第26話 お尋ね者
翌日、早朝の日の出と共に俺達はラモグの町に向かった。馬なら大した時間も掛からずに行ける。
銀麦亭にはベルモの手配した
一応クロニアを丸裸で送り出す訳にもいかないジュガス叔父さんから、餞別として俺やティリティアの分も含めて中古の武具をいくつか分けてもらえた。
クロニアは訓練用の簡易な革鎧と木盾、更に傷んで砥ぎに出す必要があるがそれなりに上等な長剣を。
俺は固めた革鎧ではなくて、柔らかく動きやすい皮鎧の中古品。こちらも修繕が必要だが、今の所はなんとか普通に使える。あとマントも分けてもらった。
ティリティアは護身用の長杖と短剣を。こちらも訓練用の飾り気のない簡易な物だが、普段遣いには何の問題も無さそうだ。
「わたくし、杖の扱いは少々自信がありましてよ?」
などとティリティアは、貰った杖でなかなか華麗な杖術の演舞を見せてくれたりした。この辺やはり単なる貴族令嬢ではなくて、軍務に就く治癒師として訓練されていたのだと感心する。
貰った装備はそれなりに『直し』が必要な物ばかりではあったが、新品を買うつもりでいた費用に比べれば財政的には大きく助かった。
クロニアが言うには分けてもらえたレベルの装備品でも、町で買えば安く見積もっても総額200カイはするだろうとの事だ。現所持金の半分以上持っていかれる所だった。
まだクロニアやティリティアは装備を買い足したり修繕したりする必要があるが、当面はこれで大丈夫だろう。縁故様々だ。
☆
ラモグの町が近付いてきた。もう何度も来ていて勝手知ったるホームタウン… のつもりでいたのだが、少し様子がおかしい。門番の詰め所の壁に何やら人の似顔絵を描いた紙が数枚貼られている。
「何だか嫌な予感がする。私が見てくるからお前は物陰で隠れていろ」
クロニアが何やら勘を働かせてくれたらしく、馬を降りて詰め所へと歩いていった。一応クロニアはこの辺一帯の正規兵で門衛のおじさんとも顔見知りだ。
俺とティリティアも馬を降りて街道脇の茂みに身を隠す。いや、特に悪い事はしていないのでビクビクする必要も無いとは思うのだが何となく……。
遠目にクロニア達の動きを観察する。クロニアが門衛に挨拶し少し話をする。
やがて自然な流れで張り紙を確認したクロニアの動きが止まってしまった。張り紙を手に取り書かれた一字一句を読み込む様に顔を寄せている。それほどに重大な事が書かれているのだろうか? 俺も気になる。
詰め所を離れてこちらへと戻ってくるクロニア。ドスドスとした足取りで、何だか怒っている様にも見えるが…?
「おい! お前は一体何をやらかしたのだ?! 強盗殺人犯として手配されているぞ!!」
クロニアが差し出してきた張り紙には、『背が低い』『太っている』『髪が黒い』『大きな剣を背負っている』等の俺の特徴に加えて、あまり似ていない似顔絵が描かれていた。
そんな事を言われても、そもそも俺はそんな凶悪犯として手配される様な事は……。
「イメッタ・クツメガという町の商人の娘を犯して殺し、その所持品を奪った罪、と書かれているが、何か心当たりは…?」
ギクっ!!
イメッタさんって『あの』イメッタさんかな? 俺がこの世界に転生してすぐに出会って関係を持った女性……。
でも彼女とは聖剣の力はあるけどちゃんとした和姦だし、亡くなったのも聖剣の力が切れて正気に戻り、この世に絶望しちゃった末の自害だから俺のせいじゃない。
所持品も奪った訳じゃなくて、持ち主が死んでしまったのなら有効活用しても良いかなぁ? って思っただけで、殊更に悪意があった訳じゃ無い。
イメッタ達がゴブリンに襲われていた事も含めて、色んな不幸な事故が重なってこんな事態になってしまった訳だが、さて、どうやって誤魔化そう…?
恐らく前回ラモグに来た時にイメッタの装飾品を売ったのだが、そこから足が付いたのだろうと思われる。
あの時、ベルモじゃなくてクロニアに説明、相談していたら「遺品はちゃんと遺族に返せ」と言われてイメッタの親御さんに遺品を返しに行くという、面倒なミッションが発生していただろう。
だが俺は目先の金に目が眩んで、ワケありの宝飾品を怪しい店に売却してしまったのだ。
「今聞いてきた話だと、現場は横転した馬車とイメッタ夫妻及びクツメガ家の2人の使用人、そして多数のゴブリンの死体があったそうだ。人間達はいずれもゴブリンの武器で殺されていたが、ゴブリン達は一様に首を切り落とされていて、その切り口も鮮やかだったそうだ。そんな器用な芸当が出来る奴で思い当たるのは1人しか居ないんだが…?」
クロニアが半目になってこちらを見ている。明らかに俺の関与を疑っている様だ。ティリティアは様子見といった感じで、冷静に俺とクロニアを見比べている。
はぁ、ここは正直に言うしか無いかなぁ…? クロニアの厳しい視線に屈する様に俺は両手を上げて降伏した。
「ま、待て。まず話を聞いてくれ。確かに俺はその件に関わったよ。でも誓って殺人も強姦もしていない!」
俺の言葉にクロニアもティリティアも『それで?』と目で続きを促してくる。女子の圧が怖い。
「俺が通り掛かった時には既に皆殺されていたんだよ。それでゴブリンが俺にも襲いかかって来たから撃退しただけで…」
半分嘘だが半分は本当だ。イメッタの事は色々な意味で言わない方が良いだろう。
「宝飾品をくすねたのは、まぁ『死体が持っててもしょうがないかな?』って軽く思ってたのと、まさかこの町の人だとは思わなかったからで… ごめんなさい…」
俺の話を聞いたクロニアとティリティアが同時に溜め息をついた。愛想を尽かされてしまったかな…?
「ねぇクロニア、勇者様の話が全て真実だとして、こうなってしまった以上はこのまま隠し通した方が無難ではありませんこと…?」
「はい… ここから下手に自首しても、禄に話も聞かずに縛り首になるのがオチでしょうしね…」
ほっ… 2人とも俺を官憲に売り渡すつもりまでは無さそうで安心した。俺も座して処刑される訳にもいかないので、自由を求めて抵抗せざるを得ない。その結果町の中で人死にが発生する可能がある。もちろんそんな事は望まない。
「となると困りましたね。ベルモの寄越した盗賊は既に街の中に居るでしょうし…」
「勇者様が町に入れないなら、わたくし達でその盗賊さんを探して連れてくるしかありませんわね…」
「そうですね… よし、私とティリティア様で町に入って人探しと補給を済ませてくるから、お前はここで待ってろ。くれぐれも変な事するなよ?」
だそうだ。クロニアは俺の事、犬か何かと勘違いしてないか…?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます