第17話 公園

「飛び降り!」

「自殺未遂だったみたいだけど。」

「未遂って事は助かったんだね。ビックリだね。助かって良かった。」

「うちの学校って用務員さん住み込みじゃん。だから発見が早かったのと茂みに落ちたのが良かったらしいよ。」

「じゃあ今頃先生たちバタバタしてるだろうね。誰が自殺未遂したんだろう?」

「明日は学校普通にあるらしいから行けばわかると思うよ。」

 学校から外出禁止の連絡が来たので、仕方がない今日は家にいるしかないか。

 母親にその事を伝えると「分かったわ、心配ね」と言い仕事に出て行った。七瀬の家は共働きで昼間は誰もいなくなる。父親のこだわりで家は小さいが、庭は大きくウッドデッキに座ると周りは緑に囲まれ、気持ちの良い空間が広がる。平日の昼間に一人でいられるなんてちょっと贅沢な気分だった。ココアを飲みながら少しうたた寝をしていると携帯のメール音がなり目が覚めた。

「おはよ。今、マラソンしてるんだけど、吉森は何してる?」大倉君からだった。

「両親は仕事で出かけてるから、家でのんびりしてるよ。」

「吉森の家の近くに大きな公園あるだろ。ボール持って行くからパスやらねえ?」

「出かけちゃ行けないんじゃないの?大倉君、怪我してるし見つかったらまずいでしょ。」

「怪我はもう治ってるよ。一応頑張って一週間以上おとなしくしてたから平気だよ。それに学校から遠いから誰にも合わないだろ。」

「まあそうだけど。柴崎公園だよね。何時ごろ来る?」

「もういる。」

「え!もういるの!行くっていってたじゃない。わかった。家すぐに出るよ。」

「ゆっくりで良いよ。走ってるから。」

 急いで着替えたが髪の毛はボサボサだったので一つにまとめた。大倉君から連絡があって嬉しかった。公園デートみたい…勝手に想像するぐらいはいいよね。気を許してくれている感じが嬉しかった。


 公園に着いてすぐに「どこにいるの」とメールをすると「壁打ちしてる」とメールが帰って来たので、見当がついたのでそこに向かった。ジャージ姿の大倉君が壁に向かってアタックを打っていた。相変わらず綺麗なフォームだ。

 後ろから話しかけた「いつも思うけど、アタックの打ち方綺麗だよね。」

「教科書通りで面白みがないっていつも言われてるよ。早かったな」なんだよ反則だよ。ポニーテールなんてしてくるなよ。

「近いからね。教科書通りっていわれるんだ。難しいねバレーって。」

「自分だってやってただろ」と笑う…笑顔が眩しい。

「まあそうだけど」直視できない。思わず顔を背けてしまった。

「パスやろうぜ。」

「そうだね。」

 大倉君とのパスは楽しい。そもそも返球がうまいので自分はあまり動かなくてすむ。ほっといたらいつまでも続けられそうだ。


 冬夜は暇で家にいてもつまらなかったので走りに行こうかと考えていた。

「確か奏の家からそんなに遠くない場所にボールが使える公園があったよな。誘うか。どうせあいつも暇だろ」あいつの方が近いし自転車で行く途中で連絡入れるか。


「大倉君、携帯がなってるよ」いいタイミングで鳴ってくれた。全然やめようとしてくれなくて結構キツかったのでやっと水分補給が出来る。小さなペットボトルのお茶では全然足りなかった。大倉君はきかれたくないのか少し離れた所に行って話していた。


「奏、お前暇だろ。」

「暇じゃねえよ。」

「お前の家から近い柴崎公園っていうボール使える公園あったよな。今から行くから、そこでパスとかやろうぜ。」

「悪い、今日はちょっと都合悪い」嘘はつきたくなかったがこの状況で吉森に合わせるのはまずいし、せっかくの二人の時間を邪魔されるのが嫌だった。分かっていながらもどんどん欲張りになる自分がいる。

「まじかよ。もう向かってるのに。」

 向かってる!?まずい。

「悪いな。」

「いいよ。明日な。」

 電話を切ると奏は急いで七瀬の方へ走って行った。

「吉森!」

「どうしたの急いで。何かあった?」

「何でもないけど腹減った。何か食いに行かないか?」

「え!私ジャージだよ。お金も小銭しか持ってないし。」

「やべえ。俺も金持ってない。」

「じゃあ、うち近いから来る?誰もいないし。カップラーメンぐらいはあるよ」と言うと大倉君が固まっていた。

「どうしたの?」

 吉森って俺に全然警戒心ないんだな。男だって分かってんのかな…。でも今はそんな事言ってられないか。冬夜が来る前にここを出ないと。

「じゃあカップラーメン奢って。」

「分かった。じゃあ行こう。」

 自転車に乗ると公園の出口に向かった。奏は冬夜が来るのではないかと気が気ではなかった。でもパス出来ないって言ったから引き返したかもしれない。急に吉森が自販機の前で止まった。

「どうしたの?」

「家に飲み物ないから買って行く。大倉君休みなしでパスやるから喉カラカラだよ。」

「ごめん。気がつかなくて」悪いなと思いながらも焦っていた。お腹が空いたからと理由をつけて早くしてと急がせてしまった。でもとりあえず冬夜に合わずに公園を出れたのでホットした。罪悪感が残った…嘘ついてばかりだな俺。

 

 冬夜は奏に断られたがもう途中まで来ていたので体を動かしてから帰ろうと思い、結局柴崎公園まで来てしまった。どこの広場でやるのがいいのかと案内板を見ていると若いカップルのような二人がジャージで自販機の前にいた。目が悪いので最初はわからなかったが声に聞き覚えがあったので少し近くまで寄ってみた。少し近づくと吉森さんだと分かった。声を掛けようかと思ったが後ろ向きで見えない男がいる事に気が付きとっさに木の影に隠れた。彼氏がいたのか?と思いこっそりと様子を見ていると吉森さんが「大倉君」と言った…奏?後ろ向きだが言われてみれば後ろ姿が奏でに見える。

「何で奏と吉森が一緒にいるんだ?」偶然にあったような雰囲気ではない。二人が自転車で出て行ったので後ろからゆっくりと後をつけた。五分ぐらい走ると大きな門のある家の中に一緒に入って行った。入った後に近くまで行くと表札に「吉森」と書いてあった。二人で吉森さんの家に入って行った…親はいるのだろうか?二人はいつの間にか知らないところで付き合っていたのだろうか。今すぐ入っていって確かめたかったが、親とかがいたらと思うと入れず、すぐ出てくるかと思って待っていたが一時間以上経っても出てこない。ウロウロしている所を変な目で見られていたので仕方がなく帰る事にした。何だよ奏!あいつ!女に興味ないって言っていたくせに。だんだんムカムカして来てどうやって家にたどり着いたか覚えていなかった。

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