第6話 ラモグの町

 ラモグの町には更に数時間歩かされた。街道沿いに牧草地や農地が広がっているあたり、この辺では牧畜や農業も盛んに行われているようだ。

 それらの先に高さ2m程まで丸太を積み上げて防壁としている集落があった。恐らくそこが「ラモグの町」なのだろう。


 防壁があるって事は、モンスターなり外国勢力なりの外敵との折衝地点にある要衝って事だよな。町を一歩離れたら治安もへったくれも無さそうな感じがする。


 すっかり日も落ちた頃に町の外殻に到着、街道に面した所に関所みたいな場所があり、人の出入りを監視している様だった。


「通行料金は15カイだ」


 どうやら町への入場料が必要らしい。1カイが日本円でいくら位に相当するのかイメージが湧かないが、余所者はこんな具合に細かく集金されてジリ貧になっていくという話はイメッタさんから聞いている。

 はぁ、返す返すもイメッタさんは勿体ない事をしてしまったなぁ……。


 今の所持金は女神から貰った金貨と、イメッタさん本人及び馬車から頂いてきた指輪や首飾り等の宝飾品といくばくかの小銭だ。

 とりあえず金貨を出して「これで良い?」と聞くと、門衛の人物は嫌そうな顔をして「成金冒険者かよ…」とかブツブツ言いながら奥に引っ込んで行き、釣り銭と思われる多量の硬貨を持ってきた。


「ほらよ、釣り銭の85カイだ。分かってると思うが町中の刃傷沙汰はご法度、持ってる武器には封を貼らせてもらう。もしこれが町中で破られたら多額の罰金が課せられるから、くれぐれも面倒を起こすなよ?」


 門衛から注意を受けて町に入る。中を眺めると門からの中央道に沿って幾つかの屋台が並んでいる。既に日が落ちているので半数程は営業を終了しているようだ。

 

 まずは今日の宿を見つけて風呂にでも入ってゆっくりと疲れを癒やしたい。

 今日は殺されたり、童貞卒業したり、モンスター倒したり、目の前で人が自殺したりと、とにかく色んな事がありすぎた。気持ちを整理する為にも寝床でリラックスしたいんだよ……。


「あの、すみません門衛さん。この町の宿屋はどこにありますか?」


「あ? 『金持ち用の宿』ならこの中央道の先、噴水広場があるんだがその広場の脇に『銀麦亭』って酒場兼旅籠屋はたごやがある。『貧乏人用の宿』なら広場の手前を道一本入った所に『すずらん亭』って店がある。こっちは木賃宿だが、酒と簡単な料理なら食わせてくれるし、頼めば厨房も使わせてもらえるぞ」


 だそうだ。俺の質問に対しかなり気怠そうに話すオジサンだったが、くれた情報は親切なものだった。俺は礼を言って町の中央道へと進んで行った。

 

 俺が金貨を出した時に門衛のオジサンは「成金」と言った。つまりその金貨をまだ4枚所持している俺は、今結構な金持ちという事だ。

 イメッタさんから貰った、もとい漁った宝飾品を換金すれば更に所持金アップを図れる。明日になったら色々とやってみたい事がどんどん増えていく。この状況、結構楽しいぞ。


 ☆


「いらっしゃい。食事と宿、どっちだい?」


『銀麦亭』に入ると、4人用テーブルが4つ、7〜8人が座れるL字型のカウンターがあり、カウンターの奥から恰幅のいい40〜50代くらいの女将さんが声を掛けてきた。


「あ、宿をお願いします。あと食事も…」


 空いているカウンター席に腰掛けた俺に女将さんは「ふん」と鼻を鳴らしながら食事のメニューと思しき薄板を持ってきた。


「宿は前払いで一晩30カイ、翌日の朝飯も込みの値段だ。坊主に払えるのかい?」


 町への入場量が15カイだったからその倍かぁ。高いんだろうけどイマイチ感覚が伴わないんだよなぁ……。


「とりあえず30、あと適当に食事を」


 そう言って先程の釣り銭のうち半分ほどをカウンターに広げた。女将さんは現金を見て気を良くした様で、ニンマリとしながら金を受け取っていった。


 食事を適当に頼んだのはメニューの字が読めなかった訳では無い。聖剣の力なのか書いてある『文字』は読めたのだけれど、書いてある意味が分からなかったんだ。だって「ガルパスのミョーレン焼き」とか「ポルポラのズソ煮付け」とか言われても、何の事やらさっぱりだろ?


 運ばれて来たのは何かの肉料理と何かの魚料理、そしてビールに近いと思われる酒だった。


 肉は臭みが残ってたし魚も泥臭かった。それでも『禄に飯も食わせてもらえない』事がしょっちゅうあった家庭環境に育った俺には、ちゃんと料理した温かい物が食えるだけで嬉しかった。

 今日は激しい運動を5回もしたから、とにかく体がカロリーを求めていたのだよ。


 飲酒も初体験だった。俺は未成年で日本では酒の飲める年齢じゃないけど、店の女将さんからは特に何も言われなかったので、この世界では俺は成人扱いされる歳なのだろう。


 見かけがビールっぽいのだが、味はビールと同じなのかどうかは分からない、飲んだ事無いから。

 正直苦いだけで『美味い』とは思えなかったけど、飲んだ後に体がポカポカして頭がボーッとする所は何だか『気持ちいい』と感じた。

 なるほど、これが「酒の味」ってやつなんだな。味覚じゃなくて神経の麻痺を楽しむ事が目的なんだろうなぁ……。


 店には他に裕福そうな夫婦と常連と思しき中年男3人組がいた。彼らの話や注文を耳を澄まして聞いていると、最近町の近くに馬賊が現れ出した事やモンスターの動きが活発化する季節になって来たこと、更に隣国との関係が悪化しつつある事、このビール紛いの飲み物の値段が1杯1カイである事が分かった。


 飲み物の値段だけで全体を測る事は出来ないが、この世界の通貨1カイは恐らく1000円位の価値だと判断出来る。そう考えると町の入場料に15000円、銀麦亭の一泊費用が30000円となる。

 女神から貰った金貨が1枚100カイだとして、所持金が50万円プラス馬車周りで集めた小銭。


 意外と滞在コストが高くつきそうなのであまり豪遊出来る余裕は無さそうだ。

 とりあえず明日は仕事を探さないといけないなぁ……。

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