第41話 黒いリング
花を花瓶に入れ病室に戻ろうとした時、野村さんからメールが入った。
「着いた?」
「着いてるけど、先に森田君の所に寄ってから行くね。」
「りょうかーい。」
なんか凄く元気そうだな。良かった。
備え付けの花瓶が小さくて花を入れるのに結構苦労した。花瓶も買ってくればよかったな。病室に戻ると相変わらず森田君は寝たままで、揺り起こしてしまおうかと悩んでいた。部屋の隅でガタッと音がした。見なくても気配でわかっていた…岡崎さんだ。
今までは指輪を外すと奏の気持ちが見えてしまうので付けていなかったが、もう気持ちを知った今では外しても平気だったのでポッケにしまってあった。だから岡崎さんの気配がわかったのだ。花瓶を持って病室の前に来た時に岡崎成美の気配を感じた。何を企んでいるのかは分からないが用心に越した事はない。一度病室を離れ新井刑事に連絡を入れた。こちらに向かっていると言う返事が来たのでどうにかそれまで、森田君を守りつつ、どうにか上手く自白させたい。取り敢えず持って来たボイスレコーダーの電源を入れて録音ボタンを押した。
後ろを振り向かず話しかけた。
「岡崎さんでしょ。ここで何をしているの?」
「なんで分かったの?凄い感だね。まるで分かってたみたい。まあそんなことはどうでも良いんだけどね。二人が揃うのを待ってたよ。」
後ろを振り返り岡崎さんを見た。ドス黒いリングに紫の光が混ざっている。こんな色は見たことが無い。どう考えても殺意があるようにしか見えない。私はともかく、森田君は絶対に守らないと。
「それってどう言う意味?」
「二人共いなくなって欲しいんだよね。森田を押して事故に合わせたのは私。奏君に危害を加えられたくなかったら私の言う事に従って。」
「奏君の事、好きなんじゃないの?奏君には危害なんて加えないでしょ?」
「だってあんたの物になったんでしょ。そんな奏君見たく無い。でもあんたがいなくなれば、取り敢えず誰のものでも無い奏君に戻る。今はそれでいい。そのうち私の事を好きにさせるから。」
この状況を考えても、私が居なくなったところで奏が岡崎さんを好きになる確率はゼロだろう。なんでそれが分からないんだろう。全部自分の良いように考えられるのは、ある意味ではポジティブだ。
「二人共、居なくなるってどうするの?」
「森田を押して事故に合わせたのはあんたで、バレたらまずいから殺して自殺。一番しっくり来るでしょ。」
「そんな事、誰も信じないと思うよ。少なくとも奏は。」
「お前が奏って言うな!」
リングの色がどんどん黒くなりもうこれ以上濃くならないような色になっている。怖い。
自転車で直接行くより電車の方が早いので奏は自転車に乗り駅に向かっていた。もう少しで駅と言うところで目の前に人が飛び出て来た。スピードを出していたのでよけた瞬間に地面に転がり落ちた。
「いってえ」肩を打ち腕から血が出ていた。大丈夫ですか?と飛び出して来た女の子が寄ってきた。うちの制服だった。
「大丈夫です」と歩き出した。腕が上がらない。足もひねった。腕は骨折してるかもしれない。
「待って手当てしないと」どこから出てきたのか女の子三人に囲まれた。
「いいよ。急いでいるし。」
行こうとすると腕を引っ張られ激痛が走った。
「離せ。」
「一緒に来て」腕を引っ張られ痛さに気絶しそうになり倒れる寸前に支えられた。
「お前ら何してんだ!」後から来た沢井だった。その瞬間女子は逃げていった。
「おい、どうしたんだよ。大丈夫?」
「沢井、取り敢えず白井医大まで行くぞ。」
「その腕で大丈夫か?金あるから、行くんならタクシーで行こう。」
タクシーを拾い傷む腕を押さえてタクシーに乗って病院へ向かった。あの女子は岡崎が仕組んだのだろうか?
「私は自分が死んだとしても森田君は絶対に守るから。」
「動くなよ。」
岡崎成美が近づいてくる。手に見えるのはナイフだった。どうしよう?どうする?殺されるまでは考えていなかった。取り敢えずこの病室から岡崎成美を出さないと。動体視力は良いから避けられるとは思ったが避けて森田君が刺されたらマズイ。瞬間的にナースコールのボタンを押した。岡崎成美がこちらに向かって来た。咄嗟に側にあった寄せ書きのしてあるバレボールを掴みナイフの先に向けた。
少しずれてナイフは手に刺さった。強烈な痛みが走ったが、岡崎成美が血をみて少しひるんだので、夢中でナイフが刺さったまま病室を飛び出した。ナイフはここにあるし、ナースコールも押しているので森田君は大丈夫だろう。自分の後を付けさせるために、手からナイフを抜き血をたらし、岡崎さんが逃げてしまわないように、一か八かで屋上に行くしかない。二階分の階段を駆け上がると扉を開け屋上に出た。扉の外に出たところで服で手を抑え血が落ちないようにして、分からないように隠れることにした。この病院の屋上は二メートルぐらいの高い柵で囲まれていて、柵の外に出るには鍵を開けるしかない。逃げ場は無いのでここで新井刑事を待つしかない。屋上が庭園になっているので人も何人かいた。ここではそう簡単には手を出せないだろう。木の生い茂っている場所に身を隠した。手が燃えるように痛い。茂みの後ろの柵が壊れていて、隠れられそうだったので、そこから出て更に見えないところに身を潜めた。電話を掛けようとポッケから携帯を取り出したが刺された右手は使えないので左手で操作をしようとしても中々思うように動かせない。痛さで体が震える。岡崎さんは屋上に来ただろうか。早く来て新井刑事…。震える手で電話をかけた。
「新井刑事さん。吉森です。」
「いまどこ!?」
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