第32話 お見舞い

 エレベーターを降りると美幸の母と岡崎成美は一緒に病室へ向かった。ドアをノックすると「はーい」と元気そうな美幸の声が聞こえた。

「入るわよ。」

 母親がスライドドアを開けると、

「お母さん、あのね…。」

 話し出した所で母親の後ろからひょっこりと岡崎成美が顔を出した。美幸は一瞬にして凍りついた。

「ど、どうして?」

「え、美幸が来てって言ったんじゃない」笑っている顔が恐怖だった。

「入り口で会ったから一緒に来たの。わざわざ来てくれてありがとうね。ジュース買ってくるからちょっと待ってて。岡崎さんゆっくりして行ってね。」

「はい!ありがとうございます」可愛らしい声で返事をした。

 母親が出て行くとニコニコしながら美幸の近くへ歩いて行った。

「良かった。元気そうで。何で病院知らせてくれなかったの?心配してたんだよ」成美の笑っているが目は笑っていなかった。


「近寄らないで。」

「何で?酷いな。せっかく来たのに。」

「何が目的?」

「それは私が聞きたい。ここに吉森を呼んだ理由は何?」

「別に何もない。ただ学校で私がどう噂になっているか聞いただけ。」

「それぐらいだったら電話でもいいよね。なぜわざわざ呼んだの?」

「暇だったから。それだけ。」

「ふーん。動けなくて残念だね」と言うと病室にある引き出しや荷物を探り出した。

「勝手に何してるの。やめて。」

 携帯の入っている引き出しを開けられてしまった。

「あれ?携帯が二つあるね。片方は新品っぽいけど、こっちは見覚えがあるね。やっぱりそう言う事か。無くなったって聞いてた携帯、本当はあったんだね。お前、吉森に携帯を探させたな。」

「違う。そんな事頼んでない。本当にお見舞いに来ただけ。携帯返して。」

「新しい携帯があるのにいらないでしょ。これは私がもらうから。余計なこと言わなければ、違う学校で楽しく過ごせるんじゃない。過せるか過ごせないかは美幸次第だね。」

「待って」成美の腕を掴んだ。その瞬間、逆に腕を引っ張られベッドの下に落とされた。

「痛い!」

「ねえ、これ以上何かしようとしたらもう一本の足も折ってあげるから。分かってる?私邪魔されるの嫌いだから、怪我するのはあんただけとは限らないからね」と美幸の耳元でささやいた。

 美幸は泣きながら頷くしかなかった。母親が部屋に入ってきた。

「どうしたの!?」

「あ、美幸さんが荷物を取ろうとしてベッドから落ちてしまって。行ってくれれば取ったのに。大丈夫?」

「お母さん、足が痛い。」

 すぐに母親がナースコールをすると看護師さんが部屋に入ってきた。

「私、邪魔になってしまうのでもう行きます。お大事にしてください。」

「あ、わざわざ来てくれたのにごめんなさいね。。」

「いいえ、失礼します。」とりあえず証拠は無くなったけど、吉森はこの携帯の中身を見たのだろうか?あいつも脅しておかないといけない。


 野村さんから着信が入った。もう午前十二時を過ぎている。こんな遅くにどうしたのだろう?あれ?この番号昔の?一応新番号と旧番号で登録しておいたので古い番号だと分かった。なぜわざわざ古い携帯の方で?

「もしもし。野村さん?」

「こんばんは。吉森さん。」

 声が違う。誰?黙っていると、

「美幸じゃないって分かったみたいだね。誰だかわかる?」

 指輪を外しているので感は働くし、リングは見えなくても声ですごく嫌な物を感じた。この感じは…

「岡崎さん?」

「よく分かったね。正解。」

「何で野村さんの携帯を岡崎さんが持っているの?」

「いらないって言うからもらったの。」

 あんなに必死で探した携帯をいらないなんて言うわけない。盗んだのだろうか。でもどうやって?

「そうなんだ。でも何で私に電話して来たの?」

「吉森さんがこの携帯を見つけたんでしょ。その時にこの携帯の中は見たの?」

「見てないよ。渡しただけ」本当はその言い方だと見られてはまずい事が携帯の中にあるって言っている様な物だけど、それを今、顔の見えない所で聞くのはリングが見えないし、あまり警戒されたくないので知らないフリをした。

「そうなんだ。吉森さんは野村さんと仲がいいの?」

「何でそんな事を気にするの?わざわざ野村さんの携帯から電話をかけて来て、意味がよく分からないんだけど。」

 いきなり電話が切れた。ほんと失礼!何なの!野村さんは大丈夫だろうか…。刑事さんは行ったのだろうか…明日病院に行ってみよう。

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