第6話 大倉君の人気

「吉森さんおはよう。」

「おはよう」相変わらず森田君は毎日話しかけてくれる。

「マネージャーやってくれるんだって。助かるよ。」

「こちらこそよろしく。ありがとう最初に誘ってくれて。」

「あ、うん」ヤバイ…笑ってはくれていないが、ありがとうって言われた…。何だろうすごく嬉しい。なんか毎日喋りかけても反応イマイチだったのに、急に自然に話されてビックリした。俺の努力報われた?


 部活に行くとマネージャーの女子は三人のはずだが、入り口に女子が大勢でこちらを見ている!そうかこの人達みんな大倉君目当てのギャラリーなんだ。

「凄いでしょ。」

「あ、小宮山さんだよね。」

「楓でいいよ。七瀬だよね。よろしく。一緒にマネージャー出来て嬉しいよ。あのレシーブ最高だったし。」

「あれは、たまたまだから。」

「女子バレー部から誘いが来ても行かないでよ。」

「行かないよ。もう自分ではやりたくないんだ。」

「もったいないけど、私は嬉しい。あのギャラリー怖いでしょ。私中学の時から大倉と森田の噂は聞いてたんだよね。特に大倉は大会でも人気だったから試合行った時も、他の学校からもいっぱい声援受けてたよ。うちらがマネージャーになったんだから始まったらドア閉めちゃえ。モテすぎるのも可愛そうだよね。」

「楓はキャプテンの彼女なんでしょ。」

「うん。その事澤奈先輩から聞いた?そうだよ。でも部活ではイチャイチャしないから安心して。」

「いや、別にそれは全然いいけど。いいねラブラブ。」

「七瀬は男の人苦手なんだって?もったいない可愛いのに。澤奈先輩が七瀬に触るなよと部員を脅してたから安心してマネージャーやって。そのうち慣れるよ男子に。」

「うん。ありがとう。リハビリ頑張る。」

「ちなみに一年部員はいいやつ多いから、なるべく喋るといいよ。」

「そうだね。慣れていかないとね。」

 練習の途中タオルで顔を拭きながら、奏はタオルの隙間から七瀬を見ていた。なぜか目が行く…冬夜がいい、いいって言うから俺まで目が行ってしまう。別に好きだという感情はないが、ふと気がつくと吉森を目で追ってしまう…冬夜が思いっきり笑った顔を見てみたいとか言うから、いつ笑うのかとつい見てしまう…何で俺が気にしてるんだ…アホらしい。

 

 窓の隙間からファンが騒いでいた。マネージャーがドアを閉めてしまったもんだから、下の小窓から顔がいっぱい見える。ホラーみたいだ。でもキャプテンの彼女だけあって強気でギャラリー女子応対の仕方はありがたいしすげえ助かる。その代わり文句もいっぱい聞こえてくるけど俺はこの方が集中できる。

「奏くんの近くに行けてマネージャーってずるいよね。奏くんと話したりしたらただじゃおかないから。」

 そんな会話を聞くと意地悪で、マネージャーに親しげに話しかけようかと思ったが、彼女らが文句を言われるだけだからやめておいた。

「あれ?そういえば成美、マネージャーの体験行ってなかったっけ?何?落ちたのオーディション。」

「あいつのせいでね。余計なことして奏くんの近くに行くの邪魔された。あいつが目立ったせいで私が落ちた。邪魔しなければ私が受かったかも知れないのに。」

「そうなの?」

「そうだよ。あっちの出方によっては許さないんだから。絶対私がマネージャーになって奏くんの近くに行く。」

「が、がんばって。私は見ているだけでいいわ」怖いよ。


 毎日のように、みんなから見られ続けている大倉くん…大変だ…油断できないもんね。ちょっと可哀想に思えてきた。出待ちがいたりして、プレゼントを渡されて本当にアイドルだみたいだ。でもいつももらう筋合いはないと言って、プレゼントは受け取ってない。なんかどっちも可哀想だ。アイドルならマネージャーがいて仕切ってくれたりするからいいけど、全て自分の身に降りかかるってキツいだろうな。

「何、どこみてんの?奏?」

 急に後ろから話しかけられてびっくりした。

「あ、森田くん、お疲れ様。」

「吉森さんもお疲れ。初日疲れたでしょ。」

「ううん。全然大丈夫。」

「大変だろ、奏。昔からあんな感じでさ。言い方がキツくなったのもしつこすぎる女子のせいなんだよね。」

「あんなにモテるとプライベートなくて大変だなって思ってた。だって人間だからおならしたり、鼻くそほじったりするわけでしょ。全部見られちゃってるんでしょ。こっそり出来ないって、私なら耐えられないなって思って。」

「ははは、吉森さん面白いね。鼻くそって何で例えがそれ?着替えるの見られるとかならわかるけど。」

「あ、そうだね。」

 めちゃめちゃ笑われてる。恥ずかしい。確かに馬鹿な事を言っちゃった。

「あ、そろそろ奏を救出しないとキレちゃうから俺行くね。じゃあまた明日。」

「うん。さよなら。」キレる?

「はいはい、そこまで」群がる女の子たちを森田くんが帰らせていた。プレゼントは森田くんが代わりに受け取っていた。大変だね…本当に。女の子たちと鉢合わせしない様に急いで帰った。

「冬夜、サンキュな。もう少しで怒鳴るとこだった。」

「中学時代も怒鳴って、キレて眉間にシワ寄ってたもんな。でも一回ぐらい切れてもいいかもよ。まあでも毎回毎回よく来るよな。」

「本当だよ。暇なのか?まったく何がいいんだか。」

「それ、お前が言う。学校の男子全部、敵に回すぞ。顔しかねえだろ。」

「ああそうかい。どうせ俺は顔だけだよ。そういえばお前さっき吉森といて、すげー笑ってなかったか?」

「あ、あれな。吉森めちゃ面白かったぞ。奏がさ、いつも女子に見られてんじゃん。プライベートなくて大変だねまでは普通だったんだけどさ、おならしたり鼻くそほじったり出来ないでしょとか言ってんだぜ。変じゃね。例えがさおかしいよな。ツボに入って大笑い。」

「鼻くそって…俺は人前でそんな事しねえよ。」

「だろ。するの前提で喋ってんだよね。大人しいのかと思ってたから意外だった。」

「変なやつ。」

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