第24話 成美のたくらみ

 朝、日課の様にまりえと加奈の所へ行くふりをして奏君を見にいく。顔を窓際に向けてうつ伏せで寝てしまっているので、ほとんど顔が見れた事がないが、姿をみるだけでも幸せな気分になれる。いつもの様に見ていると隣にいる吉森が前を向いている状態で口が動いている。一人でしゃべっているの?周りには奏君しかいないし、どう考えても奏君以外とは話せる状態じゃない。でも奏君は寝ているし、でも顔は見えないし少し横を向いている様な気がする。やっぱり話をしているのかな?何であの女とそんな簡単に話すの?私とは目も合わせてくれた事もないのに。ありえない!でも森田の好きな女だからかもしれない。でも要注意人物だ。これはぼやぼやしてはいられない。

 

 放課後バレー部を覗きに行くと相変わらず女子が集まっている。はぼ全員が奏君狙いだ。何か自分が有利になる方法を考えなければいけない。一番手っ取り早いのは力のある人と友達になる事だ。でもキャプテンは彼女がいるというし、その次と言ったら副キャプテンになるが顔がわからない。周りにいる女子に副キャプテンを教えてもらうと、ドアの近くに行って胸に付いている名札を見に行った。名前は横山と書いてある。背は高いがモテそうな感じではない。


 あの人なら落とせるかもしれない。

 成美は早速行動に出た。とりあえず奏君用に持って来たプレゼントのお菓子の包みから手紙を抜き取り、花柄のメモ用紙をカバンから取り出し「横山先輩へいつも応援しています。」と書いてお菓子の包み紙に挟んだ。いつも練習が終わるとバレー部のみんなが行き来する通る渡り廊下で、今日は奏君を諦めて横山先輩に話しかける事にした。先輩の方が先に出てくるのと女子は奏君待ちなのであっさり捕まえる事が出来た。

「横山先輩!」わざと嬉しそうな声を出してみた。こちらを振り向き不思議そうな顔で見られた。

「一年の岡崎成美と言います。ちょっとこっちに来てもらっていいですか?」

 他のメンバーに先に行ってくれと言うと、こちらに歩いて来てくれた。

「どうしたの?」

「あの、先輩にこれ渡したくて。」

「俺に?でも岡崎さんて大倉のファンだよね。」

「あ、大倉君はアイドル的というか騒いでいて楽しい感じなだけで、練習を見に来ているうちに横山先輩を応援したいなと思うようになって。」

「そうなんだ。嬉しいよありがとう。ありがたく受け取るね。」

「はい、練習頑張ってください。」

「奏が出てくると人がいっぱいになるからもういくね。」

「はい。」

 先輩は手を振って部室の方に走って行った。その直後に奏君が現れて通路が女子でいっぱいになった。少し近くに行き眺め、かっこよさに、ため息が出る。絶対マネージャーになってみせる!

 次の日に練習を見に行くと横山先輩が私を見つけニコッと笑ってくれた。好きな気持ちはないが一方通行じゃなくて相手も返してくれるこの状況は少し楽しかった。これなら簡単に落とせそうだ。休憩時間に横山先輩が外に出て行ったので、少し時間をずらして自分も後を追った。水飲み場に行くと先輩が顔を洗っていたので話しかけに行った。

「先輩!お疲れ様です。」

「岡崎さん、今日も来てたんだね。」

「はい。練習見るの好きなので。先輩カッコよかったですよ。」

「なんか照れるね。でもありがとう。」

 楽しそうな会話が続いていたので、顔を洗いに来た冬夜は出るに出られず日陰になっている場所で先輩が戻るのを待っていた。

「今行ったら邪魔だよな」汗が止まらずタオルで一生懸命拭っていた。横山先輩の笑顔ってなかなか見ないけど、よっぽど嬉しいんだろうな。でも早く顔洗いてえ。あの子、奏のファンだよな。中学の時からずっと待ち伏せとかしてなかったっけ?奏の事は諦めたのか?

 

「そろそろ休憩が終わるから練習に戻るよ。」

「あ、先輩、新しいタオル持って来てるので、今使っているのと交換しましょ。洗って持ってきます。」

「え、いいの?ありがとう。タオルいつでもいいから。このタオルいい匂いするね。じゃあ行くね。」

「はい!練習頑張ってください。」

 横山先輩は走って戻って行った。やれやれやっと顔が洗えると思い、出て行こう足を一歩踏み出した所で、岡崎成美の独り言が聞こえてきて、さっきとは違った低い声のトーンに足を止め隠れた。

「簡単すぎる。機嫌とるのメチャ楽じゃん。汚いな…こんなタオル触りたくないな。お母さんに洗ってもらおう。一週間の辛抱!奏君待っててね」そう言うとタオルを汚そうにつまんで体育館の方に戻って行った。茂みに隠れていて声が聞こえていた冬夜は確実に岡崎が見えなくなると水飲み場の方へ歩いて行った。

「何だあれ?結局は奏が目当てじゃん。何の為に先輩に取り入ろうとしてるんだ?先輩可愛そうに。先輩ショックだよな。あの女ふざけてやがる。奏にも言えないな。ブチギレそう。あいつ絶対マネージャーにしないでくれって春野先輩に言っておかないと。」冬夜はため息をついた。


 昼間のうちに横山先輩とメール交換をしたので話がしやすくなって助かった。意味の無いメールのやり取りは面倒だったが、しばらくは仕方がない。はっきり好きだとは言っている訳でもないし、マネージャーになれたら適当な所で突き放してしまおう。どうせ先輩は夏までしかいないのだから。

 部活が終わったのか横山先輩からメールが来たので「今からお茶でもしませんか」と返信をするとすぐにオッケーの返事が来た。待ち合わせたファミレスで待っていると五分ぐらいで先輩が現れた。走ってきたのか汗を凄くかいていた…汗くさ!奏君だったら臭くないんだろうなと勝手に想像していた。

「お疲れ様です。用事なかったですか?すいません突然誘って。」

「いいよ全然。ちょうどお腹も空いていたし、成美ちゃんもおごるから何か食べたら?」

「あ、私は帰ったらご飯あるのでケーキだけ食べます。」

「ああそうだよね。俺は部活の帰りに何か食べないと家の夕飯までもたないんだよね。」

「そうですよね。あんなに動いてるんですもんね。」

「でも成美ちゃんが応援してくれてるから頑張れるよ。」

 ちょろい、落ちた!

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