第8話 帰り道

 今日は大倉君の希望でドアを開いた状態で部活が始まった。珍しいなんでだろう?

「ちょっと吉森。」

 え、私?大倉君に呼ばれビックリした。ギャラリーの女の子達がザワザワしてる。視線が痛い中、大倉君に近づいて行った。

「な、何?」

「周りにビビってんじゃねーよ。ちょっと手伝ってくれ。」

「あ、うん。手伝いって何?」

「今日、冬夜いねえだろ、俺とパスやってくれ。」

「え、私しばらくバレーやってないよ。誰か他の男子と組んでやった方が練習になるよ。」

「ちょっと都合があるんだよ。先輩達にはオッケーもらってるから。」

「なんだかよくわからないけど、分かった。でもちょっと柔軟してもいい?すぐすむから。」

「ああ。いいよ。」

 そう言うとコートの端を走り出し、柔軟を始めた。五分ぐらい体を温めた。

「いいよ大倉君。」

 大倉君とパスを始めたのでもっと周りがざわつき出した。よく分からないけど、今は手伝ってくれと言われたからやるしかない。久しぶりのパスが懐かしい。自分が通っていた中学は強豪校で男のコーチが四人もいた。全員手加減なしで打ってきたボールを取っていたりしていたので、男子のボールはそんなに怖くはない。ヤバかったら避けるしかないよね。でもこの高校で勧誘されたくなくて学校名はカルにしか言っていない。大倉君はかなりうまいし取りやすい。パスは思ったより楽しかった。

 何だよ吉森、メチャメチャうまいじゃねーか。その辺の男子より返球がしっかりしている。何だこいつ…俺のアタックを取った時、レシーブは多分うまいだろうと思ったけど、まさかこんなにうまいとは思っていなかった。何でバレー自分でやらないんだ?あの女に見せつけのつもりでやったのだが、うまさに驚いてその事を忘れていた。パスの終了のホイッスルがなった。ありがとうございましたと頭を下げ

「パスサンキュ。」

 息を切らしながら「ありがとう、久しぶりですごく楽しかった。大倉君やっぱり上手いね。何だかよくわからないけどやれて良かったよ」と自然な思いっきりの笑顔が溢れた。

 思わず固まった…いつも引きつった様な笑い顔しか見ていなかったから別人かと思った。ビックリするぐらい可愛かった…やべえ何か心臓ドキドキする。

「ああ、また頼むわ」焦ってそっけない返事しか出来なかった。次はアタック練習だったが覚えていないぐらい動揺していた。休憩に入り、スタスタとギャラリーの方へ向かって歩いて行った。女子が「キャー」っと悲鳴をあげる。

 思わず「うるさい!」怒鳴ってしまった。その瞬間シーンとなり、走って逃げて行ってしまう子もいた。もうそんなのどうでも良かった。

「おい、さっきの。」

「大倉君!」話しかけられて嬉しそうだった。

「あんた、吉森と同じ様に俺とパス出来るか?今日冬夜がいなくて代わりにパスやってもらったけど、俺はすごく練習になった。役に立たないとか言ってたけどあいつがいてすごく助かった。あんたにあれと同じ事が出来るんならマネージャーにするけど?」

「いきなりそんなこと言われても…初心者なのに無理だよ。だけど努力して練習するよ。」

「男子と同じレベルで初心者でやるなんて無理だろ。俺に教える時間はないから。もし上手くなりたいなら女子バレー部入れば。じゃそう言う事で。」

 悔しかったけど、何も言えなかった。出来るわけないじゃん。初心者なんだから、いいじゃん友達ぐらいなってくれても。あんな奴もう好きになるのやめる…でもやっぱりかっこいい。冷たいけど喋れて嬉しかった…。


 今日は部活が終わるのが遅くなり、午後八時を過ぎてしまっていたので、さすがに取り巻きの女子達は帰っていた。楓はキャプテンと先に帰ってしまって自分が最後になってしまい、日誌を片付け整理整頓をして部室を出ると後ろから大きな人影がついてきたので怖くなり走り出すといきなり腕を掴まれた「キャー」と声が出た瞬間に大きな手で口を塞がれた。

「ちょ、ちょっと俺だよ。大倉。」

 口を塞がれた事と肩を掴まれた事で少し固まった。

「ちょっとビックリさせないで。誰もいないと思ってたからもう、怖かった。」少し涙目になった。

「どうしたの?何、忘れ物?」

「いや、たまたま見かけたから。チャリだろ。遅いし一緒に帰ろうぜ。早く部室の鍵返して来いよ」本当は遅くなって危ないと思ったから待っていた。

「あ、うん。」職員室に行く間ドキドキが止まらなかった、怖かったのと大倉君に掴まれてビックリしたのと…あれ?触られたのに気持ち悪くならなかった。

 下駄箱に行くと大倉君が外で待っていた。あれ?メガネ?目が悪かったの?

「お待たせしました…メガネかけてるの?」

「ああ、前に女の子に家までつけられそうになって途中で気がついて巻いたんだけど、それ以来メガネとマスクして変装してる。」

「なんか私より、大倉くんの方がボディーガードつけた方がいいんじゃない?」

「知ってた?俺、吉森と家が同じ方向だぜ。」

 そう言うと一緒に歩き出した。いつも席は横だが座った状態で喋っているので、すぐ隣に来ることはなかったので気がつかなかったが、さすがバレーやってるだけあって背が大きい。百八十以上はあるよね。それも目立つ原因なのかもしれない。

「それも家に帰る途中で見かけたことあるし、何駅に住んでる?」」

「坂下駅」

「俺一つ先の森園駅。百田となんか家の話してただろ。そん時同じ方向なんだって知った。」

「そうなんだ。知らなかった。」

「前は電車で通ってたんだけど、混む電車のると痴漢にあったりしたから、それから自転車通学に変えた。」

「痴漢?!男なのに!…えっと聞いていい?痴漢してくるのは男?女?」

「両方だよ。」

 そう言った瞬間にまた吉森が笑った。自然な笑顔だ。笑えるんじゃん。

「ごめん。大変なんだろうけど、なんかおかしくて。だって自分より背の高い人を痴漢するなんて考えられないよね。その時はどうするの?」

「男に痴漢されて何すんだよ!って言うのもなんか嫌だからとりあえず、男は握力全開で手を握り潰す。女は手を引っ叩く。」

「イケメンあるあるなのかな。凄い話だね。」

「まあ確かに凄い話だよな。」

 この話は誰にも言えないな。大倉君はあまり気にしなそうだけど、なんで知ってるのって問い詰められて、こんな一緒に帰った事がバレたらそれこそ大変だ。あ、友達そんなにいなかったから関係ないか。それにしても何だろう大倉君は怖くない。気を使われないからこちらも気を使わなくてすむ。多少のフィルターを掛けて見ているのはあるが、前はカッコいいので緊張していたが、今は綺麗すぎて何かお人形さんの様で逆に平気になってきた…人間ぽくないから大丈夫なのだろうか。私のペースに合わせてくれて少し遅めに自転車を漕いでくれているのがわかる。

「男苦手なんだろ。」

「あ、うん。でも何だろうね。大倉君は意外に平気みたい。」

「はあ?」どう言う意味なんだ?男として意識していないってことか?

「いや、なんか怖くないっていうか。よくわからないけど。」

「それって良い意味?」

「うん。」

「まあ、それなら良いや。」

 結局家まで大倉君は送り届けてくれた。冷たそうに見えるけど、内面は優しいんだな。

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