第77話 答え合わせ
翌朝、クロニアとモンモンは食料を含む物資の補給、チャロアイトは王城や
王都のアイトゥーシア教会であれば、俺が聞いた謎の神(?)の名前に関する情報、あるいはそのヒントが見つけられると踏んだからだ。
ついでと言っては何だが、ベルモの怪我を大司教の法術で治せるのならそちらもお願いしたい。モンモンの例を見る限り、チャロアイトの持ってくる薬は何か効き目の方向性が微妙に違う気がするしな……。
最後に、俺はチャロアイトの師匠である魔道士リーナを始めとする王様の昔の冒険仲間から『魔の者』と疑われているので、前回会った中では話の分かりそうな大司教様に「プルプル、ぼくはわるいぼうけんしゃじゃないよ」と理解してもらって、他のお偉いさん方に誤解を解く協力も要請したい。
とにかく今後の俺達の運命を決める上で、大司教様との会見はミスる事を許されない。ティリティアが居てくれるとは言え緊張するぜ……。
☆
「お二人より急用との事ですが
ラングローム大司教…
聖職者にしては妙に骨太な体格がローブの下から透けて見える気がする。
「お忙しい所、お時間を頂きありがとう存じます大司教様…」
俺達が通された応接室に現れた大司教にティリティアが恭しく頭を下げる。一応俺もそれに倣って頭を下げた。
それを受けた大司教も『挨拶は不要だ』とばかりに手を上げ、俺達の対面のソファに乱暴に腰掛ける。そして無言のまま目の動きだけで話の続きを促す。
「実は私達の戦ってきた敵の指揮官、或いは『神』と思しき名前を聞いたのですが、それらに関して教会の叡智をお借りしたくて参りました」
ティリティアはそこで言葉を切り、俺の方へ視線を送る。恐らく『全てを話してしまっても良いか?』という確認なのだろう。俺も黙ってティリティアに頷き返す。
「いきなりですが、大司教様は『ドゥルス』や『ガラド』という名前に心当たりはございませんか…?」
この言葉に大司教の目の色が明らかに変わった。と同時に俺達に対する警戒の念が更に強くなり、肌に感じるほどの『圧』としてビンビンに伝わってくる。
「この世で伝えられている『神』は私達の唯一神であるアイトゥーシア様だけです。かつての創世神話にアイトゥーシア様と争い、そして敗れて名を封じられた神々がいるとも…」
ティリティアはここまで言って、張り詰めた空気を和ませる為か、出された茶を一口飲む。
大司教も同様に茶を口に含み、何やら観念した様に「フン」と鼻息を漏らした。
「さすがは『ガルソム家の才女』ティリティア様ですね… そこまで洞察されているとは…」
ティリティアの言葉には多分にカマ掛けの意思が込められていた。実際は何もわかっていなくても『俺達はここまで知っているんだぞ』と示して相手を動揺させる意味は大きい。
大司教も『それ』を分かっていて俺達と情報を共有しようとしているのは明白だ。その理由は今から聞くしか無い。
「では…?」
「はい、『暴虐のガラド』も『策謀のドゥルス』もかつてアイトゥーシア様に敗れて名を封じられた神々です… 名を封じたのは後世に『邪神』の名を奉じた信者を生まない為で、この話はアイトゥーシア教会でも司教以上の地位でなければ聞かされませんし、もちろん他言も禁止されます」
やはり『ガラド』や『ドゥルス』は邪神の名前だったのか。すると『蛇』や『ガドゥ』は封じられたはずの邪神の眷属や信者という事になる。
この話と『
なんだか少しずつ見えてきた様な気がするぞ――。
俺をこの世界に転生させた女神『アイトゥーシア(今となっては本当にアイトゥーシアかどうかも怪しい)』は、俺に
俺は何の疑問も抱かずに剣を振るって、無敵ヒャッホイしながら冒険者としての地位を得た。
しかし女神から賜ったこの『聖剣』は、今いる世界での評判を聞く限り『魔剣』として認識されているらしい。
もし俺が聖剣の無敵の力を、己の欲望のままに悪業に使っていたらどうなったか? 恐らくはこの世界に破滅と混沌をもたらす『悪魔』あるいは『魔王』として君臨出来ていただろう。
生前の俺の捻くれた人生を顧みれば「世に恨みを抱いて悪鬼の如く暴れまわってくれる」と女神に思われて選ばれたのかも知れない。
もしかして最初から『それ』が目的だったとしたら…? アイトゥーシア教会に仇なす神々が、この世界を破滅に導く尖兵として送り込んだのが『俺』で、俺の転生に合わせる様に邪神(敢えてそう呼ぶ)関連の動きが活発化しているのだとしたら…?
「な、なぁ大司教さま、その封じられた神々の中に女は… 女神は居なかったのか…?」
本来なら俺ごときが口を挟んで良い場面では無かったのだろうが、もうこれは確かめずには居られない。俺は我慢しきれずに大司教に質問していた。
大司教は俺の質問の意図を掴みきれず怪訝そうな顔をしたものの、怒るでも無視でもなく真摯に答えてくれた。
「はい、女神も確か居たはずです… ガラド、ドゥルス、そしてもう一柱の女神の三神が中心となって、アイトゥーシア様と世界の覇権を賭けて闘った、とされています」
「その女神の名は…?」
もう礼儀も何も無い。俺は食い付くように大司教に詰め寄った。
「残念ながら私の方からその名は先程の理由で言えませんが、『淫奔のホニャララ』と答えておきます。もし貴方がたが女神の名を掴んだのであれば、その答え合わせにはお付き合いしますよ?」
イタズラっ子ぽい茶目っ気を見せる大司教。元冒険者だけあってノリの良い人なのは間違いなさそうだ。
だが女神の名前なんて今更どうでもいい。『悪い女神』が居て、そいつの力が『淫奔』なのであれば、もう答え合わせは十分だ。
俺は邪神に見込まれて、この世界にテロリスト候補として送られた存在だったんだ… あの『女神』もアイトゥーシアの名を騙って俺を騙したんだな。
第一おかしいと思ってたんだよ。『愛の女神』と名乗りながら、恋愛をすっ飛ばしていきなり肉体関係に持ってくるのも不自然だったし、聖剣の力で女を抱けても、その心までは魅了出来なかったりと、どうにも使い勝手が悪かった。
それもこれも全て『淫奔』の能力のせいだとすれば納得だ。俺は女達に好かれていたのではなくて、単に強力な媚薬を持っていただけだったんだ……。
「こちらからも一つ良いですかな? ティリティア様、教会の産婆らの噂で聞いたのですが、何やら貴女は未婚なのに身籠っていらっしゃるとか… 事実ですか…?」
大司教様の視線がかなり鋭い。確かアイトゥーシア教会の戒律からすると、未婚の妊娠は禁忌なんだっけか。
まさかここでそんな反撃を受けるとは想定していなかったティリティアも一気に顔が青褪める。
「あ、あの… それは違うんです大司教様…
しどろもどろで狼狽えるティリティアも面白い。まぁお腹の子の父親(俺)がすぐ横に居るのだから笑い事ではないのだけれども。
そしてその後の大司教の言葉は俺とティリティアの度肝を抜いて沈黙させるに十分な破壊力を持っていた。
「ええ、そうでしょう。アイトゥーシア教会の侍祭であり、ガルソム侯爵の娘御ともあろう方が未婚の出産など許される事ではありません。そこでどうですか? 今日この場で形だけでも結婚してしまわれては?」
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