第14話 スポーツ大会
スポーツ大会の当日、係の仕事に追われていた。自分の出番まで用意やライン引きなど、やる事がいっぱいあった。動画の件で野村さんとはじめにもめた以来、特に何も起こらず、意外にも用意等しっかりとやってくれていた。森田君の一言が大きかったのかな。森田君と喋っているとなぜか自分がすごく小さい人間に思えてしまう。大倉君は相変わらず何をしていても周りに女子が集まって来て、眉間にシワが寄っている。今更だが逆によく耐えてると思う。試合の時ギャラリー凄くいっぱいになるだろうな…ミスとかして負けたら何を言われるか…。
自分達の出番が来るので体育館に行った。やっぱりギャラリーが凄い!ほとんどが女の子だ。絶対ハイタッチとかしないようにしよう。怖すぎる。肩をポンと叩かれ恐る恐る振り向くと沢井君だった。
「沢井君か〜良かった」大倉君だったらどうしようかと思った。
「俺で良かったってどう言う意味?」
「あ、深い意味はないから。ただなんとなく安心しただけ。」
「なんかよく分かんないけど、頑張ろうな。それにしても大倉のおかげか女子のギャラリーだらけだな。カッコいいとこ見せないと。」
「おかげでって思うんだ!ポジティブだね。活躍したらファンが出来るかもよ。練習いっぱいしたんだから頼んだよ」沢井君は運動神経が良くて結構機敏に反応して初心者なのに上手だった。
「おうよ。任せろ!」
色々な意味で緊張していたが沢井君のおかげで少しほぐれた。
そこに森田君がやって来た。
「仲良さそうに、何喋ってんの?俺も入れて。」
「ただ頑張ろうって話をしてただけなんだけど、女子が多すぎてびっくりだね。」
「まあほとんど奏が目当てだろ。逆にいっぱいみっともない姿見せてファン減らすしかないね。」
「それいいな。失敗しようか」後ろに大倉君が現れた。女子がざわついた。
「ちょっと山崎さん達を探してくるね」急いでその場から離れた。それでなくてもバレー部のマネージャーをしていて批判を浴びているのに、こんなみんなが見ているところで仲よく喋れない。
なんだよあいつ。すぐいなくなりやがって。奏は七瀬の後ろ姿を目で追った。
試合が始まるとすぐに女子の黄色い声援が飛んだ。大倉君や森田君がアタックを決めると大歓声で盛り上がり、相手チームが決めるとブーイングされ相手のチームが可愛そうだった。かなり点差が開いていたので、大倉君が私を前衛で打てと言って前に出されてしまった。まさかアタック打つことになるとは思わなかったけど、ちょっとワクワクした。私の後ろのフォローが大倉君だったので安心して任せられた。山崎さんはレシーブしたいと言って後ろに下がり、沢井君はアタック打ちたいと前に出てくるし、結局いつの間にか私はセッターになっていた。それはそれで楽しかったが沢井君がはしゃぎすぎてアタックを空振りしたり、手を出さなくていい所まで取りに来たり、一人で空回りしていたので、ほとんどの点を森田君が取らなければいけない始末となった。沢井君が「こっちこっち」と叫ぶので仕方なくトスをあげると、手が滑りトスが自分の近くに上がってしまった。「しまった」と逃げようと思ったが、沢井君があっという間に突っ込んで来てしまったので避けている暇がなかった。
「おいバカ!」大倉が沢井を引きとめようとしたが、すり抜けて走って行ってしまい勢いよくぶつかり、七瀬が後ろに飛ばされた。床にぶつかると思った瞬間に大きい物に包まれた感じがあった。その瞬間女子の悲鳴が上がった。倒れたが、あれ?痛くない。目を開くと自分の下に大倉君が倒れていた。試合は止まりざわざわとしていた。
「ごめん吉森さん、大丈夫!」沢井君がが心配そうに見ていた。
「うん、大丈夫みたい。」
ゆっくりと起き上がると下に倒れている大倉君に話しかけた。
「かばってくれたの!ごめんなさい。大丈夫?」
「いってえな!吉森がごめんなさいって言う必要はねえよ。沢井!ふざけんなお前。あそこで突っ込んで行くかよ!」
「ご、ごめん。俺ボールしか見えてなくて。」
奏は立ち上がろうとして腕を着くと肘にズキっと痛みが走った。
「痛え。」
「やばいな。奏。病院行こう」冬夜が支えて立たせた。
「センセー。大倉が怪我したからちょっと退場します。どうするみんな残った六人で試合続ける?」
「そんな気分になれないし、どうせやった所で二人がいないと負けるから。棄権するよ。俺も一緒に病院に行く」沢井君が心配そうに見ていた。
「じゃあセンセー。棄権します」その言葉で周りの女子がざわつき心配する声が聞こえた。
「あんなやつ庇わなければ良かったのに」岡崎成美は心の中でそう思った。
心配して保健室にカルが来てくれた。
「七瀬大丈夫だった?」
「うん。」
「大倉のやつ無愛想でなんか好きじゃ無いけど、七瀬を守ったのは偉かった。」
「でも腕を痛めてしまったみたいで。どうしよう。」
「まだ一年生だし、大会出る訳でも無いんでしょ。」
「多分出ないと思うけど…。でも実力が伸びて来てるから出れたかもしれないし。」
「まだどうなるか分からないから、あんまり気にしすぎない方がいいよ。」
「うん。」
結局その日はそのまま大倉君は病院へ行ったまま学校へは戻って来なかった。迷惑かなと思いながらも心配でメールをしてみた。
「今、家?病院?腕はどうだった?大丈夫?」
意外にもすぐに返信が返って来た。
「大丈夫。少し打っただけだから一、二週間で治るってさ。心配だった?」
「それはそうだよ。かばってもらったのに心配しない訳ないでしょ。部活の事もあるし。」
心配してくれてたんだ…思わず顔がニヤける。
「何かお礼したいんだけど、何かして欲しい事とか欲しいものとか無い?」
頭の中で映画に行きたいとか遊園地とか行きたいとか色々出て来たが、そんな事は言ってはいけない。
「今度、吉森のバイト先で何かおごって。」
「そんな事でいいの?何かあったら言ってね。湿布とか。」
「湿布なんて病院でいっぱいもらえるからいらないからいいよ。」
「分かった。ありがとう。じゃあいつでもおごるから来るとき教えてね。」
「分かった。」
「じゃおやすみなさい。」
短い会話だったが初めて岡崎の事以外の話題だ。いつも何を喋っていいのか分からなくてメールが出来なかったので嬉しい気持ちだったが、冬夜の事を考えるとあまり入り込んではいけない事は分かっている。あんなに初めから吉森に一生懸命話しかけていて、後から俺が割り込んだらあいつの努力が無駄になる。ただ思うだけならいいよな、といつも自分に言い聞かせているが、いつ思いが溢れてしまうか自分でもよく分からない。でも冬夜を絶対に裏切る事は出来ない。メールのやり取りをしているなんて絶対に言える訳がない。バイト先に食べに行くのは冬夜と行った方がいいのか?でもいつそんな話になったんだなんて突っ込まれたらボロが出ないだろうか。最終的には吉森と二人の空間に誰かが入るのは嫌だと言う結論に終わった。
「俺、人間ちいせえな」自分にがっかりした。
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