第18話 まったりした時間

「え、ここ吉森の家?」

「そう。」

「デカくないか。」

「家は小さいんだよ。庭がすごく広いんだ。どうぞ入って。」

 外の門を開くと緑のアーチがあり小径が奥に向かって続いている。

「なんか、かっこいいと言うか素敵に庭だね。家の庭じゃないみたいだ。」

「そうなの。お父さんの自慢の庭なんだよね。私もこの広くて素敵な庭が大好きなんだ。じゃあここで待ってて。みそ味食べられる?」

「ああ、大丈夫。」

 吉森は家の中に入って行った。案内されたのは庭の一角にあるウッドデッキだった。そこに座るとキョロキョロと周りを見渡した。家に行くと聞いてドキドキしたがこれなら連れてきたのがわかる気がした。でも警戒されなさすぎてちょっと悲しい気もする。吉森は大小二種類のカップ麺を持ってきて沸騰ポットを外の電源に繋ぐとスイッチを入れ、買ってきた炭酸水を飲んだ。

「あーやっと喉が満たされた。大倉君すごいね。あんなにやって疲れてないんでしょ。」

「まあね。吉森が来る前にあの公園一周走ってるからね。」

「そんなに走ってたの!あそこ結構広いよね。さすが現役だね。」

 カチッと音がしてお湯が沸いた。お湯を注ぐと味噌のいい香りが食欲をそそる。さっきはそんなにお腹が空いていなかったが匂いを嗅ぐと急にお腹が空いてきた。出来上がると話もせず夢中で食べきった。お腹が満たされ、二人してテーブルを挟んだお互いの長椅子に寝転がった。空が見える気持ちがいい。

「吉森。答えずらかったら答えなくていいけど、聞いてもいいか?」

「いいよ。何?」

「何で男苦手なの?」

「ああ、その事。もう大倉君と森田君のおかげでほとんど大丈夫になったよ。中学の時に女子と喧嘩した事をきっかけに、私かなり悪い人扱いされて、その子の話をみんなが鵜呑みにしちゃって、無視とか嫌がらせとかされたんだよね。私の事を好きだって言ってくれていた男子にも嫌われて、人ってこんな簡単に変わってしまうんだなって、それがすごく怖くなってしまって、それ以来なんかダメになっちゃったんだよね。森田君が話しかけてきてくれて、マネージャーにも誘ってくれて慣れてきたら、良い人が周りに沢山いて、中学の時って子供だったから人に左右されやすかったのかもって思えるようになったんだよね。その時は味方になってくれた先生が一人いてくれたおかげで精神が保てたと思うんだ。」

 冬夜の名前が出てきてドキッとした。そうだよな。冬夜一生懸命、話しかけていたよな。何やってんだ俺。嘘までついて…冬夜ごめん。俺、吉森のこと…。

「そうか。その時に俺たちが一緒の学校だったら助けてあげられたのにな。」

「ありがとう。優しいね。くだらない事を聞いてもいい?」

「ああ。」

「モテるってどう言う気持ち?いつからモテてたの?」

「何だその質問。そうだな、物心ついた時には告白されたり、バレンタインのチョコもらったりが普通だったかな。初めは嬉しかったんだよ。だけど、知らない男からお前のせいで好きな女が振り向かないとか言いがかりをつけられたり、誰が俺を落とせるかとか女子の賭けの対象になったりして結局人間不信。冬夜だけは幼なじみでずっと一緒だから信用してるけど、俺も冬夜がいなかったら孤独だったかもしれない。あいつがいると場が和むんだよな。俺が冷たい態度とってもフォローしてくれたりして。モテるって自分の中ではいい事じゃない。」

「そうなんだ。モテすぎるのも悩みどころなんだね。でも両思いの確率高いだろうからやっぱり羨ましい。」

 そんなのわかんねえよ。現に吉森は気がついていないし。

「どうだろうな。眠い…少し寝かせて。」

 大倉君はそう言うとあっという間に寝てしまった。起き上がりそっと顔を見に行った。無防備に寝ている姿は子供みたいで可愛らしかった。携帯を取り出しこっそりと写真を撮った。ごめんね誰にも見せないから宝物にさせてね。

 一時間ぐらいすると大倉君が目を覚ました。

「うわ!今何時!ごめん俺少しウトウトするつもりが結構寝てたかな?」

「一時間ちょっとぐらいかな。もう少ししたら起こそうと思ってた。」

「まじでごめん。気持ちが良くて。」

「私も良くここで寝ちゃうから気持ち、わかるよ。平気だよ。どうせ親が帰ってくるの六時過ぎだし。」

「でもごめん。じゃあそろそろ俺帰る。今日はパス付き合ってくれてありがとな。じゃあ明日。」

「うん。気をつけて。門まで行くよ。鍵も閉めるし。」

 大倉君は申し訳なさそうに帰って行った。いい人だよね普通に。素の大倉君知ったらまたさらにモテるんだろうな。でも言わないんだ…私の宝物だから。

 門を出ると後ろを振り返り「何だろうあの居心地のいい空間。すげー気持ちよかった」また行きたいと本当に思った。家への道のりが明日また吉森に会えると思ったらさらに気分が明るくなった。


 冬夜は家に帰ると奏に電話しようかと考えていた。あいつ吉森さんと何であんなに親しげだったんだ?偶然会ったのか?待ち合わせをしたのか?待ち合わせだとすると連絡先を知っている事になるよな。俺さえ最近知ったばっかりなのに…。顔じゃどうやっても奏にはかなわない。本当のあいつの性格は人懐こくて素直だ。それを知ったら吉森さんだって好きになるかも知れない。奏に内緒にされている時点で吉森さんの事を好きなのは間違い無いだろう。でも言わないのは俺に悪いと思っての事なのだろうか?もう付き合っているのか?冬夜は考え込んだ。


 次の朝学校に行くとカルが真っ先に寄って来た。

「自殺未遂したのって野村さんだって。」

「え!そうなの!」

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