第44話  最終回 

「ごめんね。私の会話でバレちゃったんだね。」

「いいよ。いずれ言うつもりだったし。ただ自分で言えなかった事だけが後悔しているけどね。」

「七瀬。本当に無事で良かった。ごめん手に傷が残るかも。俺さ、責任とるから。」

「責任っていいよ別に。この傷を見るたびに自分も勇敢だったって誇りに思うよ。何回も言うけどこの一連の出来事は奏のせいじゃ無いからね。」

「俺のせいだろ。、みんなを巻き込んで。」

「ストーカーされていたんだから、どうしようもないでしょ。責任なんて感じなくていい。死ぬかもしれないのに私を受け止めたんでしょ。もうそれだけでも嬉しくてたまらなかった。こっちに来て。」

 奏は車椅子を降りて七瀬のベッドに腰をかけた。

「奏が死んだら私生きていけないから」奏の背中に抱きついた。

「それは俺もだよ」奏は振り向き七瀬のおでこにキスをした。

「七瀬に聞きたい事があるんだ。」

「なに?」

「俺、七瀬を受け止めようとした時に、いきなり凄い光が七瀬から出て、その後何かが弾ける音がして七瀬と岡崎成美が下に着く寸前に浮いたんだ。足と、腕を怪我したのは七瀬を受け止めた時じゃなくて、その前に自転車で転んでの時だから俺は浮いた七瀬を支えただけなんだ。そんな不思議な事を誰も信じてもらえないと思って。」

「そっか。そう言う事なんだ。」

「そう言う事って?」

「今まで誰にも言った事が無いし、信じてもらえないかもしれないけど聞いてくれる?」

「あんな不思議な事があった後だから、信じるしか無いよね。」

「私、人の感情が具体的に分かるんだよね。」

「人の感情?テレパスとかそう言う事?」

「ううん。感情のリング、天使の輪みたいな物が見えるの。」

「それってどう言う?」

「通常の状態だと、リングの色は白なんだけど、大まかに言うと良い感情はピンクとか赤とか、悪い状態は紫とか黒とかにリングが光るの。それでその人がどんな感情を持っている事がわかるんだ。」

「それって好きとか嫌いがわかるって事だよね。」

「うん。まあ。」

「うわ!まじで。メチャメチャ恥ずかしいじゃん。俺が七瀬の事好きなの知ってたのか?」

「それは見たかったけど、見なかった。期待して見てガッカリするのが嫌だったから。」

「そうなんだ。」

「その不思議な力はずっと?」

「物心ついた時にはもうあった。」

「じゃあ岡崎とかの悪い感情とかも見えたりした?」

「うん。見えたし、物凄く悪い気配を感じた。」

「今、俺の感情もわかるの?」

「ううん。私、よく指輪してたでしょ。あの指輪、祖母の形見だったんだけど、あれを身につけていると感情のリングが消えるんだ。だから見たい時以外は指輪を身につけてたんだけど、あの事件の時に奏が凄く光って割れた音したって言ってたじゃない。それ指輪が私の代わりに壊れたんじゃ無いかなって。勝手な想像だけど、祖母が守ってくれたんじゃ無いかなって。役目を果たして指輪が砕けたの気がして。今はどこを見ても感情のリングは見えなくなっちゃった。見えていた時は見えなきゃいいのにって思ってたけど、一度奏のリングも見たかったな。」

「やだよ。恥ずかしいから。多分真っ赤とかピンクとかそんな色してたんじゃ無いかな。そんなの見られたら恥ずかしくてしょうがない。」

 奏がすごく可愛くてキュンとした。抱きついて自分からキスをしたら奏が耳まで真っ赤になっていてリングがなくても色がわかる気がした。


 後で指輪を探してみたが欠片も何も残ってはいなかった。全員無事に退院して今は学校に普通に通っている。岡崎さんは施設に入って治療を続けていて、たまに沢井くんが面会に行っているみたいだけど。手に残る傷を見るたびにあの恐怖は思い出すけれど、奏との甘々の日々がそれを打ち消してくれている。

 最近は人目をはばからずベタベタして来て、こんなキャラの奏君は嫌だとファンも少し減ったらしい。森田君とカルはいつの間にかカップルになっていて、すごく幸せそうでこちらも嬉しくなる。奏君が昔と違うのはファンの子に優しい事だ。来てくれた人が傷つかないように丁寧に対応している。

「七瀬、何してんだ行くぞ。」

「うん。」

 落ちる時に一瞬見えた奏のリングは銀がかったグリーンだった。グリーンのリングを見たのは初めてだった。指輪も銀とグリーン偶然とは思えなかった。あの時私を救ってくれたのは指輪と奏が揃っていたからじゃないのかと勝手に思っている。

「何黙ってんの?」

「奏が好きだなって改めて思ってさ。」

「急に何だよ。」

 手を繋ぎ二人は青空の下を手を繋いで歩き出した。

 

 その部屋は日差しがよく入り綺麗花が飾ってあった。花を眺めながらゆっくりと大好きなオレンジジュースを飲んで外をみていた。

「岡崎さん。今日は起きてて大丈夫なの?」

「はい、すごく気持ちがいいです。」

「だいぶ良くなったわね。もうすぐ退院できるわよ。」

「はい。家に帰れるのがすごく嬉しいです。」

「じゃあまた午後検診にきますね」そういうと看護師さんは部屋をでていった。


 ナースステーションで看護師が会話をしている。

「岡崎さんよくなってきたわね。よく夢でうなされていたりしていたけど、この一ヶ月で落ち着いたみたい。記憶は相変わらず戻っていないけど。」

「彼女にとって記憶が戻るのがいいのかどうなのか、何とも言えないけど、まだ若いし元気になってほしいわね。」

「そうね。思い出したら思い出したでちゃんと罪をつぐなってほしいけど…。」


 退院する日が決まってやっと病院からでられる。嬉しい。

最初の2週間は本当に記憶を失っていた。でも毎日夢に知らないかっこいい男の子が表れてなんだろうと考えていた。母親がお見舞いに来た時に携帯でテレビを見ていた時にあの事件が放送され、急に頭痛が激しくなり倒れ目が覚めるとすべてを思い出していた。

 思い出したと言ってしまえばこのまま病院にいなくてはならなくなるので、その後は完ぺきな演技を続けた。私の記憶が戻っていることは誰も知らない。

 やっと奏君にあえる…今度こそ…失敗しない。


「岡崎さんお母さんが迎えにきましたよ。」

「はーい。」

ドアに向かって歩き出すと足元に光るものが見えた。

「あれ?何か落ちてる。」

 拾い上げると銀の縁取りにグリーンの石のついた指輪が落ちていた。

「すごい綺麗な指輪…誰のだろう?」どこかでみたような?

 誘惑にかられ指輪をはめてみた。サイズがピッタリだった…というかはめた瞬間、指輪がサイズを合わせたような…。

 急にあたりが白くなり一瞬クラっとした。


「あれ?私何してたっけ。あ、そうだ!今日退院だったよね。お母さん迎えに来たんだった。明日からまた楽しい中学校生活が始まる。私何の病気だったんだっけ?あとでお母さんに聞けばいいや。」

 リングと共に成美は嬉しそうに病室を後にした。




 




 

 

 


 





 



 


















































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