第35話 二人で学校へ

 次の日、念のため岡崎さんに話しかけられる事を考え、ボイスレコーダーを胸ポッケに仕込み家を出た。玄関の前に大倉君が立っていた。これから起こる事を考えると憂鬱だったが少しの間でも大倉君と嘘でも付き合えるのは嬉しかった。

「おはよう」自然に満面の笑みになる。

「お、おはよう。じゃあ行こう」やばい可愛い。俺の彼女…。

 学校に着くと自転車置き場に止めた。大倉君の止める場所は離れていたのでそこまで歩いて行った。この時間に大倉君がいるのは珍しいので、もうすでに後輩の女子などが話しかけている。絡むと面倒なので、そのまま教室に行ってしまおうと思って前を通り過ぎたら、「七瀬、どこ行くんだよ」と後ろから声がした。周りの女子が騒つく。七瀬?呼び捨て。うわ、どうしよう。恥ずかしい。振り向くと大倉君がこちらに歩いて来た。

「一緒に行くんだろ。」手を掴まれ歩き出す。後ろから女の子たちの悲鳴が聞こえる。大倉君こんなキャラなの。まさかこんなにオープンにされるとは思っていなかったので顔が火照ってタコみたいになった。

「大倉君。やり過ぎだよ。」

「俺のやり方で行くって言ったよね。」

「そうだけど、手離して。恥ずかしい。」

「なんでだよ。俺たちはラブラブカップルなんだから。俺の事も「奏」って呼べよ。」

「え!無理だよ。」

「じゃあ、冬夜の事はいいのか?俺、協力してるんだぞ。」

「わ、分かったよ。…かなで…くん。」

「奏!くんは要らない。」

「ああ、もう。かなで」もうやけくそだ。

 可愛くってたまらない。冬夜ごめん。俺こんな時なのに幸せだ。


 手を繋いで教室に入ると周りから悲鳴が聞こえた。

 席に着くとカルは一番に寄ってきて「何?七瀬!大倉と付き合ってんの?いつから?」

「うん、昨日から。」

「えー全然何も言ってなかったじゃ無い。」

「ごめんね。大倉君と付き合ったら周りの目が怖そうだったから。仲がいいの内緒にしてた」みんなが聞き耳を立てているのが分かる。

「カル、お昼にちゃんと話すから。」

 遠くから見られていたら分からないが、目の届く範囲内で岡崎さんの姿は見ていない。すぐに見に来るかと思っていたので意外だった。カルに引っ張られて屋上に連れて行かれた。一番端へ行き座った。


「はい、じゃあ七瀬教えて。」

「そうだよ。教えてよ。」

「ねえ、カルが言うのはわかるんだけど、なんで沢井君がいるの?」

「え、だって俺吉森さん好きなのに。」

「え、そうなの?」

「え、知らなかったの?あ、俺、ちゃんと吉森さんに言ってないや。」

「何言ってんの沢井。超アホじゃん」と笑った。

「え、でも教えてくれよ。」

「お前は帰れ」後ろから声が聞こえた。

「大倉君!」

「おおくらくん?」不機嫌そうに聞き返された。

「えっと、奏…。」

「きゃー。奏だって。落ち込むな沢井。諦めな。」

「えー。」

「俺、七瀬に話あるから、悪いけどマジで沢井は遠慮して。」

「分かったよ。大倉、後でちゃんと教えてよ」そう言いながら帰って行った。

「七瀬、悪いけどちょっと百田と話をしたいから離れててくれる。後で呼ぶから。」

「え、うん。分かった。」

七瀬が少し離れると奏はカルに話しかけた。

「悪いね。今から話す事は七瀬には内緒にしてくれ。」

「え、うん。分かった。」

「多分今から、七瀬は俺とは訳があって付き合うフリをしていると言うと思う。でも俺はフリじゃ無いから。それだけ。あと、しばらくの間は七瀬を絶対に一人にしないでくれ。俺がどうしても一緒にいられない時は必ず百田が一緒にいてくれ。」

「いいけど。何で?」

「岡崎は俺のストーカーだ。俺と七瀬が付き合って何をしてくるか分からない。詳しい話は学校では出来ないから、七瀬と約束して家かどこかで話そう。」

「いいよ分かった。ところで七瀬のこといつから好きだったの?」

「じゃ。」

「おい、大倉!」あんなに七瀬の事心配してちょっと見直した。

「大倉君行っちゃたんだね。」

「うん。話すだけ話して行っちゃったよ。」

「何を言ってた?」

「岡崎がストーカーだから七瀬の事頼むって。愛されてるね。」

「そんな事言ってたんだ。あ、カルでもね、大倉君とは本当には…。」

「詳しい事は七瀬の家で聞かせて。今日行ってもいい?」

「あ、うん。部活終わってからになるからちょっと遅くなるけどいい?」

「いいよ。私も部活だから。一緒にかえろ。」

「うん。」


 大倉君が言ってくれたらしく、部活でも春野先輩や楓ちゃんが一緒にいてくれて一人になる事はなかった。付き合った事でみんなに冷やかされたが、大倉君はひょうひょうとしていて全然気にしていない感じだった。それでも相変わらずギャラリーは多く、私は冷ややかな目で見られていたが、中には「羨ましいです」と言ってくる子もいた。でもファンの女の子達を敵にまわした事には違いない。

 着替え終わり、外に出ると横に大倉君が待っていてくれた。

「帰るぞ。」

「うん。」

「あ、カルが一緒に帰るんだ。」

「百田なら、早く終わったから先に帰ってお菓子を買ってから行くって言ってたぞ。」

「そうなんだ。分かった。」

「じゃあ、はい」大倉君が手を差し出した。

「えっ?」

「手を出して。」

 戸惑っていると手をとられ繋いだ。

「大倉君。人いないし、今はフリしなくても大丈夫だよ。」

「どこで誰に見られているか分からないだろ。いい加減、奏って呼びなよ。」

「うん。そうだね…奏」手をギュッと掴まれてドキドキしている。夢じゃ無いのかと思ってしまう。

 冬夜が目を覚さない状態で俺って卑怯だよな。でも岡崎の尻尾を掴むまでの間だけだから許してくれ。

「じゃあ帰ろう。」

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