第29話 尾行
次の日の朝、学校へ行くと珍しく森田君と大倉君が二人とも来ていなかった。どうしたのだろう?森田君は昨日会ったばかりだし、元気そうだったけど体調崩したのかな?と考え込んでいると、
「七瀬、ちょっと来て」カルが教室のベランダに七瀬を引っ張って行った。
「どうしたの?」
「昨日森田が交通事故にあったらしい。」
「えっ!」
「大きい声出さないで。まだみんな知らないから。お父さん警察官だからさ。私と同じ学校の子がひき逃げにあったって聞いたらしくて。」
「私、昨日の夜に森田君と会ってたんだよ。もしかしてその帰り?そう言えばサイレンが鳴った。」
「場所を聞いたら七瀬の家の近所だったから、もしかしてとは思ってたんだけどやっぱりそうなんだ。」
「でもバイバイしてから大分たってからサイレンが聞こえたから、まさか森田君が事故にあってたなんて思わなかった、具合はどうなの?大丈夫なの?」
「まだ意識不明らしいんだけど、とりあえず助かったって。」
「意識不明!ど、どうしよう。私のせいだ。私を家に送ってくれたから。」
「事故は七瀬のせいじゃないでしょ。今、ひき逃げ犯を探してるらしいよ。あの辺、細い道で車通りが少ないし暗いから、監視カメラがあまりついていなくて探すのが難しいみたい。」
「会いに行きたいけど、お見舞い行っても大丈夫なのかな。」
「お父さんに聞いてみるよ。私も行きたいし。」
担任の先生が教室に入って来たので席についた。
「出席を取る前に報告する事がある。昨日の夜、森田が交通事故にあった。意識不明の重体だと聞いた。今の状況ではお見舞いとかはきついかもしれないな。意識が回復して行ってもいい状況になれば知らせるので、心配だろうけど我慢してくれ。」
すぐにでも行きたい所だが大倉君に確認してからにしよう。とりあえず今日は野村さんの所に行って携帯電話を渡さないと。
奏は冬夜が入院している病院に来ていた。学校に行こうかと思ったが、いても立ってもいられなく休んでこちらに来てしまった。意識不明まだもどっていないが、何となく近くにいたかった。冬夜が事故にあったのは昨日の夜。それも吉森の家の近く…会っていたのだろうか。時間的に吉森のバイトが終わって家に帰る時間に近い。冬夜が送って行った後に事故に遭ったのは確かだろう。吉森にも話を聞きたい。あとで連絡をいれよう。
お昼にカルとご飯を食べていた時に大倉君からのメールを受信した。
「今日、学校の帰り会える?」
「野村さんの所に携帯を届けに行くからその後なら大丈夫。森田君のところに行っていたの?」
「うん。終わったら連絡して。」
「わかった。」
森田君の状態を知りたかったから、大倉君から連絡して来てくれて良かった。とりあえず野村さんの所に行ってから。学校を出て病院に行く途中でお菓子を買った。前に差し入れをした時に野村さんが喜んでくれたので少し多めに買いこんだ。コンビニを出ると自転車に乗り病院へ向かった。
奏は先に野村美幸の病院へ来て待っていた。この病院には大きな庭があり病室に行くには、ここを必ず通るので、見ていればわかると思ったからだ。そんなに長い時間かかる事もないだろう。誰かに会うのも面倒だったので、メガネとマスクをして座っていた。時間を見ると午後四時を回った所だった。十分ぐらい経っただろうか、コンビニの袋を持った吉森が現れた。あの袋はお菓子か…まさか長話になるのか?仕方がないそれでも待つしかない。とりあえず声をかけておけば時間を見て切り上げて出て来てくれるかしれないと思い、声をかけようと立ち上がった。二、三歩、歩いたところで吉森の事をじっと見て後ろから歩いている岡崎成美を見つけた。
「あいつ、吉森を付けて来たのか?」確か野村は指定した人しか入れないようにしていたはず。入り口から中には入れないだろう。諦めて帰るかもしれない。野村に会いに来た事を知っているのだろうか?でもそれならまずいな。
「電話通じるかな?せめてメールでも」とりあえず電話をかけた。
「もしもし大倉君?どうしたの?」
「良かった出てくれて。今どこにいる?」
「今、受付終わってエレベーターの前。」
「良かった。一回電話切るから、誰もいない所で電話して来て。岡崎につけられてるぞ。」
「え!そうなの。わ、わかった」どうしよう何で付けられたんだろう。このエレベーターは入院関係者がバーコードを通して乗れるものだから、岡崎さんはついて来れないはずだけど…もし見られていたら。喋っているのを聞かれても困る。エレベーターを避けてその先にあった一番端の椅子に座り大倉君にメールを打った。
「どこで見られているか…怖いね、私は帰るから大倉君が代わりに渡しに行って。学校に行ってないってことは私服だよね。メガネとマスク持ってる?エレベーターの奥の右奥の椅子に座っているからそこに来て。大倉君の姿が見えたら椅子に野村さんの携帯とエレベータに乗れるパス置くね。部屋番号とかはそのパスに書いてあるから、それ見て渡して来て。一旦家まで帰るからそのあと会おう。」
俺が行くの!まじか。しょうかねえか。「わかった」とメールを入れるとメガネとマスクをして歩き出した。岡崎はどこにいるんだろう。病院の中に入ると病室行きのエレベーターを見つけた。周りを見渡しても岡崎の姿は見えない。入り口の方にいるのだろうか。こういう時に背が高いのは不利だ…目立ってしまう。吉森が見えたので一度吉森から少し離れた所に座った。それを確認すると吉森は椅子に袋を置いて出て行った。コンビニの袋は持って帰ったみたいだな。吉森が見えなくなったので置いて行った荷物を持ってエレベーターの方へ向かった。
七瀬はまるで忘れ物をしたかのように鞄の中をあさったりして急いで帰るようなそぶりをした。自転車に乗ると家へ向かった。
岡崎成美は受付の所からエレベーターが見えるので受付近くの椅子に座って見ていた。すぐエレベーターに乗るのかと思っていたが、電話をすると一旦奥に入って行った。どっちにしてもそこからしか行けないはずなので待っていたがなかなか来なく、トイレにでも行ったのかとしばらく待っていた。出て来た吉森はエレベーターに乗らず鞄をゴソゴソ探ると首を傾けて、そのまま病院を出て行った。何か忘れ物?そのまま吉森を付けて行くしかないか。そのまま岡崎は七瀬について行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます