第56話 謁見…?

おもてをあげよ『黒の剣士』よ。余がバルジオ王国国王、カーノ・バルジオン1世である」


 国王親衛隊の鎧騎士が通路の左右に並ぶ謁見の間。そこで玉座に座る壮年男性の声を受けて、跪いた状態で待機していた俺はゆっくりと顔を上げた。

 そこには豪華な板金鎧に身を包んだ筋骨隆々とした体格ながらも、顔つきは意外と優男風なパリピ系のイケメンみたいな男がいた。そいつは最初いかにも尊大な態度で俺を睥睨みおろしていたが、やがて別人の様にニッカリと破顔させて俺達を見つめてきた……。


 ☆


 城に着いた俺達を迎えてくれたのは、全身を総板金鎧フルプレートアーマーで固めた10人の兵士を従えた素顔のチャロアイトだった。


「ようこそバルジオン城へ。国王陛下は貴方達の来訪を心待ちにしておられたわ。さ、どうぞ中へ…」


 チャロアイトの先導で城内に足を踏み入れる。子供の頃に学校の遠足で行ったテーマパークに似た感じのお城があったなぁ。懐かしいぜ……。

 俺達の後ろに鎧の騎士様らがガチャガチャと音を立てながら従いてくる。恐らくこの騒音はわざとだな。『完全武装の兵士が囲んでいるのだから、変な気を起こすなよ』という警告だろう。そんなに構えなくても俺はここで騒ぎを起こすつもりは無いよ。


わたくしの知る国王陛下はお優しい方なので、危ない事は無いと思いますが、この警備はやや過剰ですわね…」


 ティリティアも不安なのか、俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。まぁ俺が王様でも『俺』が来るってなったら暴れた時用の対応を考えておくだろうな。チャロアイトからも俺に関する報告が上がっているのだろうから尚更だ。

 やがて俺達はチャロアイトにとある小部屋へと通された。

 

「どうぞこちらでお召し替えを」


 部屋の中を覗くとよくテレビで見かける芸能人の楽屋みたいな数枚の鏡の置かれた部屋に、お城付きの侍女だろうか、若いメイドさんが1人居て俺達に深く会釈をしてきた。


 この部屋で着替えろって事か。まぁ確かに小汚い服しか持って無くて、とりあえずに外套だけあつらえたって情報もきっと筒抜けだったのだろう。王様に会うからとアタフタして損した気分だ。

 

 考えてみれば王様なんて超VIPに会うのに武装の解除すらされていない。まぁこの聖剣を手放すとドエライ事になるから、それだけは万難を排しても死守する必要がある。

 この措置は少し気にはなるが、『罠』という事は無いだろう。罠なら剣を取り上げる方が効果的だ。

 

 一応前述した通り、街に入る際に武器の封印は成されているから『それで良し』としているのか? それならそれでこちらも余計な気を回さずに安心なのだが……。 


「勇者様のお召し替えはわたくしが致しますので、侍女は下がって頂いて結構です」


 ティリティアがきっぱりと宣言し部屋からメイドさんを追い出してしまった。別にここでメイドさんに手を出したりしないのに、ちょっとは俺にも相談して欲しかったかな…?


「どうにもキナ臭い空気を感じますわ。お気を引き締めて下さいまし」


 部屋に入るなりドアを閉じたティリティアは俺に向けて厳しい顔で言い放った。基本的にチャロアイトの事を信用していないティリティアは警戒度MAXの表情だが、仮にも王様の前でそこまでヤバい事をしてくるかな? という疑問もある。


「置いてある着替えは普通に上等なシャツとズボンですわね…」


 机の上に置かれていた着替えの服を細かく検分するティリティア。恐らく貴族同士では服に毒を含んだ針等を仕込ませておく暗殺が流行ったりしたのだろう。色々あったのは王城ここに来るまでの昔話でおおよそ理解できた。


 ☆


「国王陛下に於かれましてはご機嫌麗しゅう存じます。本日はお招き頂き深く感謝を申し上げます…」


 現れた王様を前にして片膝を付いて臣従する構えの俺とティリティア。とりあえず話はティリティアがするから俺は黙って動くな、と指示を受けている。

 

「堅苦しい挨拶は良い。余とお前の仲では無いかガルソムの娘よ。幼少の頃、ミアと共に余のマントをよじ登り、肩に乗ってきたのを覚えておるぞ?」


「はっ、その節は大変なご無礼を働き慚愧ざんきに耐えません。お叱りは如何様にでも…」


 頭を下げ続けるティリティアの目の前でガチャンという金属同士の当たる音が響く。王様がおもむろに立ち上がりティリティアの前まで歩み寄って来たのだ。音は王様が着ている鎧の金属が擦れて出たものだろう。


「くどいぞティリティアよ。教会の尼になったと聞いたが、お前ほどの悪たれがそこまで丸くなってしまったのか? それとも『男を知って変わった』か?」


「おたわむれを…」


 田舎に帰って親戚から昔のヤンチャを暴露されているヤンキーみたいに畏まって小さくなってしまっているティリティア。王様としては昔話のつもりだろうけど、ティリティアの様子を見る限りこれはもう『イジメ』で『セクハラ』だな。俺が一言申すべきシーンでは無かろうか?


「…っ!!」


 俺は意を決して王様の方を見る。口を開こうとした瞬間に王様はティリティアから俺の方に視線を移して顔を近づけてきた。


「ふぅむ、報告で聞くよりも怠惰な体型をしているな… そしてそれが『魔剣』アドモンゲルンであるか…」


 王様は今度は俺をジロジロと眺めながら好き勝手に言ってくれている。こちらはまだ挨拶もしてないってのに……。

 それに俺の剣は『魔剣』じゃなくて『聖剣』な。名前が同じっぽいけど剣をくれた女神本人から『聖剣』って言われてるんだから間違いなく聖剣だろうよ。


 ちょっとムカついたから何か言い返してやろうかと俺が再び身構えた瞬間、玉座の脇から数人の人物が現れた。


 1人は巨漢の男。板金鎧と兜で背中に巨大な戦斧バトルアクスを背負っている。顔は分からないが、兜のデザインから恐らくオーガ族と思われる。

 

 1人は王様と同年代と思われる壮年の男。アイトゥーシア教会の聖紋を刺繍したローブを身にまとった、これはきっと教会の重鎮だろう。

 

 1人は金髪ショートカットの若い女。見えるのは顔だけで全身を赤黒いローブで包んでいる。年の頃はクロニアよりも若く見えるが、かもし出す雰囲気は若い女のそれでは無い。

 

 1人はやはり壮年の男。痩せぎすで服装はその辺の村人と変わらぬ簡素な物。顔はハッキリ言って悪党面で、神経質そうな落ち窪んだ目をしている。妙な落ち着きを見せている辺り悪党は悪党でも小物では無さそうだ。

 

 そして最後に見知った顔がいた。チャロアイトだ。スンと澄ました顔で何を考えているのかは分からない。


「よっしゃ、じゃあ観衆も揃った事だし、そろそろおっ始めようかね!」


 来客の配置を確認した王様は、俺を見つめて歓喜の声とともに腰に履いた長剣を抜き放った……。

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