第15話 森田君の心配
奏が次の日に学校へ行くと、ロッカーの中に湿布やら手紙やら色々なものがいっぱい入っていた。鍵をかけてあったはずのロッカーが空いているなんておかしいだろ!いつの間にナンバーを見られていたのだろう?腹立たしい上に怖すぎる。ロッカーに入っていたのものを全てカバンに突っ込むとそのままゴミ置き場に行き全部捨てた。またこの事もどこかで見られていて冷血とか色々言われるんだろうと覚悟をした。
教室に行くと冬夜がすぐに近づいて来た。
「はよ。どうだ腕は?」
「二週間ぐらいおとなしくしてれば大丈夫だってさ。」
「部活はどうすんの?」
「体動かさないとやばいから、一週間は休んでその後は走り込みとかから体戻す。」
「まあそうだな。動かないとやばいもんな。」
「あの後大変だったぞ。女子らに沢井責め立てられて。笑えるぐらい。めちゃめちゃ落ち込んでた。気にすんなって言っといたよ。」
「まあ一生懸命だったからしょうがないしな。」
「吉森は女子から羨ましがられてた。」
「はあ?なんで?」
「だってお前に助けられたんだぞ。そりゃ王子様に助けられたらうらやましいだろ。」
「何が王子様だよ。みんな俺の見方変だよ。中身見たら俺なんかよりいい奴いっぱいいるのに。」
「まあ中身知らないからこそだろ。」
「あー面倒くせえ。」
七瀬は廊下から教室を覗くと大倉君がいる事にホッとした。良かった元気そうだ。教室に入ろうとした瞬間、沢井君が「吉森さんおはよう」と言い、そのまま走って大倉君の所へ向かって行き、「大倉〜」としがみついて行った。
「なんだよ沢井腕さわんなよ。痛えよ」
「あ、ごめん。大丈夫だった?」
「ああ、大丈夫だよ。」
「良かった〜俺、女子に殺されるかと思った。」
「大袈裟だよ。別に気にしなくていいよ。」
沢井が真顔で
「大倉っていい奴なんだな。普段愛想ないから気取った奴だと思ってたけど。なんでもするから用事言いつけてくれ。」
「じゃあ、今教室の外から見てる女子を追っ払ってくれ。面倒だから。」
「え?」
「うそうそ、冗談…」
分かったと言うとあっという間に教室の外にいる女子を追い払っていた。びっくりしたが笑えた。あいついい奴なんだな。
「おいあいつ大丈夫か?また女子に嫌われるぞ。」
「そうだな。でもあいつ面白いな。」
沢井は戻ってくると
「なんでも言ってくれ」と笑いながら言うので
「程々でいいよ。女子に嫌われると悪いし。」
「あ、気にしなくていいよ。俺、吉森さんと百田さんに嫌われなければいいから。」
こいつ吉森の事…なんだよ吉森モテモテじゃねえか。ちょっとイラッとした。
今日はプールの授業がある日だった。今までの体育は指輪を外さなくても、ネックレスに下げているので、服でみえないから大丈夫だったが、プールにネックレスを付けてはさすがに入れない。仕方なくロッカーにしまってプールに行った。最近はずっと付けていたので久しぶりにリングを見る事になってしまった。カルは綺麗なピンク色で精神状態が良い事が分かった。全体的にピンクが多く、多少ブルーの人もいたがそんなにどぎつい色でも無く心配する程でもなかった。プールは少し高いところにあるため壁まで近づき下を見ると校庭でやっている男子のサッカーが見える。そこを覗いている女子の中に赤色の子がチラホラといて、男子の中に好きな子が居るんだなと言う事が分かった。下を見ている団体の中に一緒に係をやった野村さんもいた。リングは赤色だった…大倉くんを見ているのだろうか。自分のリングは鏡を見ても見えないから分からないけど、もし私のリングが見えたら大倉君を見た時に何色が出るのだろうか。とりあえず変な色のリングを見なくて済んだのでホッとした。水泳が終わり着替えていると、野村さんが近寄って来て「ねえ吉森さん、近いうちに係の四人でスポーツ大会の打ち上げしない?」
「打ち上げ?いいけど。大倉君たち行くかな?」
「それで、私が言うとさ、この前の件もあってなんとなく気まずいし、嫌がられたら困るから吉森さんが誘ってくれないかな?同じ部活だし喋れるでしょ?前に嫌な思いさせちゃったから謝りたくて。その代わりお店は私が手配するから。ね、いいでしょ。」
