第32話 王都

 王都バルジオ。「バルジオン王国」の首都にして、直径約2kmという近隣国でも類を見ない最大の城郭を持つ大都市だ。

 街を覆う城塞もラモグの様な丸太を重ねた急造の安普請ではなく、高さ10mの煉瓦壁をモルタルで固めた本格的な戦時仕様だ。


 居住区を含む商業、工業区画そのものは王の居城を中心に直径にしておよそ500mと現代の感覚から言うとそこまで大きくはない(それでもラモグの3倍以上の大きさだ)。

 そこから壁までは四方に農地が広がっており、敵軍に包囲されても食料自給の手段が確立されている。壁の外に農地があったラモグとは対照的であると言えるだろう。


 国王は『カーノ・バルジオン1世』、元々は魔物討伐で名を上げた冒険者上がりらしい。そのせいか冒険者に対して寛容で、国で唯一『冒険者匠合ギルド』がある。

 ラモグにあった様な怪しい『何でも屋の斡旋所』ではなく、国営の事業として綺麗な『何でも屋の斡旋所』を行っているわけだ。


 以上、王都に向かう道中でクロニア達から教えてもらった、簡単な王都の情報だ。


 ☆


「そうそう、これこれ、こんな感じ。ようやく俺の想像していた『異世界ワールド』に来た気分だよ!」


 街の外壁で、慣例となった入場料と武器の封印を受けた俺達は、長閑のどかな田園風景を通り過ぎ、内壁付近のうまやに馬を預ける。

 内壁の入退場門から入った時に見えた景色は、まさに想像していた漫画やアニメで見慣れた異世界の町並み。密かに憧れていたファンタジーの景観に俺はじんわりと感動していた。


「また訳の分からん事を… ホラ、道の真ん中で突っ立ってないで仕事と宿を探しに行くぞ!」


 感動する間もなくクロニアに怒られてしまったが……。


 ☆


 農地と商業地の境に高さ5mほどの小規模な内壁があり、そこを抜けるとバルジオンの市街地が広がっている。街の中央を貫いた運河に沿って道を歩くと、様々な露店や工房が立ち並び、活気に溢れた生活感が見て取れた。


 首都と言うだけあって、ラモグとは一線を画した規模の『大都会』であった。


「ねぇボクお腹ペコペコだよ。先に何か食べない〜?」


 腹を押さえて空腹を訴えるモンモン。その腹にはキツめにロープが縛られており、2mほど先のロープの反対側はティリティアの持つ杖にこれまたキツく結ばれている。

 無論これは言うまでもなくモンモンがどこかへ行ってしまわない様に(そして余計なトラブルを起こさない様に)文字通り『紐を付けた』状態なのだが、パッと見は『貴族の淑女が奴隷を連れ回している』風にも見える。


 実はモンモンはこれまで農地エリアで2回姿をくらまして、2回とも見知らぬ財布を懐に隠して戻ってきた。なのでこの仕打ちは可哀想だが仕方が無い。放っておくと本気で5秒目を離した隙に行方不明になるのだ。そして余計なトラブルを持ち込んでくる。


「ダメです。まず諸々の必要経費を算定してから、日々の生活に使えるお金を割り出さないといけません。その為にはまず『匠合ギルド』さんで働き口にありつかないと」


 ティリティアが優しくモンモンを諭してくれているが、モンモンは「お金ならボクが稼いで上げるのに…」と密かにむくれていた。全然反省してないなコイツ。


 ☆


 内壁内部の構造は、中心に国王や王族の住む城があり、その周辺に領地を持たない下級貴族や豪商の住むアッパータウン、一般の町民が暮らすダウンタウンとなっている。

 

 内壁の外には壁の外周に沿って、定まった家や仕事を持たない冒険者やゴロツキが住みつきスラムが形成されている。当然ここは治安が悪く、衛兵や集められた冒険者が定期的にパトロールをしているそうだ。

 治安は悪いが盗品や国で取引を禁止されている品物を扱っている闇市もあるらしく、少し興味はある。


 『王立冒険者支援協会』と看板に書かれた建物は、内壁の南門から入ってすぐ近く、ダウンタウンに置かれていた。

 建物は周辺の『住居の修繕まで金と手が回らない人達』の家よりはかなり豪勢な物で、一見して『高級宿屋』という感じだ。ラモグの銀麦亭の3倍くらいゴージャスなイメージ。


 建物の周囲には不揃いな装備品を身に着けた、『冒険者』と思われる目付きの悪い奴らがたむろしている。単に仲間と待ち合わせているだけなのか、或いはカツアゲする獲物が通るのを待っているのか…?


「おい見ろよ、あの一党パーティ…」

「女戦士に女神官、あとは剣に『背負わさせられている』デブ男と… 子供? なんだありゃ…?」

「よぉ神官サマぁ! そんな弱そうなパーティ抜けて俺達の所に来ないか?」

「お姉さん、凛々しくて良い面構えしてんねぇ。俺達と組まねぇか?」


 などと建物に入る前から野次が聞こえてくる。俺とモンモンを誘う様な奴は… まぁ居ないよな……。

 

「さっさと登録を済ませてしまおう」


 周りの野次を聞こえないかの様にクロニアが率先して建物に入っていった。


 ☆


「登録でしたらこちらの用紙にお名前と得意分野のご記入をお願いします。読み書きの出来ない方がいるならこちらでお手伝いいたします」


 ギルドの受付には上品な感じの受付嬢がいた。あいにく巨乳ではなかったが、そこは仕方が無い所だと思われる。

 後でティリティアに聞いたのだが、ギルドは国営の為に従業員も身元のしっかりした良家の子女が採用されるらしい。言われてみればそんな雰囲気のある娘だった。


 しかし冒険者ギルドの登録となれば、もっとこう魔法の検査機器とかでスキルとかステータスとか測ったりするもんじゃ無いのかよ? 紙に書いて終わりとかサービス悪いなオイ。


「はい、承りました。協会の認識票を作成いたしますので暫くお待ち下さい」


 受付嬢の説明によると、名前と技能を打刻した名刺サイズの鉄板を名札代わりに作ってくれるそうだ。

 名前と技能の他に板の左下に5mm程の円形がレリーフされていて、これが何かと言うと冒険者ランク的な意味があるらしい。功績を上げるとレリーフの周囲に色々な形の打刻をして、その数がランクを表すそうだ。

 

 そしてこれは俺の世界の認識票ドックタグと同様に2枚セットで渡されて、もし不幸にもクエスト先で死体で見つかった際には見つけた人物が1枚持ち帰る、という取り決めになっている。


 マジックアイテムは出てこなかったけど、イメージに近い冒険者ギルドの様子に俺はすこぶる満足していた。

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