第37話 疑い

「あ、思い出した。大倉のファンクラブの子だよね。」

「そうです。そうなんですけど、最近、奏君を見ていたら沢井君がよく近くにいて、見てるうちに気になり出して…。」

「え、俺の事?大倉じゃなくて?」

「うん。沢井君の事いいなって思って。好きだなって。」

「本当に?」

「うん。」

「付き合っている人いるの?」

「居ないけど…。」

「じゃあ、まず友達になりたいんだけど。」

「え、良いよ。こちらこそよろしく。」

「嬉しい!」

「大倉じゃなくて俺をいいなっておもってくれて嬉しいよ。ありがとう。」

「奏君には内緒にしてくれない?って言うかみんなにも告白した事を秘密にしてほしい。今まで奏君って騒いでたのに急に違う人を好きになるなんて軽いなって思われたら嫌だから。ファンやめてしばらく経ってからオープンにしたいんだけど。私が良いって言うまで内緒にしてほしい。」

「恥ずかしいもんね。良いよ全然。」

「ありがとう。嬉しい。じゃあ映画でも行かない?あ、私の事ナルって呼んで。」

「分かった。俺の事も竜二で良いよ。じゃあ早速、今日行こうよ。」

「嬉しいな。じゃあ放課後」こいつもチョロい。


 そう言うと嬉しそうにナルは出て行った。生まれて初めて告白された。吉森さんには敵わないけど結構美人だったな。なんか好きになれそうな予感がして来た。教室に戻ると顔がニヤけていたのか大倉に指摘された。俺だって好きになってくれる子がいるんだぞと言いたかったが本格的に付き合ってから言ってビックリさせようと黙っている事にした。ナルちゃんとも約束したしな。


 ナルからメールが来て急に映画じゃなく、遊園地に行きたいと言って来た。学校からは少し離れているが午後十時までやっているので学校が終わってからでも十分楽しめる。入り口で待ち合わせをした。

 今日が初めて喋るとは感じないぐらい、不思議と話が合った。俺、ナルと付き合うかも知れない。そう感じていた。夜になりお腹が空いて来たので売店で焼きそばとポテトを買って席についた。

「楽しいね。」

「うん。凄い楽しい。」

「そう言えば奏君。吉森さんと付き合いだしたんでしょ。」

「うん。そうだよ。」

「どっちから告白したの?なんか奏君って人に興味なさそうだったから。」

「それ聞いたんだけど、言わないんだよね。恥ずかしいから嫌だって。なんで?気になるの?」自分だけ見てほしい衝動に駆られた。

「気にはならないけど、手をつないでいる姿は見たけど、あんまりイチャイチャしてないなと思って。特に吉森さんがさ、なんか素っ気無いと言うか。」

「ああ、吉森さんそんなタイプじゃないでしょ。そう言えばデートしたって話も聞かないな。まあそう言う人もいるんじゃない。」

「ファンクラブの人の中で、本当は付き合って無いんじゃないって言っている人達もいるよ。ファンが面倒だから付き合っているフリしているとか。」

「いやあそんな事は無いよ。だって…。」

「何?」

「いや、なんでもない。俺は付き合っていると思うよ」だってやきもち焼いていたし。

「ふーん。そうなんだ。じゃあもっとラブラブにしないとみんな信用しないかもね。まあ良いんだけどね。じゃあ次は何乗ろうか」乗り物に乗りながら奏君の事を考えていた。前からファンを面倒がっていたから付き合っているフリもありえなくない。だとしたら嬉しい。そう考えたい。でもどっちにしても吉森は気に入らない。映画じゃ喋れないから遊園地に場所を変えたが、話して見ても沢井もあんまり情報を持っていないのは残念だった。まあしばらく様子を見よう。

 沢井はナルと別れた後「好きになってくれる人がいるって良いな」と呟いていた。俺に彼女が出来たらみんなびっくりするだろうな。この後また出かけたりして、もっと近くなれたら今度は俺の方から告白しよう。たった一度出かけただけなのに、もう好きになりかけている自分に驚いた。楽しかったなぁ。


 沢井は学校に行くと昨日ナルから聞いた話を奏に話した。

「なあ、なんか大倉と吉森さんが付き合ってんの嘘じゃ無いかって噂立ってるみたいだぞ。」

「なんで?そんな話になるんだ。」

「お前のファンが多分噂してるみたいだけど、学校以外でデートしている所とか見てないって。フリをしているだけなんじゃ無いかって。」

「俺はインドア派なんだよ。誰がそんな事言ってんだよ。」

「えっと、たまたま女子が、立ち話してるのが聞こえてさ。もっとラブラブアピールした方が信じるんじゃ無いの?」

「なんでそんな事する必要があるんだよ」と、言いながらも、信用していないから岡崎成美も何も言って来ないのか?ラブラブアピールってどんなんだよ。吉森はフリだと思ってんのにあんまりくっつくとか無理だろ。


 お昼になり、いつもの屋上で食べようとカルと行こうとすると

「七瀬、今日は二人でお昼食べるよ。百田ごめん」と七瀬の腕を掴んだ。

「何〜二人になりたいの?良いよ。七瀬を貸してあげるよ。しょうがない沢井と二人で食べるよ。」

「ごめんね。カル。」

 奏は七瀬を連れて中庭のベンチに行った。

「ここで食べるの?目立っちゃうよ。大丈夫?」

「ああ、見せつけるために来たからいいんだよ。」

「え?どうして?」

「沢井に聞いたんだけど、俺たちが付き合ってるの嘘なんじゃ無いかって噂が立ってるんだって。だから付き合っているってアピールするから。今日部活も無いからデートしようぜ。俺たち付き合うフリを始めてからどこにも行ってないよな。」

「そう言えばそうだね。出かけると岡崎さんが付けてくるかな。」

「その方がいいだろ。見せつけてやろうぜ。」

「ちょっと怖いけどいいよ。どこに行く?」

「遊園地。」

「意外!好きなの?」

「絶叫系、超好き。じゃあ帰り行こうな。」

 お昼ご飯を食べながらデートの約束をした。一緒に行けるんだ…。

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