「うん。まあ私はいいけど…。一応誘ってみるけど、あまり期待しないでね。」
「分かったありがとう。よろしく」今度こそ何か成果をあげないと…。
「大倉なんかのどこがいいんだか。野村さん必死だね。あれじゃ仲良くなれないと思うけどな」とカルが野村さんの事を見ながら小さい声で言った。
「大倉君はともかく森田君はいいよって言いそうな気はするんだけどね。なんかギクシャクしたままじゃ嫌なんだろうな。」
「そもそも動画なんか撮ろうとしたから嫌われたんでしょ。」
「まあそうだけど。その後は別に一生懸命準備してるの二人とも見てたからもう平気だと思うけどね。」
「もし打ち上げやるってなったら、カルも来ない?なんか野村さんと二人だと息が詰まる。」
「え〜やだよ。だって七瀬以外あんまり喋った事ないもん。じゃあさ七瀬は三十分ぐらいしたら用事が出来たって帰っちゃいなよ。そしてその後で私と遊ぼうよ。」
「え!三人で残すの?それこそ気まずいんじゃない?」
「七瀬がいなくなればどっちにしても話すしかないでしょ。その方が打ち解けるんじゃない。」
「そんなもんかな?」
「だってどう考えても話しやすい人の方と喋るでしょ。」
「まあ、そうだよね」そんな事をして森田君はともかくとして、大倉君に恨まれるのではないかと心配になった。
部活に行くと森田君が練習試合の日程について話しかけてきた。話が終わるとまだ練習が始まる前だったので昼間の話を持ちかけた。
「あのさ、ちょっと話して良い?」
「え、うん。」
「あのね。野村さんがスポーツ大会の係だった四人で打ち上げしませんか?って言ってるんだけど森田君はどう思う?」
「奏が良いって言えば行くけど、あんまり気が進まないよね。なんとなく良い印象じゃないし。」
「謝りたいって言ってたよ。このまま気まずいのも嫌だって。」
「一応、奏には言ってはみるけど多分あいつは行かないと思うよ。吉森さんと三人なら行くと思うけどね。」
「それは野村さんを仲間外れにしているみたいで行きづらいな。」
「まあそうだね。一応伝えておくから。」
「うん。よろしく」多分行く事はないだろうけど、謝れる機会もないのだとすると、少し可哀想な気もした。でも二人が嫌なら仕方がない。
「あ、そうだ吉森さん。俺とライン交換しない?奏に返事もらったらメールするよ。」
「え、あ、うん。そうだね」高校に入ってから携帯に人の名前が増えて行く。それでも他の人よりは少ないだろうけど連絡先を聞いてくれるだけでも嬉しかった。
その日の夜に森田君からメールが来た。思った通り大倉君は行かないって言ってるらしい。野村さんに言いづらいけど仕方がない。
「吉森さんってバイトしてるんでしょ。どこで働いてるの?」
「森園駅のスノードロップっていうコーヒーショップの調理場で働いてるよ。」
「森園駅って奏が住んでる駅じゃん。でも意外!調理場なんだ。へえ、吉森さんが作ってくれるんだよね。行って見たいな。明日とかいる?」
少し前に大倉君からメールが来ていて明日おごってと言われている。どうしたら良いだろう。一緒に来れば?と誘った方がいいのか?そうすると以前から連絡をとっている事が分かってしまう。仲間外れにしているみたいでそれは悪い気がした。次の機会に一緒に来てもらう方がいいかなと思った。嘘は申し訳ないが今回だけ許してもらおう。
「明日はバイトに入っていないから、今週の木曜日なら大丈夫だよ」とメールを打った。
メールのやり取りを終えると「俺自然だったよな」と呟いた。男の人が苦手と言っていたが最近は慣れたのか普通に笑うし男子とも喋りだしている。すでに沢井が吉森さんに近づき始めている。あいつは結構遠慮なく行くタイプだから吉森さんがおされて遊びに行ったりとかしかねない。だからこれからは少し積極的に行く事に決めた。これからはどんどん誘って行こう。
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