第25話 成美の計画

 本題はここからだ。

「えーそんなこと言ってもらって嬉しいです。それで先輩にお願いがあるのですが…。」

「お願い?」

「はい。実はバレー部のマネージャーに応募しているのですが、いっぱい来てしまっていてなれるかどうかテストされるんです。」

「ああ、そう言えばそんなこと聞いた。今週だよね。」

「そうなんです。部活動とかやったことないし、このまま行ったら落とされるんじゃないかと思って。先輩と一緒に部活やりたいんですけど、先輩からキャプテンとかに言ってもらえないですか?」

「俺も成美ちゃんにやってもらいたいけど、マネージャーの件は春野さんに任せてあるからあまり口出しできないんだよね。でも一応キャプテンに言って頼んでみるよ。」

「よろしくお願いします。一緒に部活やりたいですね」成美って呼んだ…なれなれしい。気持ち悪!

「そうだね。楽しみだよ。」


 結局二時間ぐらい喋って帰った。ちょっといい人過ぎて少し悪い気がしてきた。でも好みじゃないし、好きになることはないからごめんねって感じだけど。ベッドに寝転がりすぐ横の壁一面に貼ってある奏君の写真を眺める。もう何枚あるんだろう…撮り続けていっぱい写真はあるのに正面を向いての笑顔の写真は一枚もない。少し笑っている様な写真はあるがほとんどがムスッとした表情ばかりだ。

「こんなにあるのに…。」

 母親にこの写真は誰?と聞かれて今売り出し中のアイドルって言ったら信じていた。そうだよね…誰よりもかっこいいもん。中学から世界が奏君一色になり相手にしてもらえないのは悲しいけど、テレビに出ているアイドルとは違うのは近くで見れる事、しつこすぎるのも分かっているけど、どうしても止められない。これで奏君に彼女なんか出来たら本当に殺してしまうかもしれない。でもそれは考えない様にしていた。

 マネージャーのテスト当日、いつも以上に気合を入れていた。朝にシャンプーをし、香りが残る様にしてポニーテールにした。後は色々気がつくマネージャーを演じなければいけない。先輩が上手く言ってくれていればいいけど。

 

 部活が始まったが、とりあえず言われた事は出来るが何をして良いのかよく分からない。気に入らないがあの女の真似をするしかないので頑張って真似をして動く様にしていた。ただやっぱり見てからなので動作が遅くなってしまうのが悔しかった。でも先輩を味方につけているから期待はしていた。いつもは体育館の外から眺めている奏君がすぐ近くにいる。こんなに長い時間一緒にいられるのは初めてだ。マネージャーになったらこの幸せな時間がもっと増えるんだ…もの凄く楽しみになって来た。

 休憩時間になったので水飲み場で横山先輩にこっそりと話しかけた。

「先輩どうですか?話してもらえましたか?」

「一応春野には言っておいたけど、特別扱いは出来ないって言われちゃってね。」

 何言ってんのこいつ!全然権限無いじゃない。使えねえ。

「あ、そうですか…。先輩と一緒に部活やりたかったのに」泣きそうな顔をした。

「そんな悲しそうな顔しないで!もう一度言っておくから。」

「はい、先輩しか頼る人がいないんです。」

「わ、分かった。」

 冬夜は横山先輩を後ろから追いかけて行った岡崎成美を見かけ、後をつけてこの前と同じ所で隠れて話を聞いていた。「あいつ、すげーな。先輩と話す時、態度めっちゃ違うじゃん。あの嘘が奏と一緒にいたいからなんて怖すぎる」春野先輩には言っておいたから大丈夫だと思うが…でも横山先輩…可愛そうに。」

 

 練習が始まるとやっぱりあのよく動く二人が気になる。横山先輩はあてにならないし、あの二人を超えるにはどうしたらいいか考えた。奏君は人が多すぎるのが嫌なのか、アタック打っててもなんか殺気だっている気がする。あんな早くて強いボール当たったら気絶するかも…。ん…気絶はしても死にはしないよね。あれに当たって少し怪我でもすれば必然的に奏君は責任を取らなければならなくなるよね。自分が怪我させたんだから。入院とかしたらお見舞いとか来てくれるかな。怪我してもどうしてもマネージャーやりたいって言えばさせざるを得ないよね。一か八か勝負するか!これで仲良くなれるきっかけになるかもしれない。怖いけどやる!もう直ぐ奏君の番だ!  

 ボールが飛んできたらあたりに行こう。頭は避けなきゃ。大体同じ場所に飛んでくるのでそこの場所に立った…来た今だ!目をつぶりボールが来る方向へ背中を向けて気がついていないふりをして飛び出した。その瞬間「ドン」と押され弾き飛ばされた。尻餅を付き後ろを振り返ると、吉森がうしろにいた。そしてなぜかみんなに褒められている。ちょっと待ってどういう事?

「成美ちゃん大丈夫?」横山先輩が飛んできた。

「あ、大丈夫です。えっと今何がどうなったのでしょうか?」

「成美ちゃんに当たりそうになったボールを彼女がレシーブしてかばったんだ。あんな強いボールを…凄いね、あの子。」

 最悪だ!よりによってあいつが私を庇うなんて。当たるつもりだったのに、何、余計な事を。

「成美ちゃんは大丈夫?」

「はい、でも突き飛ばされた時に打ったみたいでお尻が少しいたいですけど。」

「そっか、じゃあ湿布あげるよ。」

 しゃがんだママなのに一向に奏君が様子を見に来る感じじゃない。普通、大丈夫とか言いに来るんじゃないの?ネットの向こう側で見ているだけだった。

「じゃあ大倉君のアタックが当たりそうになったんだから、大倉君から湿布くれる様に言ってください。」

「え、大倉から?でもあれは成美ちゃんが…。」途中で言うのをやめた。横山には成美が知っていて飛び出した様に見えた。ずっと成美を見ていたので気がついたのだ。胸がモヤッとした。

「分かった。言っておくよ。」

 吉森のせいで計画が台無しで成美はもうマネージャーは無理だと思った。大倉君は来ないし、あの子がみんなから注目を浴びてしまった。せっかくのチャンスを掴めなかった。練習が終わり落ち込みながら部室へ戻ると、鞄の上に大倉と書いた湿布が置いてあった。

「大倉君のだ!」

 悪いと思ってくれたんだ!嬉しい!こんなに湿布が嬉しいなんて…。明日会ったらお礼言わないと。これがきっかけになって話せるかも知れない。成美は湿布を嬉しそうに抱きしめ家へ帰った。

 次の日に学校へ行き奏君に話しかけて冷たく突き放され、いつもの事だけど湿布くれたのは確かだと思い一歩進んだと明るい気持ちでいたのに、横山先輩に湿布は吉森にだったと改めて聞かされて落ち込んだのと怒りが湧いてきた。あいつのせいで何もかもうまくいかない!どんどんとあいつが嫌いになって行った。


 マネージャーになれないのが分かってすぐに横山先輩の携帯番号は削除した。

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