第33話 待ち合わせ
次の日、親に頼んで学校を休みたいと伝えると、簡単に「いいよ」と言ってくれた。あっさりしているのか、信用されているのか、理由も聞かれなかった。そう言う所はうちの親は寛大だ。学校帰りに寄ってまた後をつけられたら嫌だから休んで行くことにした。病院に着くと部屋番号を伝え名前を記入しパスをもらいエレベーターで上がった。フロアに着いて後から誰か来ないかきちんと確認してから部屋に向かった。ノックをして部屋に入るとこちらを見てビックリしていた。
「どうしたの?こんな時間に?」
「昨日岡崎さんから野村さんの携帯を使って電話が来たから気になって。学校休んで来ちゃった。」
「電話があったの?岡崎さんから?」
「うん。野村さんと仲が良いのかって。何でそんな事聞くの?って言ったら電話切られた。どうして岡崎さんが電話をもっているの?」
「昨日母親と一緒に入って来て、母親がいない隙に引き出し開けられて取られて持って行かれた。酷いのはその時に私をベッドから落としたの。そのせいで腰打って今凄いアザになっちゃった。足は固定されていたからとりあえず大丈夫だったんだけどね。」
「その割には随分落ち着いているね。」
「昨日は怖くてたまらなかったんだけど、母親に全部話して落ち着いたの。岡崎さんに場所もバレたし病院も今日転院するんだ。転院先は後でメールで教えるね。もし来るときは絶対バレない様にしてね。」
「分かった。絶対バレない様にする。それよりお母さんはどうするって?」
「ベッドの下に落とされてこれ以上何かしたら、もう一本足折るって言われてさ、笑ってる場合じゃないんだけど、段々腹が立って来て怖さが無くなったから全部言えたんだけど。ぜーんぶ話したら、お母さん怒りまくってさ学校に怒鳴り込むって言ってたんだけど、その時に新井刑事さんが来て、話を聞いてこちらで動くからまだ何もしないでおいて欲しいって言われて、お母さん渋々了解してた。」
「凄い!頼りになるね。でも携帯がないと野村さんをいじめた証拠が無くなっちゃったね。」
「その辺は抜かりは無い、実はメールの画面写真にとってあるんだ。」
「え!そうなの!凄い!その写真はどこにあるの?」
「大倉君の携帯の中。」
その言葉にビックリした。
奏は学校に七瀬が来ていない事が心配でならなかった。メールはいつまでたっても既読にならないし、何もなければ良いのだが。お昼を一人で食べていると、七瀬からメールが入った。
「今日野村さんに会って来た。岡崎さんに携帯を取られたって。詳しい話をしたいんだけど、大倉君が岡崎さんやファンにつけられて会うところ見られてたらどうしようかと思って。」
「俺、今から早退するからどこか人目につかない所で会おう。後で連絡入れるから取り敢えず家にいて。」
「うん。分かった。」
大倉は職員室に行き、先生に「腹、壊れて辛いので帰ります」と伝えそのまま学校をこっそり出た。出た後、周りを見渡しても誰もついてこないのを確認して学校を離れた。どこに行こうか考えて防音のきくカラオケ屋に行こうと考えた。
「吉森、俺の家の近くの駅前のカラオケシングに一時に来て」とメールをするとすぐに「分かった」と返事が来たので急いで家に向かった。
七瀬は家にいたのですぐに出る事が出来た。先に行って部屋をとっておこう。家を出ると自転車に乗り森園駅に向かった。岡崎さんがまさかいるとは思わないが一応指輪を外した。この方が周りの人から出る感情に敏感に反応出来る。自転車を漕ぎ出してしばらくして信号で止まると、後からゾッとする様な冷ややかな感情が伝わってくる。これは感じた事がある…学校で事情聴取で岡崎さんが来た時と同じだ。後を付けられている…って恐ろしいとしか言いようがない。本気でストーカーだ。さあどうしよう。信号が変わっても携帯をいじっているフリをして動かず様子を伺っていた。気配は消えない。考えた末バイト先に行くことにした。カラオケ屋はそこから近いから自転車はそのままバイト先において裏口から出させてもらおう。岡崎さんにバイトをしている事はもうバレているし丁度いい。信号が変わり自転車を漕ぎだしても、ずっと嫌な気配は消えない。しつこいなもう!バイト先に着くと表に自転車を止めて中へ入って行った。
「こんにちは。」
「あれ?吉森さんバイトだっけ?」店長がフロアにいて片付け物をしていた。
「あ、違います。忘れ物して取りに来ました。ちょっと買い物行きたいので自転車止めたままでも良いですか?買い物は裏口から出ますね。あと私の事を尋ねてくる女の子がいたらキッチンで仕事中って言ってもらえますか。」
「分かった。良いよ。何、揉め事?」
「店長…嬉しそうですね。まあそんなとこです。じゃあお願いします。」
裏口は人通りが少なくそのままカラオケ店がある道につながっている。カフェの入り口からは死角になっているのでまず見えないだろう。商店街を歩いても気配はないので大丈夫だ。良かった。そのままカラオケ屋に走って入った。あ、大倉君がカフェの前を通ったらマズイ!電話をしようかと思ったらカウンターに大倉君らしき人が見えた。あ、指輪しておかないと。撒いて来たから大丈夫だとは思うが、取り敢えず早く入らないと入り口でモタモタしていられないので指輪をすぐに着けて大倉君に話しかけた。
「大倉君早かったね。」
振り向いて私に気がつくと「早かったな」と笑った。笑顔にそのまま少し固まってしまった。
「どうした?部屋入るよ」腕を引っ張られ部屋へ入った。
ドキドキが止まらない…本当に?大倉君を見るとドキドキが止まらない。私重症だ。
「吉森、なんか飲む?ドリンクバー取ってくるけど。」
「う、うん。えっとカルピスで。」
大倉君が部屋から出ると思いっきり息を吸ってはいた。こんな事は初めてなのでどうして良いか分からなくなった。大倉君は私の事どう思っているんだろう。リングを外したい衝動に駆られたが、見てガッカリもしたく無い。外す勇気はなかった。
「吉森、今日は指輪首からかけてないんだね。手にしてるなんて珍しいな。でもいつも必ず持ってるよな。」
「うん。大事なものなんだ。」
「ところで今日はどうした?あ、ちょっと待って」そう言うとカラオケの音楽のセットをした。
「え、歌うの?」
「んなわけないだろ。喋ってる音が聞こえない様に音流しておこうかと思って。誰が聞いているか分からないから。」
音楽が流れ始めたので大倉君が喋り始めた。
「それで。野村がどうしたの?」
「あのね」と話を始めようとしたら
「吉森、聞こえないから隣に座って。」
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