第27話 森田君の気持ち
毎日連絡をとりあっていたのに大倉君から連絡が来なくなってしまった。なにか怒らせただろうか?こちらから連絡を入れた事はなく、ひたすら連絡が来るのを楽しみにしていたので少し寂しい気持ちになっていた。あの日倒れ込んだ時に掴まれた腕の感触が抜けない。一番好きになってはいけない人を好きになってしまって、告白して振られたとして、この先好きな人が出来るだろうかと不安になった。そもそも私なんかが告白した所でどうにもなら無いかもしれないけど。私の事を意識していないからあんなに人懐っこくしてくれるけど、好きって分かったらもう話してくれなくなるかも知れない。そんなの嫌だ…でももし他の誰かと付き合ってしまうのも仕方がないけど悲し過ぎる。勇気が出たら告白して振られて諦めよう。指輪を外して大倉君を見ようかと思った時もあったが怖くてやめた。まだフワフワした気持ちでいたかった。
メールの着信音がなったので大倉君かと思って見ると森田君だった。
「明日部活休みだからバイト先に行ってもいい?」
「ごめんなさい。明日は用事が…」と打った所で削除した。明日は野村さんの所に行こうと思っていたけど、森田君からの誘いを断ってばっかりだったから一日伸ばせばいいだろうと思って「いいよ」と返信した。すぐに「やった!」とメールが入って来た。
学校では全然大倉君とは話さないので野村さんの件はまだ伝える事が出来なかった。帰りに森田君が一緒に行くと言うので自転車でバイト先まで二人で向かった。大倉君は素っ気なく先に帰ってしまった。やっぱり怒ってる??
森田君がカウンターに座っていると「吉森さんの彼氏ですか?」とバイト仲間に聞かれて照れていた。申し訳なくて後で私が否定しておいた。調理場が一段落したので、カウンターにいる森田君の横に座った。
「一人にしてごめんね。誰か友達を連れてくれば良かったのに。」
「いやいいよ。吉森さんが必死に働いている姿見られたし。」
「そんなの見ても楽しくないでしょ。何かおごるよ。デザートとか。」
「え、いいの!ラッキー。」
ふふっと笑って吉森さんはパフェを作りに奥に入って行った。部活なかったら一緒にバイトとかしたいな。
「もうバイト上がっていいって」吉森さんがパフェを両手で持ち窓際の席においた。
「ここでちょっと待っててすぐ来るから。」
しばらく待つと制服に着替えて吉森さんが現れた。二人とも制服を着ていると学校帰りにデートをしている気分になった。
「バイト楽しい?」
「うん。楽しいよ。みんないい人だし。すっかり男の人恐怖症治った。」
「そっか。良かったな。それじゃこれからどんどん男と喋れるわけだ。」
「そんなに喋るつもりはないけど、今までみたいに相手に嫌な思いをさせなくて済むとは思うよ。」
「そっかー。残念だな。」
「えっ。」
「俺だけが吉森さんと最初から喋ってたのにな。」
「あ、そうだよね。森田君すごく話しかけてくれたもんね。嬉しかったよ。本当に森田君いい人だよね。みんなに好かれてるし。」
「俺は、吉森に好かれたいけどね。」
思わず固まってしまった。なんてストレートなんだろう。
「まあ、俺こんなんだから隠し事はできないタイプでさ、もうバレてると思うけど、俺初めから吉森さんの事好きなんだよね。」
「初めから?」
「そう。一目惚れって言うの。まあ初めは顔が好みだったけど、何か守ってあげたくなると言うか。今誰も付き合っている人いないならさ、俺の事考えてよ。すぐに返事はいらないからさ。」
「あ、う、うん。ありがとう。好きって言ってくれて嬉しいよ。」
「じゃ、この話は終わり、俺の事を少し意識したでしょ。」
コクっとうなずくしかなかった。何となく感づいていたが、こんなにストレートに言われるとは思わなかった。自分の感情的には大倉君に向いているのが分かっていたので、何となく申し訳ない気分になった。自分の返事は決まっている。
「もう帰るでしょ。送るよ。」
「あ、ありがとう。」
自転車を押しながら歩き出した。大倉君だと緊張しないのに森田君と歩いているとなぜか緊張して言葉が出てこない。好きだと言われたからだろうか。
「吉森さんは警察の事情聴取で何を聞かれた?」
「野村さんに何か変わった事がなかったかって言われたよ。」
「何て答えた?」
「大倉君の動画を撮ろうとしていたんで注意しましたとかそんな感じで答えた。友達関係とかあまり詳しい事はわからないから、あんまり参考になる事は言えなかったと思うけど。」
「森田君は?」
「まあ同じ様な事。注意した後は仕事はちゃんとしてましたとは言っておいたけどね。野村さん転校するって言っていたよね。あの変なファンクラブのせいだろ、何か可愛そうだな。怪我とかどうなったのかね。」
「私、会ったんだ。とりあえず大丈夫そうだっだけど大怪我だったよ。入院先とか言わないでって口止めされてるから森田君も内緒にしてね。」
「あ、そうなんだ。まああんな事があったから教えてしまって来て欲しくない人が来たら嫌だもんな。もちろん絶対に言わないよ。」
「ありがとう。」
「でも、そんなに親しくないのに何で吉森さんが会ってるの?」
「ちょっと頼まれ事してて。これはちょっと言えないんだよね。ごめんね。」
「そうなんだ。気にしなくていいよ別に。」
「頼まれ事?」何を頼まれているの?岡崎成美は吉森と森田の後をこっそりとつけて話を聞いていた。
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