第2話 少しずつ前へ

 どの部活に入ろうか悩んでいた。中学時代はバレー部だったが三年に入ってすぐに辞めてしまったし、部活はそれなりに楽しかったが、やっぱり高校は青春がしたかった…とは言え男の子に拒否反応が出ているのに…青春の前に男の子に対してのリハビリが必要だった。野球部のマネージャーを募集していたので入部しようかと思ったが、そもそも坊主頭が苦手だったし大体マネージャーってクラスで可愛い子とかに決まっている。そして男子ばかりの部活は今の私にはちょっとハードルが高かった。みんなチラホラと部活が決まりだし、文化部でもいいかなと考えて始めていた。

 高校に入ってすぐに、朝に必ず「おはようと」話しかけてくる男の子がいた。。まだクラスの女の子も全部覚えられないのに、分かる訳もなく戸惑いながら「おはよう」と返していた。リングは濃いめのオレンジ色だった。このリングの分かりづらいところだが、恋愛感情と友達として好きの区別がわからない。オレンジという事は私に好意を持っているのは確かだ。でもまだ会ったばっかりだし…そんな事があるだろうか。

「あの子誰だろう?私の事知ってる?まさか同じ中学ではなかったと思うけど…。」

 人を覚えるのが苦手な私はしばらくして、席替えをしてあの子が同じクラスだと知った。クラスでは話しかけて来ないので少しホッとしていた。中学時代のトラウマもあり、いきなり男の子と普通に喋るなんて出来なかった。名前は森田とみんなが呼んでいるのでそうなのだろう。私の席の隣に森田くんの友達がいて、そこに来てはいつも喋っていてバレーボールの話ばかりしている。部活はバレー部に入るらしい。その森田くんも人気らしいが、友達の大倉くんは女子に物凄い人気だ。確かにタイプは違うが二人共かっこいい。森田くんは爽やかで優しそうだし、大倉くんは色が白くて綺麗な顔立ちをしている。大倉くんは少し冷たい印象があるので話しかけづらいらしく、他のクラスから女子が見に来ているが話しかけたりはせず、ただ見て騒いでいる。大倉くんと森田くんを見に来ている女の子達は濃い色のオレンジと赤がほとんどだ。こんなに多くの赤を見るのは初めてだった。大倉くんの横の席だからか女子が大倉くんに近づく口実で寄ってきて話そうとするので、大倉くんのおかげで私は女子といっぱい話をする事ができた。目当てはともあれ、口実だろうがなんだろうが女の子と楽しく話せるのは嬉しかった。その中でも百田カルと言う女の子と、とてもく仲良くなった。カルは長身でスラッとした美人系の女の子だったが性格はサバサバしていて優しくて男だったら絶対好きになっていただろう。彼女の私に対する色は濃いオレンジ色だったので凄く嬉しかった。カルも大倉くんが目当てなのかは分からないけど友達になれて嬉しかった。大倉くんのリングは森田くんと話をしている時は濃いオレンジ、それ以外の人はほとんど白だった。あまり感情が激しくないらしい。女の子にしつこく話しかけられると、どんどんブルーが濃くなって行った。あまり話しかけられたりするの嫌なんだな。

 カルは部活を軽音学部に入ると決めていたらしく、午後すぐに見学に行ってしまったので一人で部活を見て回った。渡り廊下を歩いていると「吉森!」と声が聞こえたので誰が呼んでいるのかと思い、キョロキョロとしていると、部室のあるプレハブの手すりの所で森田くんと大倉くんが寄りかかって立っていて、森田くんはこちらを見て手を振っている。どう反応して良いかわからず、手をあげたが愛想なく通り過ぎてしまった。あーもうどうしてこんなに素っ気なくしちゃったんだろう。声をかけてくれるのは嬉しいけど、男子慣れはしたいけど、緊張するぐらいかっこいい子はやっぱりだめだ、失礼だけどもっとこう安心できる感じの子から始めたい。

 人の感情を探る必要もないので指輪を身につける事にした。


「冬夜、吉森さ、愛想悪くねーか。」

「まあね。でもさ、誰にでも愛想いいより良くないか?」

「まあそうだけど。冬夜がいいならいいけどさ。」

「なんかさ、あの素っ気ない感じがまたいいんだよね。まあ一目惚れに近いんだけどね。なんかさ思いっきり笑ってる所とか見てないし、何かつれないところがちょっといいんだけど、笑顔も見てみたくてさ。何か俺の目の前で笑った顔見たいんだよね。」

「お前、Mか?お前結構モテるのに付き合わなかったのってそのせいか?」

「奏、お前失礼だな。そんな訳ないだろ。たまたま好きな子が出来なかっただけだよ。お前だってモテるくせに誰とも真剣に付き合わなかったじゃないか。だから二人でホモ説出たんだろ。」

「俺だって同じだよ。なんか人を好きになる感覚がわかんねえんだよ。寄って来られてもさ顔につられてだろ、俺の性格知らねえだろうし、そんなんで俺の事好きって意味わかんねえ。」

「顔が好きって別にいいんじゃねえか。そこから入ってみて無理ならしょうがねえし。まあ俺は愛を知ったからお前より早く彼女できるかもな。俺に彼女出来ても寂しがるなよ。」

「寂しがらねえよ。でもまあ頑張れや。」

「おう!部活もまだ迷ってるみたいだし、さっそくバレー部のマネージャーに誘ってみようかな。」

「まじかよ。」


 朝、自転車置き場に着くと、いつものように森田くんが話しかけて来た。

「おはよう。」

「おはよう」またそれ以上の言葉が出て来なかった。すごい笑顔で何か爽やかだな。何か私が凄く暗い人間に思える。そもそもあまり可愛くはしゃいだり出来ない。何か少し醒めているところがあるのはわかっている。何でも冷静にみてしまって感動してすぐ泣いてしまう女の子とか可愛くて仕方ない。だからと言ってそんな子と友達になると疲れてしまうのでやっぱりいつもちょっとサバサバしている子と友達になりたいと思ってしまう。そのまま普通に歩き出そうとすると、森田くんが珍しく話しかけて来た。

「吉森さ、部活どこ入んの?」

「えっと、まだ決めてないけど。」

「じゃあさ、バレー部のマネージャーやらない?」

「マネージャー?」

「うん。」

「吉森、中学とき何部だったの?」

「バレー部。」

「まじ?え、じゃあルールとかわかるんだよね。じゃあやってよ。今、何だか知らないけどマネージャー候補がさいっぱい来ちゃってるんだけど、みんなさルールとか知らなくてさ。どう考えても大倉目当てにしか見えなくて嫌だったんだよね。先輩マネージャーもさ困ってて、ルール知ってるんなら尚更いいし。考えておいてよ。ね。」

「う、うん。」

 そう言うとそのまま走って行ってしまった。少しの間喋っただけなのに、周りの女の子の視線が痛い。これは違う意味で怖すぎる。マネージャーなんてやったらそれこそ的になるかもしれない。もうすでに取り巻きみたいなのがいるし、かっこいい子って大変だな。やっぱり後で断ろう。中学で男子に無視されて、高校で女子に無視されるなんて事になったらそれこそ青春が終わりだ。

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