カードの記録から確認が取れましたので、こちらが報酬です」
「うわっ!? こんなに!?」
大きな果物サイズの布袋に金貨が詰まっていた。
さすがに世間知らずのミースでも、かなり価値があるとわかる。
「ご、ご飯何日分くらい食べられるんだろう!?」
「アホか!? しばらくは遊んで暮らせるくらいの大金や!」
「キンキラキーン」
三人のリアクションはそんな感じだった。
ミースはいったん心を落ち着ける。
「三等分でいいのかな。それとも、あれを倒したのはレドナだし、レドナ一人にでも……」
「当機の所有者はマスターミースです。マスターミース一人で受け取るのがよろしいかと」
「えぇっ!? ワイの分は!?」
レドナが、食い下がってきているゼニガーの顔面を手で押さえている。
ミースはしばらく考えたあとに答えを出した。
「それじゃあ、俺一人が受け取る」
「そんな、ご無体なミースはーん!」
「で、そのあとに三等分して、二人にも渡す。これでいいかな?」
「見事なご采配です」
「さすがミースはんや! ワイは信じとったでぇ!」
どの口が言う、とゼニガーはツッコミを食らっていた。
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