第4話 部活体験

 その日の部活は体育館全面を使える日だったので、人が多くても大丈夫だったが、なんかもう化粧の匂いだとか女臭くて奏は嫌だった。冬夜や他の部員はいいじゃん甘い香りとか言って喜んでいた。

「はい集まって」澤奈が声をかけるとゆっくりとみんな集まっていった。みんなゆっくり歩いていたが、吉森ともう一人の子だけは走っていた。やっぱり運動部だったから常識をわかっている。それを見て走る子もいたし、そのまま歩いている子もいた「とりあえず歩いている子はアウトだな。」三十人もいるからふるいにどんどんかけていかないと決まらない。最終的には二人残すつもりだ。

「とりあえず今日はボール渡しとボール拾いをやってもらいます。バレーボールを知らない人が多いと思いますが、やる事は簡単なので出来るかと思います。ボールを拾って籠に入れるだけ。簡単でしょ。元々運動部の子もいたと思うからわかるよね。分からない人はよく動いている人の事を見て自分なりに真似をしてみてください。それではもう男子はパス練習を始めているので邪魔にならないように待機していてください。」

 七瀬は体育館の中を見渡していた。やっぱり高校の体育館は広いし開放感があっていいな。中学以来の久しぶりの部活のなんか自分がするわけじゃないけどワクワクする。男子バレーは迫力があるから見ていて女子と違った面白さがある。最近運動不足だからいっぱいボールを拾おう。中学の時に散々やらされていたのでボール拾いは得意だった。たかがボール拾いだが、意外にコツが必要でプレーしている人の邪魔をせず、いかに素早く拾うかが結構難しい。それにしても…男子バレーなのに女子の方が多いって変な感じ。みんな本当に大倉くん目当てなの?全員がそうとも限らないよね?純粋にやりたくて来ている人もいるよね。でもおしゃべり多いな…大丈夫かな。

「ではアタック練習するのでボール拾いとボール渡しお願いします。」

 みんなボール渡しの方が大倉くんに近いのでボール渡しの方に人がほとんど集まっていたので拾う方へ行った。女子にずっと見られ続け、大倉くんは終始不機嫌そうな顔をしている。まああんなに見られていたら嫌だろうね。ボール渡しは順番制になって順番が来るまではボール拾いになったらしく、拾う方にも人が増えた。それにしてもこんなにいてバレー経験者がいないのも不思議だ。アタックが始まると女子が男子のアタックの凄さにビックリして逃げたりしている。その間にどんどん打たれるのでボールが無くなる。一生懸命拾っているが未経験だし、仕方のないことだがやっぱりみんな遅い。一人だけ動きの良い子がいてその子と駆け回っていた…さすがに疲れる。

 冬夜は吉森に良いところを見せようとアタックを張り切って打っていたが見てくれるどころか拾うのに必死で多分見てないだろう。奏はやる気がないのが丸見で、なんかわざとぶつかって行く女子がいたりしてイライラしているのが分かって、ちょっと可愛そうだ。

「おい奏、真面目にやれよ。」

「やれるかよ。スッゲー近くで見られるは、ぶつかられるわ、気が散ってしょうがねえ。マジで帰りたい。」

「今日だけだから我慢しろよ。」

「わかったよ。」

 その後、奏は逆に物凄いアタックを打ち出し女子をビビらせていた。もったいねえな。もう少し女好きだったら楽なのに。奏はやけになってアタックを打ってコートではなく壁に向かって打っているように見えた。強いボールが壁の方に飛んでいった…その時に一人の女子が気がついていないのかボールの前に飛び出した。

 周りにいた部員が、危ないと叫んだが気がつかず当たると思った瞬間に、その子を突き飛ばし誰かが飛び出してレシーブして綺麗にボールが上がった。みんなが驚いて見るとボール拾いをしていた吉森だった。

「すげえ」冬夜は思わず口にでた。男子の強いアタックを綺麗にあげた吉森にビックリした。吉森って相当うまいんじゃないか?

「突き飛ばしちゃったけど大丈夫?」思わず飛び出してレシーブしてしまったが結構強く押してしまった。その子にみんなが心配して駆け寄ったがそこに大倉君の姿はなかった。七瀬が大倉の方を見ると飲み物を飲んでいた。打った張本人なのになんで来ないの…。

「びっくりしたけど大丈夫です。」

「ああ言う時には逃げないと本当に怪我するわよ。気をつけて。吉森さんありがとう。レシーブ上手ね。」

「いえ、とっさの事で。取るよりレシーブした方が楽だったので、綺麗にレシーブが上がったのはマグレです。」

「じゃあみんな練習に戻って」と澤奈が声をかけ練習は再開された。

 かばった女の子は私の横を通る時に「余計な事をしないで」と言って通りすぎていった。一瞬背筋が寒くなった…避けれたのにわざと避けなかったんだ。それってぶつかれば大倉くんが心配するから?本当にそうならある意味すごい根性だ。かばって損した。急に手がズキっと痛んだ…ジャージをめくり上げると真っ赤になっていた。このアタックが頭でも当たったら下手したら死んでるよ…。久しぶりだったし、あんなに強い力のアタックを受けたらそうなるか…帰ったら冷やそう。でも久々のレシーブ…気持ちよかった。冬夜は吉森の様子を見ていた。なんかすげーな、逃げないでレシーブでかばうなんて…マネージャーじゃもったいない感じがした。腕赤くなってたな、痛めたのかなあんな強いアタック受けたんだもんな。

 全ての練習が終わりマネージャー候補がまたコートに集められた。

「今日はお疲れ様でした。今日はボール拾いとかやってもらいましたけど、基本的にはスコアブック書いたり、飲み物の用意したり、スケジュール管理とかです。でもボール拾い、ボール渡しはこれからもやる事です。とりあえずキャプテンと協議してこの中から二名を選びます。多分明後日ぐらいには伝えられると思いますので、もし選ばれなかったらごめんなさい。他の部活で活躍してください。ではありがとうございました。」

「ありがとうございました」とみんなで挨拶をし荷物を取りに行く。男子は女子を先に帰らせるために外で待っていた。やっぱり大倉くんと森田くんの周りには女の子が群がっていた。その中にあの子もいた。大倉くんが謝ったりするのかと思ったが、そんな素振りは全然なかった。なんか感じ悪いな…まあいいや関係ないし、とりあえず荷物持って更衣室で着替えて早く帰ろう。あれ?自分の荷物の上に何か置いてある…ビニールに入った冷却シートが置いてあった。ビニールに大倉と名前が書いてある。これ部で配ってるやつだ…さっき誰か持ってた。大倉くんが私にくれたの?手が腫れていたのわかったのだろうか。そんなん訳ないか…まあ置き忘れかもしれない…別にもらう必要もないので、そのままそこに置いて帰った。家に帰り両腕が少し赤くなっているだけだったので大丈夫だろうと、ケアなど何もしないでそのまま寝てしまったら、次の日両腕が青あざになっていて冷やせばよかったと後悔した。まだ長袖の季節で良かった。

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