第13話 森の主

「『森の主』ってのはデカい熊でね、とにかく凶暴で目に入る生き物には全て襲いかかってくる。アタイ達も何度か戦ったけど、その度に多大な犠牲を出してきたんだ。探すのはそんなに苦労しないと思うけど、出会った後に逃げ道を探すのはドえらく苦労すると思うよ? 本当に1人でやるつもりなのかい…?」


「…まぁそれが約束だからね。くれぐれもクロニアの事を頼むよ? これからは仲間なんだから虐めたりしちゃダメだからな?」


『仲間』という単語を聞いてベルモの顔が少し赤くなる。恐らく先程の痴態を思い出したのだろう。人質としてベルモの天幕に軟禁状態のクロニアは、俺を送り出す顔がとにかく悲しげだ。そんな今生の別れみたいな顔をしないで欲しいんだけどなぁ。


 ☆

 

 ベルモから貰った情報を元に、俺は森の主を探して回った。

 

 なるほどベルモの言う通り、見つけるだけなら大して時間を掛けずに、遠くからでも見つける事が出来た。ベルモから『デカい熊』だとの前情報を受けていたが、まさか四つ足の状態で体高が5mを超える大物とは思わなかった。2階建ての一軒家が足を生やして歩いているみたいなイメージだ。

 

『主』ってくらいだから、もう何十年も、或いは何百年も森に君臨しているのだろう。その証拠に奴の背中には毛皮の毛よりも苔の様な植物にビッシリと覆われていた。


 これ立ち上がったら恐らく10mを軽く超える、まさに『怪獣』と呼んで差し支え無いサイズのモンスターだ。聖剣の力を信じていない訳では無いが、あそこまでの巨体を倒すのに一撃で済むとは到底思えない。

 

 もし仮に奴を仕留めるのに2撃必要として、俺の初撃と2撃目の間に敵の反撃ターンがあったら、あの軽自動車くらいの大きさがある熊の手パンチを防がなければならないって事だよな。

 

 聖剣の攻撃力は大体掴んだけど、防御力はまだ検証出来ていない。こんな事ならクロニアかベルモを使って俺への撃ち込みとかしてもらっておけば良かったな。『うひよ〜っ、3Pだぜ〜っ!』とか浮かれて腰を振っている場合じゃ無かった。


 覚悟を決めて『森の主』に近付く。俺の武器は聖剣への信頼感しか無い。足音を消して接近したはずなのに、30m程の距離まで近付いた所で奴は俺に気が付いて、目を赤く光らせて威嚇してきた。

 

 見つかったのなら仕方ない、ここからは力押しだ。同じ力押しの攻撃なら聖剣でどうにか……。


 次の瞬間、『森の主』は目からビームを撃って来た。は?! 熊じゃねーのかよ、遠距離攻撃とか聞いてねーぞ、どーなってんだよ?!

 咄嗟に避けたが、熊の目から放たれた2条のビームは俺の元いた場所で爆ぜた。


 こうなったらこちらもなり振り構っていられない。ビームを横っ飛びで回避したまま、着地からの前ジャンプで一気に間合いを詰める。まずはその丸太より太い腕を1本頂くぜ!


 聖剣を大きく振り抜いた。剣から発せられた衝撃波が『森の主』の左前脚に大きな切り傷を作る。血も吹き出して来ないって事は、皮一枚切って終わりかよ? 森の樹だったら20本くらい切り倒した攻撃なんだけどな……。


 なんかいきなりピンチだぞ? 女神は『聖剣の力があれば無敵』みたいな事を言ってたけど、ゴブリンとか野盗みたいな弱い連中としか戦わない前提で言ってたのかな…?

 

『森の主』はお返しとしてその傷付いた左腕を振り下ろしてくる。俺もバックステップで躱すが、その着地点に向けて再度のビーム攻撃が飛んで来た。

 着地した瞬間なので更にジャンプするのは不可能だ。俺は聖剣を盾にして、剣でビームを受け止める。


 剣はしっかりとバリアの役割を果たしてくれたが、足の踏ん張りが効かない状態で受けた為に、ビームの衝撃をもろに受ける事になってしまった。

 吹っ飛ばされた俺は後方の木に背中から衝突してしまったが、予想していた程のダメージは受けずに済んだのは幸いだった。


 踏ん張れない、受け身すら取れない状態で背中を強打してもダメージらしいダメージは来ない。やはりこれは聖剣の加護で『全身を目に見えないバリアが覆っている』のだろう。

 やはり女神サービスは万全だった。攻撃だけではなく防御もしっかりと備えていたのだ。

 

 こんな事なら盗賊団に囲まれた時にもっと強気に出ていれば良かった。そうしてたらもっと有利な条件でベルモと交渉出来たのに… あ、どの道クロニアが撃たれたらアウトか… まぁ今となってはどうでも良いな。


 バリアが働いていると分かったら少し気が大きくなった。良い機会だから俺の防御力の検証もしちゃおうかな?

 主は右手を振って足元の大きな石を俺に飛ばしてきた。だがクロスボウの矢ですら掴める俺には、そんなスローな攻撃は通用しない。

 聖剣を一閃、飛んで来た石を両断する。『どうよ?』と得意顔で主の顔を見たら、奴は隙無く次のビームの発射体制になっていた。


「わっ?! ちょっとタンマ!」


 もちろん言って止まる相手ではない。慌てて再び聖剣を盾にする。ビームはそのまま剣に弾かれて明後日の方向に飛んでいった。

 おいおいこの熊、いやに頭が良いぞ? 動物とは思えない知能で波状攻撃を仕掛けてくる。現に聖剣の盾から顔を出した俺に向けて、新たな熊張り手を繰り出そうとしている。単に年の功による戦術感覚とも思えないんだよなぁ……。


 襲い来る熊張り手に対し俺はすかさず聖剣を振ってカウンターを当てる。熊の手は手首から切り離されて、これまた森の奥へと飛んでいった。

 さすがに手首が飛べば奴も少しは怯むだろうと思ったが、なかなか敵も根性のある奴で、その勢いのままに噛みつき攻撃を仕掛けてきた。


 ていうか手首から先が無くなっても血が吹き出して来ない。どういう事かと腕の切断面を見てみれば、そこには肉も骨も無い、石か金属の様な綺麗な断面があるだけだった。


 なるほど、『森の主こいつ』は生物じゃなくて、ゴーレムかロボット、或いは金属生命体なんだ。だから非常識にデカかったり効率的に戦闘してきたり、何よりビーム撃ったりしてきたんだな。

 恐らく太古の魔術か何かで造られたは良いものの、制御出来なくて捨てたとかその辺の筋書きがあるのだろう、知らんけど。


 噛みつき攻撃を回避、右手を斬られてバランスを崩した熊の左腕に乗り上げ、そのまま階段を昇る様なステップで背中の上まで登る。

 熊は立ち上がって俺を振り落とそうとするがもう遅い。俺の渾身の突き下ろしが奴の頭頂に刺さる。奴が立ち上がったのを良い事に、そのまま聖剣の柄にぶら下がり一気呵成に尻尾目掛けて斬り抜けた。


 見事な熊の背開きされた立像が出来上がったが、これは煮ても焼いても食えそうにないだろうなぁ……。

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