第28話 逆切れ
二人がゆっくりと歩いているのと、人がいて周りの音が結構するので、後を付けるのには楽だったが会話は途切れ途切れで聞こえづらい。
なぜ美幸は吉森に?最近、奏君と吉森が仲良くしていると噂を聞きつけ、バイト先から後をつけていた。初めは奏君が一緒にいるのかと思い、ムカムカとしていたが相手が森田だったのでホッとした。でも一応奏君の話題が出るかと期待していたが、まさか美幸の話がでてくるとは。頼まれ事と言うのもあの件に関連した事だと思った。
何となく嫌な感じがした…まさか携帯電話とか?実はなくしてないとか?でもグループのメールでも既読の人数も増えていないし考えすぎか…。今まで何もないのだから大丈夫だとは思うが、一度会って口止めしておかないと。あの感じだと吉森に聞いた所で言わなそうだし…帰り道にまた吉森を尾行するしかないか。森田とは普通に送って別れてしまった。奏君の話も出なくてガッカリだった。仕方がない奏君の家の前まで行って窓を見てから帰ろうと思い、家に向かう前にトイレにいっておこうと、近くにあったコンビニへ入った。そして自転車に乗り少し漕ぎ出した所で目の前に森田が立っていた。横を通り過ぎようとしたらがっちり自転車を掴まれた。
「何、俺たちの後つけてんの?」
「え、何言ってるの?」
「気付いてないと思ってたの?俺は最初から分かってたけど。あんな尾行バレるでしょ。何をこそこそかぎ回ってるんだよ。」
「森田君が奏君かと思ったの。吉森さんと付き合ってるのかと思って後をつけたの。」
「付き合っていたとしても普通付け回さないでしょ。完全にストーカーだよ。」
「いいでしょ。森田に迷惑だってかけてないし、関係ないでしょ。」
「奏と吉森さんは友達だし、付け回されていたらやっぱり気になるだろ。」
「吉森の事好きなんでしょ。あの子奏君しか見てないから。あんたが何したって無理なんじゃない。」
「お前にそんな事言われたくねえよ。俺、お前が横山先輩に何したか知ってるんだぜ。どう頑張ってもお前なんか奏に振り向いてもらう事なんて無いからな。もういい加減ファンクラブとか馬鹿みたいな事やめれば。」
「え、どう言う事?何で横山先輩の事知ってるの?」
「たまたまお前が一人で呟いてるの聞こえたんだよ。ちょろいってさ。」
「酷い。聞いてたの。奏君はその事知ってるの?」
「奏には話しはしてないよ。それに話はたまたま聞こえただけだし。でもどっちにしても初めからファンクラブなんかやってる女は眼中に入らないと思うよ。いい加減やめなよ。迷惑だよ。」
「森田に何がわかるのよ。私は奏君に近づく為にいっぱい努力してきたんだから。自分も磨いてお菓子作りだって上手になったし、これからやっとこちらを向いてもらおうと言う所なんだよ。」
「お前さ何にもわかってないよな。ファンクラブとか奏が嫌いだって見てればわかるだろ。そんなやり方で近付いたって何も進展なんてするわけないだろ。逆に嫌われるぞ。」
「だってどう近付いていいかわからないんだもん。全然喋ってくれないし。」
「そうさせたのはお前達だろ。普通に話かけてみれば良かったのに。好きですってハッキリ言った方が奏はちゃんと対応すると思うよ。あいつそんなに高飛車なやつじゃないよ。追っかけられたりするから嫌になるんだよ。」
「だって告白して振られたら生きていけないもん。」
「お前から告白しないんじゃ、奏からさせる様に仕向けるのか?どうやってこの悪い印象から抜け出すつもりでいるんだ?あんなファンクラブなんかやってたら話も多分聞かないぞ。芸能人じゃないんだから一般人でファンクラブとかあっても嬉しくないと思うよ。」
森田はきつい所を突いてくる。奏君の友達だから言っている事は全て合っているんだろう。みんなと騒ぐから強気でいられたのに、一人になったら近寄ることもできない。
「今度何かお前がやらかしたら、奏に横山先輩の事とか後をつけた事とか、みんな暴露するからな。もうファンクラブとかも解散しろよ。俺、奏の苦労みてるからさ、辞めてあげて欲しいんだよ。そういう事だから。じゃあな」冬夜は自転車を漕ぎ出した。
私の事何も知らないくせに勝手なこと言って!横山先輩のことを告げ口するとか何様!怒りが溢れ出す。成美は自転車を猛スピードで漕ぎ出し信号で止まっている森田に追いついた。
「あんたなんかに私の気持ちわかるわけない!」
「何だよ!突然。」
成美は自転車を降り冬夜に近付いた。車のライトが近づいて来る。車が大分近くなったその時、冬夜を自転車ごと思いっきり突き飛ばした。車の急ブレーキの音が響く。ドンと鈍い音がして冬夜は暗闇に飛ばされた。車はそのまま走り去り、成美は急いで自転車を漕いで暗闇の中に隠れる様に走り去った。
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