第11話 自分勝手ないいわけ

「奏!」冬夜が教室に飛び込んできた。

「何だよ。」

「今日も挨拶してくれたよ。」

「良かったな。」

「何だよ。その素っ気無い態度。」

「だって毎日同じこと言ってるじゃないかよ。もうそうなると普通の事だろ。」

「いいんだよ。俺はこれが無いと始まらないんだよ。」

「ああ、そうかよ」嬉しそうな冬夜を見ると電話番号の事を言おうと思ったが言えなくなってしまった。あいつが自分で聞くだろう。先に知ってるって言ったら嫌だよな。


「スポーツ大会まで後一ヶ月、実行委員選出するからな。男女二名ずつで四名、誰かやってくれるやついないか。」

 席がざわつく…面倒だよねとか言って誰も手を上げない。

「じゃ俺が勝手に決めるぞ!大倉お前やれ。」

「はぁ?何で俺が?」

「何だよ。お前偉そうだな。女子に媚び打ってばっかりいないでクラスの仕事しろ。」

「はぁ?奏がいつ媚びなんか売りましたか?」前に出ようとした冬夜を奏が引っ張り戻した。

「いいよ。やるから。」

「そんなに大倉が好きなら森田お前もやれ。これで男子は決まったな。女子は誰かいるか?大倉と一緒に係が出来るぞ。」

 今まで大倉くんに普通に接していたはずなのに、先生は何で急にこんな嫌な言い方するんだろう。こんな状況で立候補しずらくなるのは分かっているはずなのに。何か大倉くんに悪いことがあったのだろうか?でもみんなの前でこんな言い方をする先生に腹が立った。

「女子は誰も立候補いないみたいだな。じゃあ大倉、森田お前ら二人でやれ。大倉が女子を受け持てば素直に聞くんじゃ無いか?」うっすらと笑みを浮かべている。

 嫌な言い方にキレた「私やります」とっさに手を上げてしまった…まずい私また目をつけられるかも知れない。でももういいや。どうにでもなれ。

「お、吉森か。良かったな大倉。やっぱりモテるなお前。」

「そう言うことじゃありません。部活も一緒ですが、部活での大倉くんはぶっきら棒であまり人に愛想がないので、大倉くんが女子に媚びを売っている姿を見てみたいくて立候補しました。」

 吉森の方が一枚上手だな。先生が複雑な顔してるよ。森田は少し笑ってしまった。

 七瀬が立候補したのをきっかけに女子がみんな立候補しだした。

「はい!私もやりたいです。」ほとんどの女子が手を上げ出した。

 うわ!大倉くん大人気だ!カルは手を上げていないし、こんなにいるんなら私はやめてもいいかな。

「じゃ、最初に立候補した吉森はやれ。もう一人は吉森が決めろ。」

 うわ、やっぱりやらなきゃいけないのか。でも、まあしょうがないやるしかない。

 周りを見渡すと女子がみんなでこちらを見ている。決めろと言われても…どうしよう。

「えっとじゃあくじ引きで。」

 その後はくじ引きを引く女子たちがヒートアップして、周りで見ていた人たちがドン引きするぐらい大騒ぎだった。そのクジを勝ち取ったのは大倉くんのファンクラブの一人の野村さんと言うあまり喋ったことのない子だった。ファンクラブの子は野村さんがあたったことで、大倉くんと話せる機会が逆に出来るのではないかと喜んでいた。大倉くんを見るとムスッとした感じで機嫌が悪そうだった。それはそうか…そもそも騒がれたくないだろうし。きちんとやらなければ大倉くんが担任からまた何か言われることになってしまうだろう。部活の前に集まって話すことになった。


 クラスで話そうとしたが、野村さんの友達が残って待っていてジロジロと見られて落ち着かなかったので、使用していない理科室に場所を移動した。席に座ると、向かい側に大倉くんが座った。野村さんはチラチラと大倉くんを見ている様だった。大倉くんはそっぽを向いたままこちらを見ようとはしなかった。

「じゃあ明日のホームルームでの出場者決めの話しようか」森田くんが口を開いた。

「負けると担任に俺らの采配が悪いとか言われたらムカつくし、一応勝つのが目的だから、適材適所で経験者はそのまま入ってもらって、空いた所に違う人に入ってもらうって事でいいよね?」

「そうだね。その方が勝てる確率高くなるもんね。スポーツ大会の競技はえっとプリント…。」

「サッカー、バレー、バスケ、テニス」大倉くんがそっぽを見ながら言った。

「話聞いてたんだな。じゃあその部活に入ってる奴らはそのまま振って後は希望したところに入れて、被ったり足りない所はくじ引きでいいよな。」

「そうだね。それでいいと思うよ」野村さんがうなずいた。さっきから横に座っている野村さんの膝の上に置いた携帯の手元が動いているのが気になる。何をしているんだろう?横目でうっすら見ていると、携帯の画面がビデオに変わった。上にあげようとした手を思わず掴んだ。

