第26話 携帯電話
学校へ携帯を探しに午後六時に大倉君が迎えに来てくれる事になった。なぜか両親に信用されていて家を出る事に、何も文句とかは言われなかったので、その辺は良かった。男の子が迎えに来ると言ったら逆に安心だと言われ複雑な気持ちになった。チャイムがなると母が出て行って挨拶すると言うのでそれは絶対ダメと止めた。大倉君なんて見てしまったらカッコ良すぎて大騒ぎしそうだ。
「時間ピッタリだね。来てくれてありがとね。やっぱりいてくれた方がなんか安心。」
「ああ、親は大丈夫だったのか?」
「男の子が一緒なら逆に安心だから、ゆっくり遊んできなさいって言われた。」
「何それ?ずいぶんラフな家なんだな。」
「まあね。今まで何も問題起こしてないから信用され過ぎてるんだよね。まあ楽なんだけど。」
「でもどっちにしても、早いとこ探して帰ろう。」
「そうだね。」
自転車で学校に着くと午後七時を回っていた。自転車を学校から少し離れた所に止めて裏門をよじ登って中へ入った。セキュリティは職員室しかかかっていないのでよっぽどの大声などを上げない限り黒ずくめの二人は見つかる事はないだろう。中へ入ると野村さんが落ちたであろう茂みに向かった。まだ黄色の立ち入り禁止のテープが貼ったままだったので分かりやすかった。すぐ上に照明があったので懐中電灯をつけなくてもある程度見えたが、さすがに植木の下はライトで照らさないと見えなかった。
結構探ってみたが携帯らしき物は落ちてはいなかった。少し離れた所にいる大倉君まで七瀬は近づいて行った。「ポンポン」と背中を叩くと大倉君は「うわっ」と大きな声を出したので思わず手で口を塞ごうとした勢いで、その瞬間に一緒に芝生に倒れ込んだ。大倉君を押し倒すような格好になり七瀬は思いっきりお腹の上に乗ってしまった。
「苦しい。」小さな声で笑っている。
「あ、ごめん。」七瀬は直ぐに離れると大倉の腕を引っ張り起こした。
「思ったより体重あるね。」
「わ!それ言わないで。筋肉質だから重いんだよ。大倉君大きな声出さないでよ。」
「急に背中叩くからだよ。何か言ってから叩けよ。」
「だって声出したらまずいかなと思ったから。」
私の顔を見て大倉君がニヤッと笑ったので、
「何?」
手招きされたので近づくと
「泥ついてる」
大倉君は袖で私の顔を拭いてくれた。その後で顔をなぞり取れたかなと顔を近づけて見ようとしたので
「だ、大丈夫だから!ありがとう」と言ってしゃがみ込み携帯を探した。顔が真っ赤に違いない。大倉君は天然なの?ドキドキさせるのやめてもらえないかな。もう。
吉森を抱きかかえた時、軽さにびっくりした。重いってワザと言ったが本当は柔らかくて軽くて筋肉なんて分からなかった。なんて柔らかいんだろう、ああ触りてえな。ダメだ、何考えてんだ俺。
足元がなんか硬い…手で探ると土の下になにかある感じだった。少し掘ってみると携帯電話が出て来た。
「大倉君、大倉君。あったよ!」
「マジで!」
「うん。土の下にあった。凄いね!本当に見つけられるとは思わなかった。」
「確かに!じゃあとりあえず急いでここを出よう。」
学校を出て自転車に乗り家まで向かった。時間はもう十時を過ぎていたが本当はもっとかかるかと思っていたのでラッキーだった。大倉君とは明日話そうと約束して別れた。家に着くともう帰ってきたのと母親ががっかりしていた…何を想像していたのか。
土に埋れていた携帯はかなり汚れていたので綺麗に拭いた。電源を入れるのはなんとなく怖いのでそのまま野村さんの所に持っていく事にした。見つかった事をメールすると近いうちにいつでもいいから持って来てと返事が来た。
奏は部活が終わると冬夜を引き止めた。
「冬夜ちょっといいか?話あんだけど。」
「いいけど、なんだよ改まって。」
近くにあるハンバーガーショップに行きテイクアウトして公園に行った。
「で、なんだよ話って。」
「まず、謝る。ごめん。」
「何だよいきなり。何?吉森と付き合うの?」
「えっ」奏は目を大きく見開いた。
「会ってる事、知らないと思っていたのか?会っている事なんて知ってたよ。吉森さんの家に行った事も。」
「ごめん。言えなくて。でも付き合ってはいない。」
「好きなのか?吉森の事?」
「…ああ。でも冬夜が好きだって事知ってるから、告白はしてないよ。」
「吉森さんはどうなんだよ。奏に言い寄られて好きにならない女なんていないだろ。」
「鈍感そうだから気がついていないと思う。」
「まあ良くある、私なんてってか。それで俺にどうして欲しいの?」
「冬夜は親友だし、裏切れないから、フェアに行きたいと思って。」
「それはどう言う?」
「俺からは絶対告白しない。冬夜がもし告白して振られたりして俺に譲っても良いと思ったらその後改めて行動に出るよ。」
「振られても良いよって言わなかったらどうする?」
「ひたすら待つ。でも、ありえないけど冬夜が振られた後なら付き合っても良いだろ。それまで気のある素振り見せないからさ。」
「じゃあ俺がガンガン行って良いわけね。」
「嫌だけどいい。」
ふうっと冬夜はため息をつくと、「何だよそれ。嫌だけどって、奏お前さ俺がどれだけ傷付いたかわかってんのか?自転車一台壊したんだぞ。お前をぶん殴ろうかとも思ったけど、お前そんな酷い奴じゃないのわかってるし、俺は吉森にアプローチしつつ言ってくれるのを待ってたんだよ。」
「冬夜お前本当にいい奴だな。」
「今頃分かったのかよ。」
「あ、悪い。」
「じゃあ早速、この一週間吉森さん誘いまくるから、奏は一切誘うなよ。今の状況だと絶対お前の方が有利なんだから。誘われても断れよ。それで隠していた事チャラにしてやるよ。」
「いいよ。分かったよ。」
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