第5話 勘違い

 次の日学校に着くと森田くんが話しかけて来た。

「おはよう吉森。昨日は体験どうだった?」

「あ、うん。楽しかったよ。」

「そっか。なら良かった。じゃまたな」そう言うとすぐにその場を去った。澤奈先輩にしつこく喋りかけるなと念を押されていたからだ、吉森は男が苦手だなんて知らなかった。徐々にいっぱい話せるようになれるよな。楽しかったって言ってくれただけいい事にしよう。少しウキウキしながら教室に行った。

 森田くん、もっと話しかけてくるかと思ったのにサラッと行ってしまったのが意外だった。

「吉森!」

 急に呼ばれてビックリして振り向くと大倉くんだった…なんで呼ばれた?

「お前さ…」と言われたあたりで私は弾き出されて女子が大倉くんを囲ってしまった。こうなっては話せないし、教室行っちゃおう。

「おい!」

 関わりたくない早く行こ、スタスタと歩き出すとカルがちょうど来たので一緒に教室に行った。

「どうだった体験は?」

「うん楽しかったよ。」

「入るの?」

「まあ人数いっぱいだし、合格すればね。」


「昨日ね、バレー部のマネージャーの体験に行ったんだけど〜。」

 声がものすごく大きい…聞き覚えのある声が耳に入った。廊下を見ると昨日体験でボールにぶつかりそうになった子だ。

「大倉くんがね、ボールにぶつかりそうになって転んだ私を心配して冷却シートくれたの。」

「えーいいなー。でもボールはぶつかってないんでしょ。ぶつかってないのに冷却シート?」

「多分、尻もち着いたからかな。」

 昨日この子にあげたんだ。一応心配してたのね。

「あ、大倉くん来た。大倉クーン」

 うわ!可愛い声出して。でもいいな女の子って感じだね。

「昨日はありがとう、ひんやりシート使ったよ。おかげさまで痛くならなかったよ。」

「別に、あんたにあげた訳じゃないから。そもそも使う必要ねえじゃん。尻餅ついただけだろ。」

「そんな冷たい言い方しなくても…とりあえず治ったからありがとう。あ、私、岡崎成美、成美でいいよ。じゃあね」ニコッと笑って行ってしまった。

 カルがその様子を見ていて「すごいね。スーパーポジティブ。どう見ても嫌がられてるように見えたけど。」

「まあいいんじゃない。その方が幸せそうで。可愛いよ。」

「七瀬…あれは可愛いって言わないから。」


 授業が始まるので席に着くと相変わらず机にうつ伏せで大倉くんは寝ていた。いつも眠いんだね…この人は…。授業の道具を用意しているとなんか目線を感じた。ふと横を見ると寝ている手の隙間からこちらを睨んでいる?ような目つきで見ている。えっと…やっぱり睨んでる??何か私悪いことした?昨日大倉くんのアタックをレシーブしちゃってプライドとか傷つけた?なんかどこ見ていいかわからず目を逸らしたら小さな声で話しかけてきた。

「お前さ、昨日冷却シートやったのに置いてったろ。それもあいつの鞄の上に…そのせいで変に話しかけられたじゃねえか。」

「あ、あれ私にだったの?」

「あんた手腫れてただろ。」

「腫れてるって知ってたの!」

「あいつワザと避けなかったのにあげる訳ないだろ。あんなのに騙されるかよ。体験の奴らがうるさかったから、ワザと脅かしのつもりで壁に撃ちつけてたんだよ。それも避けられるように少しゆるめに。」

「そうだったの。なんだ…。え、あれでゆるめなの!」

「面倒になったの、あんたのせいだからな。」

「そんな事言われても困るんだけど。」

「責任持ってマネージャーやれよな。」

「まだ決まった訳じゃないし。もう話は終わりで」一番後ろの窓際の席とはいえ、喋っていることが女子に気がつかれたらマズイ。

「勝手に話、終わらせんなよ。腹たつ!」

 それ以降は無視した。

 冬夜はその様子を席から見ていた…奏、吉森と話してる??

 意外だったのはあまり緊張せず話せた事だ。目しか見えなかったからかな…緊張もしなかった。あまりにも遠い存在みたいな人だから逆に意識しなくて済むのかもしれない。森田くんの方は気を使って喋ってくれているのがわかるので、こちらも緊張してしまう。大倉くんは自然に素の状態で喋りかけてくる感じだから、こちらも緊張せずに喋れるのかもしれない。でも自分の中で二人とも顔にフィルターを掛けてみることにした。少し焦点をずらせば緊張しないで済む。

 春野先輩が教室に来てまた呼び出された。

「最初言った通り吉森さんにマネージャーやってもらいたいんだけど、気持ち的にはどう?」

「二名だったんですよね。もう一人は誰なんですか?」

「小宮山楓さん。A組の人、吉森さんと一緒に動きがよかった人いたでしょ。あの人。」

「ああ、運動部だった感じの人ですよね。」

「そうそう。ここだけの話、あの人キャプテンの彼女なの。中学から付き合ってたみたいで、ずっとバレー部のマネージャーだったみたい。」

「ああ、なるほどそれでどうすれば良いか分かっていたんですね。」

「そう。だから大倉目当てでもないし、吉森さんと小宮山さんなら安心でしょ。」

「まあ、確かにそうですね。それなら…よろしくお願いします。」

「一つ聞いて良い?あのレシーブ見ると吉森さん自体がバレーうまそうだけど、本当に自分でやらなくて良いの?」

「はい。もう中学だけでいいかなって思って。それにバイトもしたいし、マネージャーの出席は大会が近くなるまでは交代制で週3でしたよね。それがちょうど都合がいいので。」

「そう、良かった。じゃあよろしくね。でも一応慣れるまでは三人体制でやるから。そのあとに週三体制になるけど、一ヶ月間は毎日来てくれる。これから私の事は澤奈先輩で。私も吉森さんのこと七瀬って呼ぶから。明日から来てね。」

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