第23話 ファンクラブ

 岡崎成美は中三の夏、クラスメイトの男子がバレーボールの都大会に出場する事になったので、クラスメイト全員で応援に来た。成美は特に興味もなかったが、暇潰しのつもりで見に行った。コートは三面あって成美の学校は右端のAコートだった。席に着くとみんなで揃えたうちわを持って試合が始まるのを待っていた。やけに真ん中のBコートが騒がしく、見ている人も成美の学校の倍以上の人数が応援席にいた。男子の大会なのに女子の応援が多い。

「奏くーん、こっち向いて」とか、やけに「奏」と言う言葉が耳に入る。同じ学校の女子生徒も「あの人メチャメチャかっこいい!」と言ってBコートを見ている。

「誰を見てるの?」騒いでいる女の子に声をかけた。

「Bコートのあの青白のユニフォームの七番、凄い人気みたいだよ。」

 成美は目が悪くよく見えなかったのでメガネをつけてもう一度見てみた。

 一瞬で目を奪われた。

 今まで見た事のないくらい綺麗な男の子。胸がドキドキした。自分の学校の試合はそっちのけで隣のコートばかり見ていた。動いている姿もカッコ良くて見惚れてしまった。試合が終わるとコートの入り口まで走って行くと、もうすでにギャラリーがいて近くに寄れなかった。近くに歩いて来たのだろうか、ギャラリーの声が大きくなり選手の姿が見えて来た。背が大きいので後ろの方でも良く見える。奏くんって言ったよね。近くで喋って友達になりたい…近づきたい、声が聞きたい。


 その次の日から成美は行動を開始した。学校名は常盤台北高校という事は分かっていたので、どうにか探ろうと学校中の人に常盤台北高校に知り合いがいないか探し回った。そして小学校の時にクラスメイトだったと言う男子を見つけた。その子にどうにか連絡を取ってくれないかと頼んだが、あいつ性格あんま良くないよと言われ連絡を取るまではしてもらえなかった。仕方がないので常盤台北高校に放課後直接行ってみると、校門の前に女の子たちがいっぱい集まっていた。もしかしてと思い話しかけてみた。

「ねえ、何してるの?」

「え、大倉奏君待ってるの。プレゼント渡したくて。」

「ここに集まっている人みんなそうなの?」

「そうだよ。みんなどうにか振り向いて欲しくてプレゼントあげたり、手紙渡したりしてるんだけど、全然受け取ってもらえなくて。でも見たくて来ちゃうんだよね。」

「そうなんだ」周りを見渡すとみんな化粧しておしゃれして振り向いてもらうために必死な感じがする。何にも考えずおしゃれもしていない私は全然見てももらえないかも。

「あなたもファンなの?勝手にファンクラブ作ってるんだけど、あなたも入る?」

「え、いいの?入りたい!」

「月会費千円だけどね。」

「え、お金とるの?」

「その代わり、いろんな情報入るよ。月に一回会報がメールで届いてそこに隠し撮りした写真とかどこのお店によく行くかとか、どこの高校へ進学するとか色々わかるよ。」

「本当に!学校とかわかるの?」

「そう。もう大体わかっているんらしいんだけど、私立の凄い頭のいい学校に行くみたい。みんな同じ学校に行きたくても行けないって嘆いてた。」

「そういう事、会報に載るんだよね?」

「そうだよ。」

「入りたい!入り方教えて。」

「いいよ。言っておくからメアドと電話番号教えて。」

 その後はファンクラブの子と仲良くなり、どんどん情報が入ってくる様になった。家の場所も家族構成も分かったが、ガードが固く携帯番号だけは本当に仲の良い人以外知らないらしくわからなかった。頻繁に芸能事務所からスカウトも来ているけど、本人が興味がないらしく全部断っているらしい。多分デビューしたら人気が出るだろうけど、そんな事をしたら私との距離が広がってしまうから絶対に嫌だし、ダメだ。絶対にこちらにいつか振り向かせて見せる。


 いっぱい努力をした。メイクも覚えてスキンケアもして、体重も五キロ落とした。進学するのが白鷺高校だとわかり偏差値の高さに焦ったが絶対に合格すると頑張って、努力して無事合格もできた。ファンクラブの中も力関係があり、努力したおかげで副リーダーまで登った。副リーダーになると指図をすれば大体のことは他の人にやらせて写真などを取って来てもらえたり、出待ちしている時は前列で奏くんをみる事ができた。でも話しかけても無視されるし、目も合わせてもくれなかった。でも同じ学校に入れば話せる機会が絶対にあるはず。入学してからの妄想が頭いっぱいに広がった。ファンクラブの子が三人一緒の高校に入る事になったは残念だった。私だけが入れればよかったのに…まあ見た目的にもライバルにはならないが。この学校は頭が良い代わりに校風は自由だ、私服でもいいし、制服でもいい。だからおしゃれが出来るから自分をより可愛く見せられる。自分に磨きをかけてから結構綺麗になったねと言われる様になり、かなりの自信にもつながっていた。


 入学してすぐに思っていた通り、奏君の事を好きと言い出す女子が多かった。この学校の子をファンクラブに引き入れるつもりでいたからまあそれは想定内だ。奏君と同じクラスになれなかったのは残念だったが、元からのファンクラブの子が二人、同じクラスだったからまあそれは良いとする事にした。どうにか話をする様に二人に言っておいたのだが、なかなかガードが硬くて話をしてもらえなかった。そもそも友達の森田意外と口を聞いている姿を見た事がない。その森田は同じクラスの女に夢中らしく毎朝自転車置き場でその子を待っている。ご苦労様で。奏君は電車通学だったので、私が使う駅は学校に行くのには三つ手前だったが、奏君が乗る駅までわざわざ行って駅でこっそり待ち伏せして同じ電車に乗った。隣に行き「おはよう」と話しかけてみたがヘッドフォンをしていたので聞こえていないらしく、返事をしてもらえなかった。しばらくして奏君は電車で見かけられなくなってしまった。同じ電車で通えると思ったのに、突然自転車通学に変えてしまった。自分も自転車で通う事も考えて一度試してみたが、運動とか何にもして来なかったので一日でもう疲れ果ててしまい自転車通学は諦めた。どうしてこんなに努力しているのになぜか奏くんとの距離が縮まらないのだろう…。もっと近づきたい、話したい。私の良いところわかって欲しい。

 奏君がバレー部に入る事は分かっていたのでマネージャーになろうと思っていた。みんな考える事は同じで人が大勢が来てしまい、結局マネージャーになるにテストをする事になってしまった。ファンクラブの子は辞退させたが、入っていない子には力関係は通じない。仕方なく大勢の人と一緒に受けるしかなくなってしまった。テストまであと一週間という所で、森田があの吉森という女をマネージャーに誘ったとファンクラブのメンバー小西まりえと冨田加奈に聞いた。二人しか取らないというのに…枠が減るじゃない…森田め余計な事を。

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