第3話 うれしい誘い


 お昼休みに澤奈は吉森に会いに教室へ向かった。教室の前にはまた女子が数人のぞきに来ていた「相変わらずモテるね」教室を覗くと冬夜と奏が窓際で喋っていた。

「冬夜、奏」声をかけると一斉に女子がざわつく。奏が嫌だって言う気持ちが分からなくもないな。冬夜と奏とは中学からの付き合いだが中学時代もいつも取り巻きみたいなのがいて、部活の時に追い払うのに大変だった。

「マネージャー誘いにきたよ。どの人?」

「吉森、直ぐ横にいるよ。」

 その声が聞こえて器官にジュースが入って咳き込んだ。私…?

「ふふ、大丈夫?ちょっといい?人がいないところに行こう。」

「え、ここで話さないんスか?」

「冬夜考えてみなよ、こんなギャラリーいっぱいの所で話したら嫌だよね。吉森さんちょっと来てくれる。」

「あ、はい」マネージャーの件を断ろうと思っていたのに先輩まで出て来たら断りづらくなっちゃうな。困ったな。一階に降りて中庭のベンチに座った。

「はじめましてバレー部マネージャーの二年、春野です。」

「はじめまして吉森です。」

 色白の可愛い子だな。これは…冬夜好きだから誘ってんじゃないの…。

「あまり時間がないから簡潔に言うと、マネージャーになってくれないかな?」

「森田くんから誘われたんですけど、向かなそうだから断ろうかと思ってたんです。」

「なんで経験者なのに?」

「私はプレーヤーだったのでルールは知ってますけど、マネージャー的な事はやった事ないんです。」

「じゃあ、何部に入ろうと思ってたの?」

「それはまだ決めてなくて…文化部に入ろうかなとは考えていました。」

「文化部は経験者?」

「え、違いますけど。」

「初めてだよね。」ニコッと笑った。

「あっ。」

「マネージャーも初めてなら一緒だよね。バレーボールにはもう関わり合いになりたくない?」

「バレーボールは好きでした。でももう自分ではやろうとは思わなくて。」

「今ね、奏が目当てでマネージャーが殺到してるの、あ、奏って大倉ね。そんな動機で入部されても迷惑だから、奏を見てもなんとも思わない吉森さんが貴重なんだよね。経験者だしみんな文句ないと思うし。部活もまだ決まっていないんでしょ。とりあえず体験って形で入ってみない?やってみてどうしても嫌だったら辞めてももいいから。ただいきなり吉森さんを入れると、ひいきだって思われたらまずいと思うからみんなを体験させてから一応結論出すけどね。その方がいいでしょ。」

「私なんかに、そこまで言っていただいてなんか逆に申し訳ないです。ただ私、ちょっと中学の時に色々ありまして、男の人が苦手なんです。克服しようとは思っているんですけど、中々馴染めなくて、森田くんも挨拶とかしてくれるんですけど、どうしても素っ気なくなってしまって、だから皆さんに嫌な思いをさせるかもしれないんで、本当に期待しないでください。」

「そうなんだ…。でも克服したいならマネージャー業ちょうどいいかもよ。比較的みんな余計な事喋らないし。もしマネージャーに決まったらその辺は気をつけさせるから」吉森さん目立たないけど、可愛いからマジで厳しく言っておかないとダメだな。真面目そうで気に入った。

「明後日、体験の日として連絡するからホームルーム終わったら、バレー部の部室の前に集合ね。」

 肩をポンと叩いて春野先輩は戻って行った。断ろうと思っていたがあんなに一生懸命誘ってくれて申し訳ない気持ちになった。たった一つ上なだけなのに凄く年上でしっかりしている印象だった。サバサバしていてなんかカッコ良くて、あの先輩だったら一緒に出来るかもと希望が持てた。とりあえず明日行ってみてから考えよう。


 吉森さん男子が苦手とは言っていたけど、うちの部は比較的チャラいのはいないし、キャプテンも怖いからまあ大丈夫だろう。受け答えはハッキリして感も良さそうだから、私も多分やりやすい。心配なのは女子バレーに声をかけられないかと言う事だ。部員足りないって言ってたしな。まあとりあえず明後日が楽しみだ。

 七瀬が教室に戻るとカルが走って来て「なんだったの?いじめられなかった。」

 ふっと笑って「そんなんじゃないよ。バレー部のマネージャーにならないかって誘われただけ。」

「え、バレー部っていっぱいマネージャー候補来てるんでしょ。なんで七瀬を誘うの?」

「大倉くん目当てだらけで困ってるんだってさ。」と小さな声で耳打ちした。

「そうなんだ。それでマネージャーなんてなったら周りの女子がやきもち焼くんじゃない?」

「うん。それを無くすために全員に体験させるって決めるって。」

「ああ、それならいいね。部活ってそんな甘いもんじゃないしね。七瀬は入りたいの?」

「はじめは断ろうと思ってたんだけど、先輩がいい人みたいだからやってもいいかなって。まだ部活も決めてなかったし。」

「七瀬がマネージャーいいじゃない。応援するよ。」

「うん。ありがと。」

 冬夜は二人が何を話しているのか聞きたかったが近づいても変だし、部活で先輩に聞けばいいか…気にはなったが仕方がない。奏は冬夜がソワソワしていてそんなに気になるのかと不思議だった。そんなに好きなのか…分かりやすすぎる。部活に行くと明後日にマネージャー候補全員の体験があると聞いてウンザリした。

「マジか…。」

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