第30話 美幸のもとへ

 奏はバーコードを通してエレベーターに乗った。パスの裏を見ると705と書かれていたので7階のボタンを押し上がって行った。エレベーターを降り、野村美幸の部屋に向かった。

「個人部屋なのかよ。すげーな。」

 コンコンとノックをすると、「どうぞ」野村の声が聞こえた。

「失礼します」と部屋に入ると野村は驚いて

「誰?え、大倉君?」

「マスクとメガネなのによく分かったな。」マスクを取った。

「きゃー本物。なんでなんで!」

「ずいぶん元気だな。騒ぐなよ。人来るだろ。吉森の代わりに来た。」

「え、どうして?」

「吉森が岡崎に付けられてた。この携帯電話のせいか?」成美に携帯を渡した。

「付けてたの!なんなのあいつ!まあ入れないとは思うけど。携帯電話よく見つかったね。すごいね、ありがとう。」

「まあ、俺も探したから。」

「こんな時に聞くの変だけど、大倉君と吉森さんって付き合ってるの?」

「確かにこんな時によくそんな事聞くね。付き合ってはいないけど、俺は吉森に気がある。吉森はどうだか知らないけどな。」

「うわ!うわ!なんか照れる。大倉君が普通の男の子に見える。」

「俺はいつでも普通だよ。勝手に色眼鏡で見てるのそっちだろ。そんな事より岡崎の事は大丈夫か?一応岡崎を巻いては来たけど病院はバレてるよ。」

「そうだね。でも大丈夫。この携帯電話があれば。お母さんに言って少し懲らしめてやるから。」

「そうだな。早く見せてどうにかした方がいいと思うよ。」

「ありがとう。大倉君。あの時は動画撮ろうとしてごめんなさい。あの後すごく反省した。」

「どうせ言われてやったんだろ。あの事はもう気にしてないよ。」

「なんか大倉君、ちょっと雰囲気柔らかくなったね。」

「そうか?そうだとしたら吉森のおかげかもな。」

「うわ!のろけてる。」

「別にそんなんじゃねーよ。早く治るといいな。」

「ありがとう。大倉君、今から電源入れるから画面の写真で撮っておいてくれない?もしも手違いで消えたら嫌だから。」

「いいよ。分かった。」

 美幸は携帯の電源コードを差し込み充電を始めた。五パーセントまで充電がされた所で携帯の電源を入れた。グループのメールを見ると美幸が電源を切った後の酷い会話が続いていた。自殺をわかったあたりの日付から、もう何も会話はなかった。美幸以外のメンバーは退出をしていた。多分新しいグループを組んだのだろう。美幸は大倉に画面を見せた。

「じゃあ、お願い。」

「分かった。」

 奏は携帯を受け取り画面をカメラに収めた。

「なんだこのメール酷えな。俺の事でなんでこんなに騒ぐのか、全く意味が分かんねえよ。」

「岡崎さんは私から見てもおかしいと思うよ。あの人は完全にストーカーだと思う。大倉君気をつけた方がいいよ。吉森さんの事を好きだなんて分かったら何するか本当にわからないよ。」

「分かった。気をつけて行動するよ。」

「今日は本当にありがとう。変装して帰ってね。」

「お大事に。」

 奏が出て行くと、美幸はため息をついた。緊張した…さすがにカッコ良すぎて普通に喋るだけでもドキドキした。いいな〜吉森さん、あんな人に好かれて。でも吉森さんもいい人だし、お似合いだな。さあ私は私で行動を起こさないと。早速、美幸は母親に電話をした。


 七瀬を付けている成美は方向的に家に向かっているのが分かったので、忘れ物ならまた病院に来るのではないかと考え、これ以上付けても仕方が無いかと考え、病院に引き返した。病院の入り口が見える外のベンチに座るとじっと七瀬が来るのを待っていた。でも今一番心配なのは野村美幸の事ではない。いじめた位では多少色々と言われるかもしれないがそんなに大した事でもない。それよりも森田の方だ。意識不明だが生きている。目を覚ましたら自分が突き飛ばした事を言われてしまう。そちらの方をどうにかしなければならない…どうしよう…どうしよう。考えても何も思い浮かばない。でも森田はまだ目を覚ましていないから、取りあえずこちらを先に解決しておかないと。吉森に何を頼んだんだろう。考え込んでいると美幸の母親が受付にいるのが見えた。母親はメールの事を知っているのだろうか?でももし知っていたら何か自分に言ってくるはずだ。何もないという事は知らないと考えても大丈夫だろう。成美は受付に走って行き、美幸の母親に話しかけた。

「こんにちは。私の事分かりますか?」

「えっと…前に会ったことあるわよね。」

「はい、美幸さんの友達の岡崎です。」

「あ、ああ岡崎さんね。どうしたの?何で美幸がここにいる事知ってるの?」

「連絡をもらって、いつかお見舞いに来てねと言われていたのですが、なかなか来られなくて。今日ちょうど都合がついたので、驚かそうと連絡を入れないできました。」

「あ、そうなのね。じゃあ今から私も行くから一緒にどう?」

「あ、いいですか。お願いします。」

 成美は美幸の母親と一緒にエレベーターに乗り込んだ。

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