第39話 ドキドキ
「眉間にシワ寄ってるよ。」
「そんなに近くで見なくて良いから。もうそろそろ離れて」目の前にいるのが分かるので目が開けられない。
やっぱ無理だ。ごめん七瀬。ごめん冬夜。そのまま奏は七瀬にキスをした。
何が起こったのか理解が出来なかった。奏とキスしてる…心臓が心臓が壊れる。限界で奏を突き飛ばしてしまった。
「ごめん…俺やりすぎた。」
「やりすぎだよ。ビックリして心臓が壊れる」普通に息をするのがやっとだ。端に逃げた七瀬に奏が近づいて来た。
「近づかないで、あ、嫌とかじゃなくて本当に心臓がおかしくなりそうで。」
七瀬の言葉を無視して奏が側により手を握る。
「俺、わかりづらいかもしれないけど、七瀬の事、本気で好きだから。」
「好き?私の事を?」
「こんなに鈍感だと困るよな。どう考えても俺の態度でわかったと思うけど。」
「え、いつから?」
「意識はしてなかったけど、いつの間にか。今だって意識させてドキドキさせてやろうと思って。本当にキスなんてする気はなかったんだけど、我慢できなくなった。」
「…。」
「七瀬は、冬夜の事を好き?冬夜の気持ちは知ってる?」
「うん。知ってる。前に好きだって言ってくれた。」
「え、告白してたんだ。そっか。」
「なんて答えた?」
「返事はまた今度でいいって言われて返事はしていなかったの。その後すぐに森田君が事故にあってしまったから。」
「七瀬は俺の事どう思ってる?」
その時、一周が終わり扉が開いた。
「すいません。もう一周」と奏が頼んだ。扉が閉められ、そして話を続けた。
「私は森田くんの事はすごくいい人だと思っているけど、先にどんどん奏が心に飛び込んできてしまって、もう奏以外スペースがなくなっちゃって。でも私をまさか好きになってくれるなんて思っていなかったから、なるべくいい方に考えない様にしてた。」
「それって俺の事、好きって思っていいんだよな。」
七瀬が小さくうなずいた。凄く嬉しかった。ここから飛べそうなぐらい嬉しかった。手放しで喜ぶ事は出来ないけれど、胸がいっぱいになった。
「冬夜が先に好きになったのに、俺が割り込んで卑怯かなって思って、好きだって中々言えなくて…でも我慢も出来たり出来なかったりして、結局暴走してごめん。俺さ、冬夜が目が覚めるまでもうこれ以上、入り込まないから。冬夜が目を覚ましてから話して許してくれなくてもずっと待つから。七瀬も待ってくれるなら、それからちゃんと付き合おう。」
「うん。そうだね。私もまだ返事をしていないし。」
「でも今日だけ。ごめん。暴走させて。」
奏が七瀬に近づき髪の毛にキスをした。そのまま奏がカチカチになっている七瀬に優しくキスをした。降りる直前まで優しいキスを続けた。もうとろけてなくなりそうだった。降りて後ろを振り返るとファンの子達はいなくなっていた。フワフワしたまま家に帰り、その夜はドキドキしすぎて全然眠ることが出来なかった。
次の日の朝、家を出ると奏が門の前に立っていた。顔を見るのが恥ずかしくて下を向いてしまった。
「おい、顔背けるなよ。」
「恥ずかしくて。」
「慣れるまでいっぱいしようか?」ニヤけている。
「ふざけないで!」
「嘘だよ。もうしばらくは手を出さないから。」
ホットしたような残念のような。
「それとも手を出して欲しい?」
「もう!」奏キャラ変わった?でもそのお陰で昨日の恥ずかしさが少し消えた。
教室に入ると沢井君が奏の所に飛んできた。
小さな声で「なあお前らキスした?凄い噂になってるよ。」
「ちげえよ。ゴミ取ってただけだよ。」
「え、そうなの。ファン辞めるって泣いている子やキレてる子とかいるらしいよ。違うとしても吉森さん危険だから気をつけたほうがいいよ。俺もなるべく一緒にいるから。」
「ありがとう。沢井君」心配してくれて嬉しかった。
「吉森さん笑うと可愛さ倍増だね。」
「お前、よくそんな素直に言えるな。てか沢井が言うなよ。」
「大倉も俺を見習わないとそのうち吉森さんに振られるかもよ。ね、吉森さん。」
「そうだね。素直な人いいよね。」
「あのな。」
「ねえ、なんか雰囲気変わった?実はやっぱり何かあったでしょ。」
「何にもねえよ。ほら行くぞ」沢井君の耳を引っ張って席に連れて行ってしまった。
でも本当にこの後が怖いかもしれない。気をつけないと。
岡崎成美は奏君に後を付けさせた子たち達から電話が来て、送られて来た動画でキスしていた事を知り怒りで髪の毛をむしってしまった。気がついた時にはごっそり抜けていて自分でも気味が悪かった。奏くんから早く引き離さないと。そろそろ沢井を使う時だ。邪魔者はいっぺんに始末。それが一番手っ取り早い。
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