第70話 新人と…

「俺はフィン。斥候スカウトやってるんだ。こいつはローズ、見ての通りアイトゥーシア教会の神官だ」


 フィンとローズの2人組は俺と同年代らしく、初々しさすら感じる。2人とも王都ではあまり見かけないクロニアと似たような浅黒い肌をしているところから、地方あるいは異国の出身で王都に一旗揚げに出てきたか、故郷に居場所が無くなって流れてきたかなのだろうと思われる。


 2人とも簡素な革鎧を着ているが、かなり使用感が強く少なくとも新調した物では無さそうだ… いや、はっきり言おう。『ボロボロ』だ。「親から受け継いだ」「中古品を安く買った」「死体から剥いだ」のどれかだろうな。 

 まぁ装備は最低限の働きをしてくれれば十分だし、冒険者同士で互いの過去には干渉しないのがマナーだ。ゴブリン退治が出来るなら問題ないだろう。


 しかし『斥候』と『神官』の組み合わせ… なるほど、その構成なら盾と攻撃力を兼ねる前衛が欲しいよね。俺に声をかけたのも納得だ。

 

 さて、俺としてはどうしたものかな…? 「僕は4点冒険者で、ランクが釣り合わないのでお断りします」でも良いんだが、せっかくのお誘いを無碍もなく袖にするのも気が引ける。


 もともと暇潰しのつもりで依頼を受けに来たのだから、小遣い稼ぎついでに新しい親交を探すのも悪くはないだろう。ゴブリン退治くらいなら明日には終わるだろうしな。

 

 ちなみに言っておくと俺の装備ランクが新人と同程度なのは『それで十分だから』であって、『金が無い』からではないぞ。新人と同等に見られたのは面白くないが、まぁいちいち説明する事でも無いから置いておこう。


「俺も仕事を探していたから誘ってくれて嬉しいよ。俺で良ければよろしく頼む」


 そんな訳で、ここにサクッと即席パーティが出来た訳だ。


 ☆


 依頼の内容は「街の脇を流れており、人々の水源でもあるハバーリ川の水質が落ちてきているので上流で何が起きているのか調べて、原因を根絶して欲しい」という物だ。川にゴブリンが食べ残しや糞尿を投げ捨てていると考えられている。


 そのくらいなら1日あれば行って戻って来れそうだな。今更ゴブリン退治なんて剣の練習相手にもならないが、困っている新人パーティを助けてやるのも先輩の仕事だしな。


 一度部屋に旅道具を取りに戻り、俺は新たな仲間とともに探索クエストを開始した。


 ☆


 川に沿って2時間ほど徒歩で歩くと、ゴブリンの足跡や狩りをした痕跡を見かけるようになった。このフィンていう奴は新人の割にはなかなか目敏い奴で、野伏レンジャーの技能にも長けている様だった。

 うちにも野外活動の専門家が欲しい気がするが、俺の一党パーティに入れたら腰抜かしちゃうだろうなぁ……。

 

 ☆


「巣穴があったぞ。やはり川沿いを伝って正解だったな。入口は常に4、5匹のゴブリンが出入りしているみたいだ… で、どうする? すぐに踏み込むか…?」


 フィンがゴブリンの巣を見つけてくれた。「どうする?」と言われても今回の俺は傭兵だから、意思決定に参加する気は無いよ?


 ローズの方も俺を注目して言葉を待っている。う〜ん、頼られてるのかな? ここは先輩としての意見を述べるべきなのかな…? 


「相手の数や構成が分からない時は、慎重に見張って出来るだけ情報を集めた方が良いんだけど、長引いた分だけ川の汚染も広がるし、奇襲できるなら奇襲した方がいい気がする…」


 これにもう一つ、『ゴブリン退治ごときに何日も縛られたくない』という本音もある。もう聖剣の力でサクっと終わらせて帰り、新人達の称賛を浴びながらティリティア達に自慢したいのだ。


 ☆


 門番をしていた2匹のゴブリンをまとめて聖剣の一刀で斬り伏せる。ゴブリンどもは声を上げる間もなく両断されて息絶えた。


 だが、中に踏み込もうとした所で若干の問題が発生した。


「狭いな… これじゃ聖剣は振り回せないか…」


 洞窟の中は道幅が狭く、天井も低かった。軽く立ち回るくらいの広さはあるが、聖剣だんびらを振り回せる程の余裕は無い。


 これは困った… 俺、予備の武器持ってないんだよねぇ。ただまぁベルモの子分たちを素手でやり込めたりしてきたから、聖剣が使えなくても聖剣による『超パワー』は健在なのだと思う。となると手っ取り早いのは……。


「え? あんたゴブリンの武器を使うのか? 良いのかそんなんで…?」


 そう、今しがた息の根を止めたゴブリンが身に着けていた小剣と手斧を回収した。誰の武器だろうが当たれば痛いし切れば血が出る。ゴミになるよりは使ってやった方が道具も喜ぶよな…?


 ただ拾った武器は当然ながら、聖剣の様な『武器自体の強さ』は無いために、先程やった『一太刀で数体倒す』なんて芸当は不可能になる。

 一匹一匹をちまちま退治していたら、俺がもたつく間に後ろの2人に危険が及ぶ可能性が増える。ここはスピード勝負あるのみだ。


「ここはゴブリンの迎撃態勢が整う前に突っ込んで倒してしまった方が早い」


 いやまぁ本当は途中の通路に侵入者よけの罠がある事を想定して動くべきなのは分かっているが、聖剣の加護がある限り俺がゴブリン程度に遅れを取る事は無い訳で、ここは巧遅より拙速を採用すべきだろう。


「あ、アンタがそう言うなら信じるよ…」


 フィンがまだ半信半疑な感じで追従し、ローズも心細げにそれに従う。確かに俺のやり方は明らかにセオリー破りだから気持ちは分からなくは無い。


 通路を10mほど進んだ所で俺が罠にかかった。穴に被せた薄い板を踏み抜くと、深さ20cm程の落とし穴があり、穴の底には毒やら糞やらが塗りつけられた釘が何本も立てられている。


 釘の直接ダメージよりも毒や病気での攻撃が目的かつ、足を負傷して動きの遅くなった相手ならどうとでも扱いやすい、という魂胆なのだろう。


 足の裏まで装甲している冒険者などまず居ない。そして怪我をして動けなくなった所を集団で襲えば、どんな強豪でも長生きは出来まい。

 シンプルだが地味にイヤなトラップだな。仕掛けた奴の性格の悪さが窺える。


 当然ながら俺はノーダメージだが、中のゴブリンに侵入が気付かれた。何匹かの動く音が奥から聞こえる。


 新人2人はまだ心の準備が整っていない様子だが、敵はこちらの事情を待ってはくれない。


 さぁ、戦闘だ!!

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