第12話 やきもち

 スポーツ大会、クラスでのメンバー決めはスムーズに進んだ。もともとカリスマ性のある冬夜だったのでなんの不平不満もなくうまく進めた。埋まっていない所も「頼むよ」と冬夜に頼まれるとみんな嫌とも言わず、まあ仕方がないなって気持ちにさせてしまう。彼の人柄の良さが出ていた。審判、ラインズマンなど決まると、もうあとは練習あるのみでクラスに決められた日にコートで練習することになっていたので、係としては、もうあとは当日の用意と点数係だけだった。七瀬のクラスは午後練習だったのでバレーとバスケに出るメンバーが体育館に集まっていた。


「じゃあ始めようぜ。バレーメンバー集まって。」

 冬夜が声をかけると全員八人とも集まった。六人制だが交代ずつ入ることになっていた。

「えっと経験者は俺と、奏と吉森さん。この中でバレーボールやった事のある人いる?」

「はい。小学校の時三年間やってた」山崎紗江が手をあげた。

「ポジションどこだった?」

「セッター。」

「それは助かる!」

「あ、でも小学校以来やってないよ。」

「じゃあ一応練習でどんな感じか見せて。」

 スポーツテストは固定ポジションなので、奏と冬夜がアタッカー、山崎がセッター、レシーブのセンターに七瀬が入り、あとの初心者メンバーは空いている所に入った。反対側からボール入れてもらい三回で返す練習をした。二人がアタッカーであとのメンバーで必死に拾うことになり、結構な負担が七瀬に行くことになった。

 七瀬は練習が楽しかった。プレッシャーに押しつぶされそうになるバレーと、みんなで楽しくやるバレーとは全然楽しさが違う。冬夜と奏は勝つ気満々だったが七瀬は楽しくやれればいいやと思っていた。意外と山崎が上手だったので二手に分かれて練習を始めた。冬夜と奏は山崎とトス合わせをして、七瀬は初心者組を連れてレシーブの基本の形を教えていた。

「吉森さん腕はどこら辺で構えたらいいのかな?」初心者の沢井隆二が聞いてきた。

「膝曲げて、おへその前あたりに手首がくれば大丈夫だよ。」大倉くんと森田くんのおかげで男の子と喋る事の抵抗がなくなってきた。

「ここらへん?」

「あ、もう少し上かな。」

 沢井くんが手をあげようとした時にバランスを崩して倒れそうになり、焦って七瀬にしがみ付いて転ぶのを防いだ。七瀬はびっくりはしたがわざとではないのは分かっていたので触れても大丈夫だった。

「あ、ごめん吉森さん。」

「あ、大丈夫。沢井くんも大丈夫?」といった話をしていた所にすごい勢いでボールが横を通り過ぎて行き七瀬と沢井はびっくりした。二人の横を奏が通り過ぎ、

「悪い、手が滑った」とボールを拾いに行った。

 ムカついた。分かっている…わざと触ったのではない事ぐらい。でも止められなかった。吉森は俺のものでも無いし、そんな事をする権利も無いのも分かっている。でも男と喋っているのを見ると日に日にイライラが強くなるのがわかる。でも吉森を好きなのは俺の親友だ。それを裏切って告白なんか出来ないし、するつもりもない。でももし吉森と冬夜がくっつく事がなければが間違いなく告白するだろう。それでも今、何も出来ないことにイライラは募るばかりだ。奏がボールを拾って戻ると冬夜が

「奏、俺のために邪魔してくれたんだろ?ありがとな」と言うので「ああ」としか答えられなかった。

 

 教室でカルと話をしていると「吉森さん!」と沢井くんがよく話しかけてくる様になった。少し可愛らしいので男の子って感じがあまりしなく、喋りやすいのは良いが、あのバレーボールの練習以来、懐かれてしまったみたいでカルに嫌がられていた。

「ちょと何よ。七瀬は私のなんだからちょっと優しくされたからって、気安く喋りかけないでくれる。」

「え、俺だって吉森さんの事を好きなんだから話しかけたっていいだろ。」

 びっくりしてカルと目を合わせて固まった。

「ちょっとそれ本気で言ってる?」

「え、言ってるよ。吉森さんって目立たないけど、実はかなり可愛いよね。性格も優しいし。近くで見て惚れた。」

「七瀬の良さを分かってくれるのは嬉しいけど、私のだから。」

「でも百田さんは彼氏にはなれないでしょ?」

「まあそうだけど。」

「と、言う事で、俺の事もっと知って欲しいからとりあえず友達になろうよ」と手を出してきた。

 あまりの素直さに笑った。

「ふふ。そんなにストレートに好きだって言われたの初めてだよ。付き合うとかは私は多分無理かもしれないけど、友達なら」と握手をした。

「やった!じゃあライン交換しよ。百田さんも一緒に今度遊びに行こうよ」と言いアドレスを交換すると喜んで戻って行った。

「面白いね沢井くん。」

「よく七瀬がオッケーしたね。男嫌いなんじゃないの?」

「そうなんだけど、なんか沢井くんが中性的だから大丈夫みたい。付き合うわけじゃ無いし。」

「まあ、いいリハビリになるかもね。」


 沢井は二人から離れると心臓がバクバクしているのが分かった。

「やばい、吉森さんの笑顔初めて見た。半端なく可愛い…。」


 冬夜はその様子を見ていた。あんな簡単にライン交換しやがって。ゆっくりと仲良くなろうと思っていたのに…沢井のやつ…ふざけんなよ。

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