「キャ、何?」

「野村さんちょっとトイレ付き合ってくれる」掴んだ手を離さないままトイレに行った。

「ちょっと、どうしたの?」

「カメラで何を撮ろうとしてたの?」

「あ、わかっちゃった。滅多に至近距離で動画なんか撮れないからこっそりと撮らせてもらおうかと思って…。」

「そんな事して、バレちゃったら大倉くんもう二度と口聞いてくれなくなるかもしれないよ。それでなくてもそう言う事されるの嫌がってるから。」

「大倉くんの事よく知ってるんだね。」

「マネージャーやってると、言わなくても嫌がってるの分かるからね。」

「ふーん。仲が良いって言いたい訳?」

「違うよ。変な風にとらないで、せっかく仲良く係やろうと思ってたのに出来なくなったら困るし。」

「言いたい事は分かったけど、ほっといて余計なお世話だよ。」

 言葉に詰まった…岡崎さんといい野村さんといい大倉くんを好きな子はなぜこんな感じなんだろう?もっと普通に接すれば大倉くんも態度が変わると思うんだけど。こんな事しようとするから余計に人に冷たくあたったりしちゃうんじゃないのかな。

「ほっとくけど、見つけてしまったら止めるかもしれないよ。ごめんね。」

「何それ、変な人。そう言えば先生が大倉君に冷たくした理由知ってる?」

「知らないけど。」

「先生のお気に入りの女子が大倉くんの事が好きみたいでやきもち焼いたみたいよ。馬鹿だよね。大倉くんにかなうわけないのに。」

「あきれた。先生もファンクラブの子も勝手だよね。勝手に好きになって勝手に大倉くんのせいにして。大倉くん何もしていないのに。」

「そんなのしょうがないじゃない。イケメンに生まれた運命だよ。」

 呆れてものが言えない。考えが普通じゃない。

「もういいや。何言っても通じなさそうだから。」

「え、何それ。」


 奏はなんとなく吉森の不自然な動きが気になり、二人が出て行った後に女子トイレの前に行き、そして二人の会話を聞いた。途中まで聞いていて内容が分かったので教室に戻った。一人でポツンと冬夜が待っていた。

「吉森さんと野村遅いな。おい、なんだよその不機嫌そうな顔。何かあったのか?」

「野村やめさせて、吉森だけにして良いか?」

「急にどうしたんだよ。」

「あいつ、隠れて俺たちの動画を撮ろうとしてたらしい。」

「はぁ?マジか。」

「それに気がついて吉森が連れて行って話したみたいだけど、ふざけた事を言っているから辞めさす。」

「撮る前に吉森が止めたんだろ。そうなるとやった証拠がないし、しらばっくれるかもしれないぞ。」

「だって俺トイレでの会話聞いたけど。」

「まあ奏の好きで良いよ。」

 しばらくして二人がトイレから戻ってきた。

「随分と時間かかったな」と奏が言うと

「あ、ごめんなさい。女子のトイレは長いんだよ」ふふっ笑いながら野村が言った。笑った事でムカついていたのが抑えきれなくなった。

「悪いけど、俺たちを盗撮しようとしているヤツとは一緒に係なんてやりたくないから、野村は辞めてもらっていいかな。」

 えっ。大倉くん何で知ってるの?横にいる野村さんを見ると顔面蒼白になっていた。

「え、そんな事しようと思ってないよ。」

「この状況でしらばっくれようとしているのは凄いね。根拠があるから言ってるって普通わかると思うんだけど」

「話を聞いてたの?」

「ああ、聞いてた。あの時にもうしないとでも言ってくれてれば、別に何も言う事もしなかったけど、あの会話聞いてたらまあ一緒に何かするなんて無理だよね。」

 野村さんは黙ってしまった。

「まあとにかく一緒にやるつもりはないから。吉森、悪いな一人でやってくれ俺たち手伝うから。」

「あ、う、うん。」

「ちょっと待って、ごめんなさい。反省するからやめさせないで。もうしないから。お願い」目をウルウルとさせている。

「まあ、奏も許してあげたら?もうしないって言ってるんだから。野村さんもう絶対しない?」

「うん。しない。」

「じゃあ今回は許してあげようよ。自分が同じ事されたら嫌だろ?もうしないでね。」

 森田くんは優しい。凄いな人間出来てる。悪い方向にしか考えられない自分が少し恥ずかしくなった。見習わないといけない。

「うん。分かった。動画撮ろうとしてごめんなさい。」

 大倉くんは相変わらずムスッとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る