第20話 事情聴取

 次に大倉君が呼ばれた。森田君が帰って来なかったので先生に尋ねると、聞かれた事を他の人に話さないようにそのまま下校させたとの事だった。

 何を聞かれるのか…とりあえずやましい事は無いので正直に話そうと思っていた。大倉君が出て行ってから十分ぐらい経って自分が呼ばれた。指輪は外しポッケにしまい先生が使う会議室に呼ばれ、ノックをしてドアを開けると私服の刑事さんが二人、先生はいなかった。どうぞ座ってと促され七瀬は正面の席に座った。刑事のさんのリングは薄いブルーだった。

「えっと吉森七瀬さんですね。お時間をとっていただきありがとうございます。私は今回担当の新井真央、こちらが田淵貴治と言います。」

 ハキハキとした三十代半ばぐらいの刑事さんだった。

「とりあえず先に野村さんの状況をお話しします。足と腕を折る大怪我ですが、命には別状はありません。それだけはお伝えしておきます。一応病院の名前はご家族の希望で伏せる事になっておりますのでご了承ください。」

 この刑事さんは高校生にも敬語を使うんだ。何となくだけど礼儀正しくて信用のできる感じがした。

「それでは吉森さんにお伺いしたい事があるのですが、なるべく包み隠さず正直に答えて下さい。その為に先生は退室いただいています。もし私だけの方が良ければ田淵の方も退出させますがどうしますか?」

「二人いていただいて大丈夫です。」

「では、最近野村さんと同じ係だったそうで、何か様子など変わった事はありませんでしたか?」

「えっと、係の四人で会議をしていた時に野村さんが大倉君の動画をこっそりと撮ろうとしていたのでやめた方がいいと少し言い合いになりました。」

「なぜ動画を撮ろうとしたのかな?」さっきの男の子達はその話をしなかった。

「大倉君のファンクラブの人だったのでただ動画が欲しかっただけなのかと思いましたがよくは分かりません。」

「大倉君にファンがいるの?」

「はい、大勢います。私は大倉君と一緒の部活ですが、女の子がいつも見に来ています。」

「止めたのは何故?」

「私は大倉君が付きまとわれたりして困っている所を見ているので、そんな事をされたら嫌だろうなと思ったからです。分かったら怒って係どころではなくなるのでは無いかと。」刑事さんのリングを見ると少し黄色がかっていた。話に興味が湧いたらしい。

「では他のファンクラブの女の子って誰かな?」

「私は良くわかりませんが、教室に残っている二人もそうだと思うのでそちらに聞いた方が詳しく分かるかも知れません。」

「あと、何か彼女の事で知っている事はある?」

「係が終わった後、打ち上げをやりたいと言われて、男子二人に伝えたのですがその気がなく実際にはやりませんでした。」

「何故直接野村さんは男子に言わず、吉森さんに頼んだのかな?」

「動画を撮ろうとしていた事を女子トイレで注意したのですが、その話を大倉君に聞かれてしまい、それ以来何と無くギクシャクした感じになってしまって…。でも仕事は一生懸命やってくれていました。そんな事があったので自分からは誘いづらいから誘って欲しいと頼まれました。」

「でも実際はやらなかったのね。」

「はい。」

「それはいつの話?」

「三日前です。」

「わかりました。答えてくれてありがとう。また何かあったら聞くかも知れないけどその時はよろしくお願いしますね。あ、あと野村さん携帯を無くしたって言っているのだけど、どこかで見かけなかったかな?」

「いえ見ていません。どんな携帯かも覚えていませんので。」


 教室を出るとふうっと息を吐いた。少し緊張をしていたので力が抜けた。出てすぐに首に指輪をかけた。さっきの刑事さんはリングの色がずっとオレンジだった。一生懸命、質問をしてきて真剣に考えてくれている様だった。信用ができるいい刑事さんだ。ただ物凄く心配なのが岡崎成美のリングの色が真っ黒だった事だ。どう考えても悪い状況だ。

 

「どう思います?」事情聴衆が終わり、田淵は考え込んでいる新井刑事に話しかけた。

「野村さん本人はダンマリで周りに聞いた話だけだから、まだ何とも言えないけど大倉君自身はしらないだろうけど、周りが勝手に絡ませてるのは確かなようね。取り合いとか?抜け駆けしたとか?そんな感じなのかな。最後に話した二人は何かを隠しているかの様だったし、自殺未遂をした本人が何かを訴えない限り、こちらとしてはこれ以上の何も言えないしね。話してくれれば何か力になれたかも知れないんだけどな。」


 事情聴取が終わり、先生がまっすぐ帰る様にと言うので、とりあえず言われた通りに家に向かおうとしていた。学校の外に出ると携帯の電源を入れマナーモードを解除すると、すぐにメールが入り見ると森田君だった。

「今日バイトだったよね。バイト先に食べに行ってもいい?」

「全然大丈夫だよ。午後四時からだからそれ以降ならいるよ。」

「オッケー。分かった。じゃ後で。」


 丁度いいや。森田君が何を聞かれたかも知りたかったし。大倉君は何を質問されて何を答えたんだろう。聞いたりしたら嫌かな…。そう思いながら自転車をまたがった時に電話が鳴った。見ると…知らない番号だ…誰だろう?とりあえず出てみるた。


「野村だけど。」

 

えっどこから?家から?病院から?

「突然電話ごめん。もう学校で聞いているとは思うけど今病院なんだ。話したい事があって、悪いんだけど、病院に来てくれないかな?」

 びっくりした!何故私のところに電話が来たのか…間違えている訳じゃないよね?

「野村さん具合はどう?大怪我したって聞いたんだけど。どこに入院しているの?」

「詳しい事は後ほど。怪我は痛いけど大丈夫。病院は外之原総合病院。面会受付に伝えておくから来たらそこに寄ってからきて。あとこの事は誰にも言わないで必ず一人で来て。」

「分かった。今から行く。」

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