第38話 観覧車
「今日遊園地行くんだ…」結構大きめの声で沢井君と会話をしている。
奏の噂はすぐに広がる、多分岡崎さんにもすぐに伝わるだろう。指輪を外しながら歩きたいが、そうすると一緒にいる奏のリングを見る事になる…体から離せば見える様になるから、その時だけ奏を見なければ良いか。でも何かしてくるとしたら私が一人の時の可能性の方が多いから、奏には危害を加えないからだろうから大丈夫とは思うが。
学校が終わるとそのまま遊園地へ向かった。中に入ってからは、ずっと私の手を握り締めている。嬉しいけど、心拍数がやばい。夢にまで見た奏でとのデート…最近浮かれてしまって、フリなのを忘れてしまいそうだ。楽しんでいるだけではダメなのに。岡崎さんがついて来ているか、とりあえず確認しよう。
トイレに行くと言って一人で入った。奏はすぐ近くで待っていてくれている。背を向けて歩きだした時に指輪を体から離した。ちょっとした違和感のある感情が体に感じる…でも岡崎さんのものでは無い。違和感を感じる方向をそっと見ると二人女子高生がこちらを見ていた。リングは紫色、あまり良い感じの色では無い。紫色は嫉妬心として出ることが多い。制服はうちの学校だ。そう考えるともしかするとファンの子かもしれない。岡崎さんは来ていない様だ。指輪を戻すとそのままトイレに入った。
遊園地に来ていると言うことは岡崎さんにも伝わるだろう。そもそも指示されて来ているのかもしれない。そしたら写真を撮ったりはもちろんされているだろう。まあラブラブが伝わればいいんだから写真でも動画でも別にいいや。普通に楽しもう。
トイレを出るとすぐに奏が寄って来て、手を繋ぎ歩きだした。指輪を少し離すと同じ距離感のまま、あの女の子達の感情の気配がついてくる。一応、奏に話しておかないと。
「奏、観覧車乗ろう。」
「うん。いいよ。」
もうかなり暗かったので登って行くに連れて視界に夜景が綺麗に広がる。ファンの子達は一つ先に乗ったようだ。
「やっと安心して話できるー。」
「え、なんで?話せなかったのか?」
「奏は気がついてなかったんだね。岡崎さんじゃ無いけど、パパラッチがいるよ。本当にアイドルみたいだね。自分もスターになった気分だよ。」
「マジで!全然気がつかなかった。」
「一つ先の観覧車に乗ってるよ。」
「岡崎が付けてくるかと思ったのに、違ったんだな。」
「でも多分全部伝わるでしょ。」
「じゃあちょうどいいや。」
「なにが?」
奏が横に座って来て肩を組んだ。そして私の頭を肩に寄せた。
「ちょ、恥ずかしいよ。」
「見せつけるんだろ。」
密着している。心臓がありえないぐらい大きな音を立てている。
「ハハ、凄い心臓の音。」
「しょうがないじゃない。だって恥ずかしいもん。奏は慣れているかもしれないけど、私こんな経験ないし。」
「慣れてるって失礼だな。俺だってこんな経験無いよ!」
「嘘だ!だって自然だもん」まあ責める筋合いはないんだけど。
「うるさいな。もう。触ってみろよ。」
手を引っ張られ奏の心臓に手を当てさせられた。ものすごいドキドキしていた。奏の体に触った時点でこちらは茹でだこ状態になった。すぐに手を引っ込めた。
「分かったろ。俺だってこんな経験ないんだよ。」
「だって、モテるのに。」
「付き合っても俺が無愛想すぎて、好きじゃないんでしょって言われたよ。自分でも本当に好きだったのか自信もなかったし。」今の七瀬への感情とは全然違っていた。七瀬の事を考えると胸が熱くなり痛くなる。こんな感情は今まで無かった。
「そうなんだ。」
「七瀬は?人を好きになった事ないの?」
「あったけど付き合った事ないし、中学の時に私を好きだって言ってくれていた子がいたんだけど、みんなに嫌われたらその子も私に興味がなくなったみたい。結構いいなって思っていたからちょっと悲しかったけどね。それぐらいだよ。」
「ひでえな…そいつ。かばったりしないのかよ。」
「別にかばって欲しいとは思ってはいなかったけど、嫌いにならないで欲しかったなとは思ったよ。もうそれ以来、奏も知っている通り男の子が苦手になった。」
「俺の事は苦手じゃ無かったの?」
「奏ってなんかカッコ良すぎてドラマの世界の人と喋っているみたいな感覚で、口は悪いのはちょっと面白くて逆に話しやすかった。」
「今も同じ感じか?」
「今はちゃんと実在する人だと思えるよ。時々モテるんだなって一歩引くところはあるけど、口は悪いけど優しくて思いやりがあって、みんながもっと普通に接すれば良いのになって思う。面白いところを見てほしいなって。」
「ふーん。一歩引いてるんだ。」
「あ、引いてるって違うよ。あの変な意味じゃないから。どう言ったら良いのか。」
「ついて来てる奴ら動画とってるかな。」
「どうかなぁ?」
「七瀬。」
「え。」
急に奏に抱きしめられた。
「え、どうしたの?」
「ラブラブ見せようぜ。」
「やりすぎだよ。」
「頂上だしこれぐらいやらないと。」
「こっちが頂上なら下から見えないよ。」心臓止まる。
「すっげえドキドキしてるな七瀬。キスしてるフリしようか。もう少し下がらないと見えないからこのままで。」
「そこまでしなくても信じるよ大丈夫だよ」引き離そうとしたが強く掴まれていて動けない。
大倉君の顔が近くに寄ってくる…気絶しそう。触れるか触れないかの距離で止まった。見ていられないギュッと目をつぶった。
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