第13話 バイト帰り

 七瀬はバイト先の厨房で、いつもの様に料理を作っていた。 もう手慣れたもので全てのメニューが作れる。人に大分慣れたので店長にフロアーに出ないかと言われているが、結構頻繁に岡崎成美が店に来るし、見つかるのも面倒なのでもう少し待ってくれと頼んだ。岡崎成美が来る時は大倉君に来ているよメールをしているので大倉君は少し遠回りしてお店の前を通らない様にして家に帰っている。岡崎成美は会えなくても毎日のように張り込んでいる…すごい執着心だ。今日もメールをするといつもの様に「ありがとう」と帰ってきた。そして今日違っていたのは大倉君から「何時に終わる?」とメールが帰って来た事だった。

「九時に終わるよ。なんで?」

「今日この辺に不審者が出たみたいだから家まで送るよ。」

「あ、そうなの。じゃあお願いします」不審者よりも会えるのが嬉しい。

「九時にコンビニの前に行くから。」

「ありがとう。じゃあ後で。なるべく早く行くよ。」

 今までも、偶然大倉君ががコンビニに居て送ってもらう事があったが、待ち合わせしたのは初めてだった。バイトが終わり急いで支度をして外に出ると自転車に乗りコンビニまで行った。相変わらずのマスクとメガネで誰だか分からなくて逆に不審者に見えそうな大倉君が立っていた。

「ありがとう。わざわざ来てくれて。」ふふっと笑うと。

「何、なんかおかしい事あった?」

「大倉君、メガネとマスクで不審者っぽく見えるよ。後で帰る時に警察に声かけられない様に気をつけて。」

「別に平気だよ。じゃ、行くか」ゆっくりと自転車を漕ぎ出した。

 吉森は最近、バイト帰りに会うと俺の前でよく笑う様になっていた。できる事なら俺以外の男に笑いかけて欲しくなかった。不審者が出たなんて実は嘘だった。昼間の沢井が気になり、だた吉森と会いたかっただけだ。

「大変だね。岡崎さん毎日のように大倉君のこと探してるみたいだね。」

「俺を見つけた所で相手にしないから、何の為に待っているのか、よく分からないけどね。話する気もないし、はっきり断ってるんだけどな。」

「うん。まあ確かに。」

「あのさ。」

「うん?」

「吉森お前、沢井と仲良いの?昼間楽しそうに話してるの見たから。」

「沢井君?あ、スポーツテスト以来、なんとなくはなすようになって、本気かどうか分からないけど、友達になってくれって言われてあまりにも素直でストレートで思わず「いいよ」って言っちゃった。いい人だよね沢井君。」

「俺は?俺はいい人じゃない?」

 突然どうしたんだろう?えっと真面目に答えたほうがいいのかな?

「大倉君はぶっきらぼうだけど、すごく優しくていい人だと思うよ。今日だって心配して送ってくれているし。」

「当たり前だろ。分かってればいいよ」と笑った。

 本当に滅多に見れない大倉君の笑顔は反則だ。これをみんなんが見たらもっとファン増えるだろうな。でもこれは私だけの宝物。

「なんだ真面目に言うからびっくりしたよ。ちょっと褒めすぎたかも。」

「はあ、なんだよそれ。もう送ってやんね」とすねた。大倉君も大分可愛い。そんな事を本人には言えないけど。

 ゆっくりと漕いでいたのにあっという間に家に着いてしまった。

 自転車を降り「ありがとう。また明日ね」と言うと、

「ああ、じゃあな」と言っておでこをパシッと叩かれた。

「いた!」大倉君は笑いながら帰っていった。叩かれたおでこは痛さなのかよく分からないが、熱が出たみたいに熱くなっていた。


 その様子を陰から見ている人物がいることを二人は気がつかなかった。

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