第9話 スポーツ大会の練習

「森田君。おはよう」初めて自分から声をかけた。

「おはよう」ビックリした…表情は相変わらず硬かったが自分から声をかけてくるなんて、嬉しいけど、逆に何で急にそうなったのか気になった。教室に入ると寝ていた奏を起こした。

「おい!奏」揺さぶると目を開けた。

「何だよ。眠いんだよ。」

「昨日、部活でなんかあったか?」

「ああ?別にないけど。」

「吉森が自分から挨拶してきたんだよ。」

「へぇ〜。良かったじゃん。」

「何の心境の変化なんだろう?」

「さあ、昨日部活で冬夜の代わりにパスを俺とやってもらったけど。」

「え、それなんだよ!」

「後で説明するよ。」

「え、気になるじゃん教えろよ。」

「先生きたぞ。」

「後で絶対教えろよ!」

 そんなに吉森の事が気になるんだな…。一緒に帰った事はなんとなく言えなかった。いいよな言わなくても…そんな大した事でもないし。


 体育の時間になると早速、冬夜が寄ってきた。話そうと思ったが人が多くて喋りずらかったので今はやめておいた。体育は二クラス合同なので人数が多い。それも今回はスポーツ大会に向けて男女混合バレーボールの練習だった。

「スポーツ大会に向けての練習なので経験者と初心者で分けるから。まず経験者、先生より右側に並んで。」

 男子は三人、女子は二人だった。七瀬は行きたくなかったがどうせやり始めるとバレるので仕方ないので右側に並んだ。そこには冬夜と奏もいた。

「吉森さん男子バレーのマネージャーだよね。経験者なの?」話しかけて来たのは隣のクラスの高峰さんと言う女子だった。

「あ、うん。中学校の時にやってたんだ。」

「うちのバレー部人数少ないんだけど、男子バレーのマネージャー辞めて女子バレー入んない?なんかでも髪の毛も長いし、バレーやってましたって感じしないね。」

「あ、昔ベリーショートだったから反動でロングにしたんだ。もう中学でやり尽くした感があってもうやる気はないんだ。誘ってくれてありがとう。ごめんね。」

「おい高峰!うちの優秀なマネージャー勧誘するなよ。」

「うるさいな森田!いいじゃん別に!」

「経験者組うるさい!五人しか経験者がいないのでとりあえず二クラスを五当分します。女子は女子、男子は男子でやるから。」

「先生ー。私男子に教わりたいです。」「俺も女子に教わりたい。」

「いろんな意見はありますが、みなさん下心丸出しなので、女子は女子、男子は男子でやるから」笑いが起こった。

 良かった助かった。さすがに男子を教えるのは具合悪くなりそうだ。大倉君も別の意味で助かった感じなのかな。

「とりあえずルールを説明するのでみんな座って、経験者コート入って」先生を除き五人でコートに入った。

「スポーツ大会の時は九人で入るけど、とりあえず六人でやるの見ていて」

 高峰さんはポジションがセッターらしくそこに入ることになった。私は後衛に一人で入った。反対側から先生がサーブを打ち三回で返す見本を見せた。

「ちょっと強くやってもいい?」いきなり強いサーブが来た。戸惑いながらもレシーブして大倉君のスパイクが決まった。あちこちで大倉君かっこいいって声が聞こえた。

「ありがとう。もういいよ。」

 その後練習が始まり、レシーブの仕方などわかる範囲内で自分のクラスの子に教えた。違うクラスにあの成美とい言う子がいるのでA組は教えたくなかった。高峰さんがいてくれて助かった。

 体育が終わると「吉森」と先生に呼ばれた。

「吉森、乃木中じゃなかったっけ?」

「はい、そうです。」

「そこでバレー部だったの?あそこすごい強豪だしバレー上手いよね。何で女子バレー入らなかったの?」

「もうバレーは自分ではやりたくないんです。」

「そうなの?もったいない…やる気になったらおいでよ。私、女バレの顧問だから。」

「ありがとうございます。でもやる気はないのですいません。」


「いっぱい勧誘されて人気者は大変だな」と言いながら横を大倉君が横を通り過ぎて行った。

その様子を成美は見逃さなかった「また話してる…。」


 昼休みになりやっと冬夜は奏から話を聞く事ができた。

「何だよ!俺がいない時にパスなんかするなよ。俺もやりたい!それにしてもその女子怖いな。吉森さんが使えるって事知らしめたのはいいけど、なんか嫌な感じだな。」

「俺もやりたいって…冬夜お前、素直だな。なんかいいなそういの。」

「今更何言ってんだよ。俺は前から素直だ。奏ほどモテないから捻くれたりもしないんだよ。」

「そうだな。俺なんか素直じゃないよな。俺が女だったらお前好きになったかも。」

「突然どうしたんだよ。気持ち悪いよ。」

「いや、何となく」今まで普通に接しただけなのに馴れ馴れしくされたり、勘違いされたりそういう事が面倒になり、自分を守る防御として女子には優しくしないようにしてきた。その中には俺の事なんとも思ってない人もいるだろうけど、もうそれを確認するのも面倒でみんなに同じ態度を取っていた。俺、カッコつけてて性格の悪い奴になってんだろうな…なんだろういつもは何とも思わないのになんか落ち込んだ。

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