第34話 作戦

 と、隣!隣に座るなんて照れてしまって出来ない。立ったは良いけどモジモジしていたら腕を引っ張られて横に座らされた。

「わあ」勢いよく引っ張られ、思いっきり大倉君にぶつかり抱きつくような形になってしまった。

「キャ、ごめん。」離れようとしたら、抱きとめてくれている腕がギュッと強くなった。

「あ、あの。」

「あ、ごめん。強く引っ張りすぎた」二人とも真っ赤になり、顔を背けてしまった。は、恥ずかしい!

「私こそごめん。」離れそこね、体温が分かるぐらい近くに座ってしまった。

 今更離れたら感じ悪いよね。


 隣にとは言ったけど近すぎるよ。座り肩が触れる距離での会話…ふざけんなよ吉森。抑えるのに必死なんだよこっちは。

「ピッ」いきなり大倉君が曲を止めた。

「だめだ、聞こえないから音楽止めよう。防音聞いているし、小さめで喋れば大丈夫だよな」そう言って向かい側に移動した。無理だ!隣になんて座っていたら話なんか頭に入らん。

「そ、そうだね。じゃあ話始めるね。昨日岡崎さんから電話が来たの。それも野村さんの携帯を使って。」

「野村の携帯から?岡崎に取られたってことか。」

「それを確かめに今日野村さんの所に行って来たの。」

「岡崎からの電話って何を聞きたくてかけて来たんだ?」

「なんで野村さんの携帯を持っているの?って聞いたら、いらないって言うから貰ったって。どう考えても嘘だけどね。気になっているのは、携帯の中身を見てるのかって言う事と、どこまで私が知っているのかだと思う。大倉君が一緒に携帯を探した事や、メールの画面を写真で取ってある事は知らないみたい。野村さん脅されたんだって…余計な事を喋るなって。」

「マジでムカつくな。岡崎は何がしたいんだよ。」

「よく分からないけど、大倉君に異常なほど執着してるのは確かだと思う。冗談抜きで彼女なんて出来たらその人殺されるかも。」

「まさか。そこまではしないだろ。」

「でも、もしかしたら森田君の事故に岡崎さんが絡んでいるかも知れないんだ。まだ確かでは無いけど。」

「え、どういう事?」

「この前、うちに刑事さんが来た時に聞いたんだけど、森田君が事故に遭う前に女の子といる姿を目撃されているって。信号で止まっていたのに事故に遭うなんて変でしょ。だから刑事さんも疑問に思っているみたい。」

「もし、冬夜の事故に絡んでいるのなら絶対に許さない!」

「うん。私もそうだよ。森田君が何か岡崎さんを刺激するような事をしたのか、話したのか?その辺は分からないけど。」本当にそれで事故に合わせたのなら怖すぎる。嫌がらせどころの話じゃ無い。

「これからどうする?」

「取り敢えず、森田君の意識が戻っても内緒にしておいてもらって、絶対に病院も知られちゃダメだし。私に考えがあって…無茶なお願いなんだけど、大倉君協力してくれる?」

「ああ、もちろん。何をするんだ?」

「恋人になろう。」

「え、えっとそれは付き合うって事?」

「あ、もちろんフリをするだけだよ。ごめん。大倉君と私が付き合うなんてありえないけど、岡崎さんの本心をさらけ出させる為だから我慢してもらえる?」

 なんだよ。そういう事かよ。付き合うのがありえないってどういう事だよ。ちょっと腹が立った。

「嫌だよ。フリなんてするの。」

「え、そっか。そうだよね。嘘でも大倉君と付き合うフリなんかしたら、大倉君に迷惑かかるもんね。」

 俺はフリなんて嫌なんだよ。本当に付き合いたいんだ。全然俺の気持ち気が付いて無いのかよ。どんだけ鈍感なんだ。イライラするけどそれが吉森なんだよな。冬夜の為にはやった方がいいの分かっている。考えてみたらそれって公認でベタベタしても良いって事だよな。ちょっと嬉しくなって来た。

 さっきから大倉君の表情がきつくなったり柔らかくなったり色々変化していて…何を考えているのだろう。

「分かった良いよ。」

「本当に!ごめんね。無理言って。」

「で、どうやって岡崎の本心を出させるんだ。」

「多分ね大倉君に彼女が出来たら私に攻撃をしてくると思うんだよね。思いっきりイライラさせた所で家に呼び出して、会話をすれば多分本当のこと話すと思うんだよね。その時に刑事さんに隠れててもらって、現行犯逮捕って感じかな。」

「でも、そんなに上手くいくか?それじゃ吉森が危険じゃないか?」

「どうなるか分からないけど、大倉君が持っている画面のスクリーンショットだけだとダメだと思うから。」

「マジで本当に気を付けてくれよ。ずっと一緒にいる様にするけどさ。フリをする代わりに俺にも条件がある。」

「条件?」

「岡崎に見せつけるんだろ。そのやり方は俺のやり方でやらせてくれ。」

「う、うん。いいよ。分かった。」

「じゃあ明日からよろしく。」

「うん。こちらこそ。」

「じゃあ早速明日から一緒に学校行くぞ。」

「う、うん。」

 意外にやる気満々でびっくりした。でもその方が助かる。刑事さんに伝えておかないと。時間差でカラオケ店を出てバイト先に向かった。裏から入ると客席に岡崎さんがいるのが見えた。店長にやっぱり私がいるか聞いたみたいで、ずっと居座っていたみたいだった。店長にお礼を言うと何も知らないフリをして自転車に乗り家に向かった。会計が間に合わなかったらしくついては来なかった。さあ問題は明日からだ。何をされるか考えたら恐ろしい気持ちもあったが反撃して懲らしめてやりたい気持ちのほうが強かった。

 

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