聖杯のダンジョンへ突入

「それでミースはん、愛しのプラムミントはんの様子はどうやったん?」


 ――聖杯のダンジョンへ出発前、偶然にもミースたちはプラムを見つけた。

 ミースは会いに行くか迷ったのだが、仲間の二人が背中を押してくれたのだ。

 そして、今も待ってくれていた。

 プラムと会えて英気を養ったミースは、良い顔で返事をした。


「自分一人で立てるって言ってた! これで全力で聖杯のダンジョンに潜れるよ」

「当機はその方と直接お話ししたことはないのですが、とても心が強いでありますね」

「世界中の誰よりも心が強くて、優しいのがプラムだよ」

「ふふ、マスターミースは嬉しそうに話す。これは助け出したら、姉も交えて家族会議でありますね。楽しみであります」


 レドナはドヤ顔で姉面をしていた。

 ミースとしては、家族会議というところがわからないので、とりあえずウンウンと相づちを打つ。


「ほな、そろそろ聖杯のダンジョンへ出発しよか」

「そうだね! 馬車も待たせてあるし!」


 エアーデから見せてもらった資料によると――聖杯のダンジョンは、始まりの町アインシアからそう離れてはいない。

 道をよく知る御者を付けて、馬車を走らせればすぐだ。

 帰りもボスを倒した時点で転移陣が出現し、そこに乗れば町の転移用クリスタルへと戻ってこられる。




 ***




 しばらく馬車に揺られて森の中を進んでいくと、聖杯のダンジョンに到着した。

 御者が不安そうに話しかけてくる。


「あんたたち、本当に聖杯のダンジョンに潜るのかい……?」

「はい! 潜って最後まで攻略してきます!」

「馬車のお金をもらってるから言いたくはないんだけど、止めておいた方がいいよぉ……。昔から強そうな冒険者が、もっと大人数で入ってもすぐに青い顔で出てきちまう。それに最近なんて――」


 御者が言い淀んでしまう。

 不安に思ったゼニガーは、ダンジョン内で気にし続けるのなら――と今聞いてしまうことにした。


「な、なんや? 最近、何かあったんか?」

「領主様お抱えの兵士たちが入って、そのまま全滅していたよ。蘇生ができないここじゃ――死だ。そいつらが夜な夜な化けて出てくるらしい……聖杯を寄越せ~ってなぁ……」

「ひえっ」


 話の内容もあったが、御者の喋り方も怖かったのでゼニガーはビクッとしてしまう。

 レドナは表情を変えなかったが、無言で震えながらミースに抱きつく。


「な、なんで自動人形のレドナはんが怖がっとんねん……?」

「ととととととと当機は高性能ですので」


 そこでゼニガーはハッと気が付いた。

 怖がった振りをして、今ならまだ抱きつけるチャンスなのでは? と。

 ゼニガーは実行に移そうとしたが、レドナに押しのけられた。


「……二人とも何をやってるの。ええと、御者さん。俺たちは大丈夫です……っていっても、みんな同じ事を言ってそうですが」

「はは、そうだよ。見送ってきたみんなは、そう言って何百年間もずっと死んでいったのさ」

「何百年間……?」


 御者はまるで自分が見てきたかのような言い方だったが、特に気にしないでおいた。

 ミースたちが降りると、馬車は森の中へと消えていった。


「さてと、このほこらから最初の階層へ行けるけど……何か骨が落ちてるね」

「ひぇぇぇ、人骨や!」

「リン、カルシウム、タンパク質……骨であります!」

「そう言っとるやないかい!」


(うーん、このボロボロの服、どこかで見たことが……あっ)


「さ、さてと、先へ進もう!」

「ミースはん!? 何か気が付いたような顔!?」

「き、気のせいだよ。早く行こう!」


 人骨が先ほどの御者の服を着ているような気がしたが、絶対に怖がらせることなので言わないようにしておいた。

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