第53話 チャロアイト

「そう… だったのね… あまり女性にモテる要素が無さそうなのに、何人もの女性を従えて『お楽しみ』だったから、脅しているとか媚薬を使っているとか色々と裏がありそうとは思ってたけど…」


 チャロアイトが火照る体を鎮めるかの様に、己の体を自ら抱きしめて何かの衝動を抑えようとしている。今までのパターンから、その手を離したらそのまま俺に抱きついて来ていた事だろう。


 チャロアイトも所詮は『女』だ。俺の聖剣の魔力にかかればクロニア達と同様に俺の虜になる。裏のある奴だと分かっているのなら、保険として裏切り対策が必要となるだろう。それがこの『魅了』だ。


 段々と息が荒くなってきているチャロアイトは、ここでおもむろに着ていたローブの前をはだけた。そこには一糸まとわぬ彼女の白い肌が月明かりに照らされて、異様なほどに艶めかしく光っていた。


「貴方に協力してもらう見返りにこの体を使って誘惑しようとも思っていたけど、どうやら状況が変わってしまったみたいね…」


  チャロアイトはそう言って俺の左腕に抱きつき、体を擦り寄せてきた。彼女の胸に腕を挟まれて、俺の手は彼女の股間に手が届く辺りに調整されている。手が当たったついでに軽く指でひと撫でしてやると、チャロアイトは目を閉じ小さく「あっ」と声を漏らした。


 そのまま彼女の手は俺の股間に伸びてくる。美人の艶めかしい指が服の上から俺の股間を優しく撫でられ、俺の方も準備は整ってきた。


 チャロアイトは一言で言うなら『謎のおねーさん』だ。素性も分からなければ、その目的ですら全体的にフワフワしていてハッキリとは聞いていない。

 それでも美人だしナイスバディだし、仕事で女スパイやっていたならきっと房中術もお手の物だろう。


 俺達はどちらからともなく顔を寄せ唇を重ねる。彼女の着ていたローブを布団代わりに敷いて、仄暗い森の中、俺とチャロアイトは一つになった……。


 ☆


 チャロアイトはまさに『最高』だった。その彫像の様に均整の取れたプロポーションは言うに及ばず、テクニック、力加減、指使い、舌使い、そして下半身の名器具合に至るまで文句の付けようのないレベルで、更にはこちらが攻めに転じるとうやうやしく俺の動きに身を任せ、奔放に本気で快楽を貪っている。


 これが訓練されたプロの仕事なのだと感心する。転生する前のアイトゥーシアもかなり良かったが、あの頃は俺も初めてで良し悪しなんて判別できなかったしな。

 

 もちろんこの世界に来てから抱いたクロニア達が悪い訳では無いのだが、クロニアもティリティアも処女だったから俺がゼロから仕込んだ様な物だし、ベルモやモンモンはオーガ流なのか少し乱暴、というか雑なところがある。


 チャロアイトの『完成された性技』とはやはり一線を画していると言わざるを得ない。正直これ以上お供に女を増やしても体力が保たないだろうと考えていたが、チャロアイトとしとねを共にした上で、彼女を手放すのは限りなく『惜しい』と思える様にはなった。


 結果、俺とチャロアイトはお互いに『魅了』されつつ、これまた互いに利用し合う関係に落ち着いたと言えるだろう。


 ☆


「なぁ、魔法ってのは結局何なんだ? やり方さえ教われば俺でも使える様になるのか? 聖女とかの使う法術とは違うんだよな…?」


 連続で2戦し、その後の休憩中に俺は時間つなぎのピロートークで色々とチャロアイトから情報を引き出そうとしていた。


「ざっくり言ってしまえば単なる技術よ。ただ魔力を使って何かに干渉するまでには多大な年月の修練が必要になるの。それは幼いほどに効果が上がるから、私達魔道士は基本的に外界と交わらず魔力の強い男女を掛け合わせて、更に強力な魔道士を赤子の頃から鍛えるの」


 チャロアイトは目を閉じて何か一言呟いた。すると傍らに落ちていた15cmほどの木の枝がクルクルと回り始めたのだ。

 

「貴方なら… そうねぇ、今から30年くらい修練すればこの位の芸当は出来るようになると思うわ…」


 小枝を動かす為に今から30年修行とか、俺の人生に魔法は却下だな……。


「元々は魔族が編み出した技術を人間が取り入れた物らしいけど、私は冒険者では無いので人外の事情は詳しくないし興味も無いの。ごめんなさいね…」


 チャロアイトはイタズラっぽい笑みを浮かべて答えてくれた。嘘ではない、と信じたい。

 

「法術は『神の加護』と呼ばれているけど、私達はその神様アイトゥーシアから迫害されているから、こちらは何も知らないわ。むしろお仲間のガルソム侯のご息女の方がよほど詳しいでしょうね」


 ガルソム侯のご息女とは言わずと知れたティリティアの事だ。確か彼女自身も『奇跡』としか言ってないから、何か言語で説明のつく仕組みは恐らく無いのだろう。

 

「でもその割には教会に選ばれた勇者のお目付け役とか重要な仕事をやっていたり、なんだかんだアイトゥーシア教会の為に働いているんだよな? どういう理屈なんだ?」


 そう、迫害されているのなら敵対心があっても不思議じゃないし、なんなら魔族とやらと組んで王国打倒の動きがあってもおかしくない。

 迫害してくる奴と一緒に仕事するのはキツイだろ。俺だって生前のいじめっ子連中と一緒に仕事なんか出来ないし、やれと強制されても気が乗らない。

 

「あれはうちの王様パトロンのご意向よ。アイトゥーシア教はバルジオン王国の、いえ周辺諸国の大部分の国教ですからね。その昔、バルジオン王が冒険者をしていた頃、バルジオン青年の旅の仲間にアイトゥーシアの神官と我が一門の魔道士が居て、その彼らの友誼で新たなバルジオン男爵(当時)をり立てようと決めたそうよ。それ以来王都の教会からは、口では悪し様に言われながらも色々と細かい仕事を回してもらっているのよ」


「それは汚い仕事ウェットワークも含めてか…?」


 俺の問いにチャロアイトは答える事なく、意味深な妖艶の微笑みを見せて、俺の首に手を回し唇を奪ってきた……。


 ☆


「じゃあ私は一度『勇者くん』達の所に戻るわ。彼らには次の仕事があるからそちらへ導いて上げないと…」


 俺との3を終えたチャロアイトは身支度を整え、それだけ言うと再度森の奥へと消えていった。


 1人残された俺はここまでの状況を整理してみた。まずはチャロアイトは『幻夢兵団』という組織に属する王国直属の魔道士であり、魔道士の特性上あまり表に出せない仕事を請け負っているらしい事。更に彼女の仕事の手助けの為に俺の腕が必要らしい事。その上で俺の働き次第でベルモの治療薬を分けてもらえる事。


 さて、どんな無理難題を押し付けられるのか不安半分、興味半分の複雑な心境で自嘲的な微笑みが漏れてしまう。

 俺と関係を持った以上、チャロアイトの裏切りは想定しなくても良い気がするが、何せ相手は『魔道士』だ。聖剣の魅了の仕組みに何か心当たりもあったみたいだし、魅了が浅い可能性も考慮して接する必要があるだろうな。

 

 まぁ、まずは俺の仲間たちに、ベルモ治療の希望と新たな元請けが出来た事を報告しに行かないとな……。

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