リングが光り輝くとき

木風 詩

第1話 七瀬のリング

 小さな頃から私は人の感情がわかると言うか見えてしまう。自分が当たり前の様に見えているものが、他の人に見えないと言う事に気がついたのは小学校1年生ぐらいの時だった。感情のリングと言うのだろうか、頭の上あたりにイラストとかにある天使の輪と同じようなものが人それぞれについている。通常の状態は白色で人とおしゃべりして感情が変わってくると色が変化して行く。今まで分かった事は気分が良いとピンクからオレンジに変わり、最終的には好きな場合は赤、色が濃いほど気持ちが強い。悪い方の感情はブルーでそこから紫に変わり、怯えていたり、嫌だと言う気持ちが強かったり、一番悪い状態は黒に変化する。何にも感情がない場合は白のまま。何か考え事をしていてもその人のリングの色が変化するので楽しいことを考えているとかが何となくわかる。それが見えるきっかけはいつだったのかを知りたくて、母親に何か事故にあったとか大きな病気をしたのかと聞いてみたが特別そんな事もなく、ただ、あの人怒ってるとか変な事を言い出したのは、母方の祖母のお葬式の時だったらしい。まあそれが原因なのかはよく分からないが。

 小学校の頃はあまり好きとか嫌いとかの感情を見たところで、あまり気にしてはいなかったが、ある時、仲が良いと思っていた先生同士が会話をしている姿を見かけた時に顔は笑っているのに、お互いにリングが紫に光かっていた事がありすごく複雑な気持ちになったのを覚えている。そのおかげで親身になってくれる先生といい加減な先生の区別もつくようになった。良い先生は相談などすると話をしていくうちにピンクやオレンジ色に変化するが、上辺だけの先生は多分面倒なのか濃いブルーとかに変化した。大体の感情の変化が分かるので人と接するのは得意だった。

 物心ついてちょっと悲しかったのは、仲の良さそうなカップルの片方がブルーで片方が赤の時だ。もうすぐ別れるんだなと分かってしまう。私が付き合う人がブルーになって行く姿は見たくない。

 不思議なこのリングは祖母の形見の指輪を身につけると見えなくなる。やはり祖母に何かしらの秘密があったのだろう。それを私が受け継いだのかもしれない。母に何となくリングの話をして見たが「何それおとぎ話?」と言われ母は何も知らない事がわかった。指輪をネックレスにつけてなるべく身につけている。たまに人の感情が見たい時だけ取るようにしていた。ただ薄着になる時は必然的に外さなくてはならなくなるのでそれだけは仕方がない事だった。指輪は銀の土台にグリーンのエメラルドがついているのだがこれは祖父と祖母が海外に旅行に行った時に現地で買ってきたものだと言う。場所を祖父に聞いてみたが忘れてしまったと言うのでルーツを探ろうと思っていたのだがそこで途切れてしまった。


 中学二年生の時に、親友の悪口を言っている女子を怒鳴りつけた事があった。親友は良い子だったのに、女子の中心人物の好きな男子が一緒だと言う事だけなのに、親友を悪く言いふらすその根性に黙っていられなかった。その時の彼女のリングは濃いグレーだった。もともと自分は気が強い方で、プツンと切れるとストレートに文句を言ってしまう性格だったので、その時は、後先何も考えず思ったままを口にしてしまった。その時相手の女の子のリングはブルーから段々濃いグレーに変化をして行き、その時点で嫌われたなと思ったが、別にそんな事はどうでも良かったが、もともとタチの悪い子に嫌われてしまったせいで、その後の反撃が凄かった。男子に泣きながら私にいじめられたと、ない事を言いふらし間に受けた男子に無視をされ悲惨な状態になった。最後の方は男子に嫌われたくないと女子も最低限のことしか話してくれなくなり、悪口を言われていた親友も含め、私と喋る人が一人もいなくなった。その時に私に対してほとんどの人のリングがブルーからグレーで、親身に話を聞いてくれた担任の先生もブルーだった。一番悲しかったのは私の事を好きだと言ってくれていた男の子のリングがピンクから薄いブルーに変わってしまった事だ。唯一バレー部の顧問の先生だけがリングがオレンジだった。学校では段々と人と話せなくなり、特に男子には言葉で攻撃される事が多かった為、男子に対しての恐怖感と拒否感が出てしまい、普通に喋る事が苦手になってしまった。部活もバレー部だったがなんとなく出席しづらくなり、辞めてしまった。唯一救いだったのが辞めた後でも部活の顧問の先生だけが、本気で色々とアドバイスをしてくれた事だ。私を連れて先生が監督をしていたママさんバレーに連れて行ったりしてくれて仲の良い年上のお母さんたちとそこに遊びに来ていた同じ年の違う学校の子とかに励まされた。その先生がいつも気にしてくれていたこともあり、無視はされたが露骨ないじめなどはなかった。まあ無視でも十分といじめだが。その事があって以来少し人間不信になってしまった。こんなに嫌われているのが分かる自分も嫌だった。かなり打たれ強くなってしまって、ちょっとやそっとのことでは傷つかなくなってすっかり可愛げのない女になってしまった。でも変わりたくて、ずっとショートカットだった髪の毛もロングにして普通に楽しく高校生活で友達ができたらいいなと期待していた。環境が変われば人と喋れるかもしれないと思い、わざとうちの中学から一人も進学していない少し離れた高校を選んだ。そこは生徒主体で制服でも私服でもよく、校則は自由で髪の毛を染めたり、アクセサリーをしたりとかは普通に許されていた。その代わり偏差値はかなり高く、勉強はかなり頑張らなければならなかったので辛かったが、必死で勉強して無事合格する事ができた。これでアクセサリーをしていても怒られることはないので嬉しかった。


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