第37話 アイトゥーシア教会
「もしまだお時間があるようでしたら、
鍛冶屋での商談も終わり、そろそろ
そう言えばティリティアはアイトゥーシア神教の
「俺もアイトゥーシアには世話になったから、挨拶くらいはしておこうかなぁ…?」
なんて気にもなる。俺の呟きにティリティアは嬉しそうに顔を
「あら、勇者様もお付き合い頂けるならとても心強いですわ。他の方はどうします?」
ティリティアがクロニアとモンモンに目を向けるが、その2人は揃って目を逸らしていた。
「ボクはパス! 教会なんて退屈すぎて死んじゃうよ!」
「私も
なんて言いながら2人は来た道を戻って行った。残されたのは俺とティリティアの2人。
「では勇者様、2人で
ティリティアはイタズラめいた顔で俺の腕に腕を絡めてきた。確か以前、『教義で夫以外の殿方に触れるのは禁止』とか言っていたが、公衆の面前で堂々と腕を組みに来るという事は、ティリティアの中では『そういう事』なのだろうか?
いやまぁ聖剣の力とは言え何人もの女を虜にしてしまったが、最終的にどうするとか全く考えていない。無限のハーレムを構築するのか、それとも誰か1人を選んで結婚するのか…?
何にせよ今はまだ考える時じゃない。必要な時になったら追々考えていこう。今はまず明日以降の生活費の工面からだよな……。
☆
ティリティアに連れられてきたアイトゥーシア教会は、なるほど大きな教会、というか神殿で、色々な階層と思われる多くの人が参拝に訪れていた。本殿の前には高さ7〜8m程の杖をついた老婆の像が立っている。
「あの像がアイトゥーシア様ですわ。慈愛に満ちたお婆様のお姿、心が洗われますわね…」
本願叶ったティリティアがとても幸せそうに、胸の前で手を組んでアイトゥーシア神に祈りを捧げている。でもあれ…?
「なぁアイトゥーシアって婆さんの姿なのか? 俺はもっと若くてピチピチした女神様だと思ってたけど…?」
実際に俺が会ったアイトゥーシアはピチピチのプリプリで、今思い返しても最高の抱き心地だった。今の女達が悪い訳では無いが、クロニアやベルモはやや筋張っていて、ティリティアは全体的に細い。ムチムチ感が足りないんだ。
「はい、アイトゥーシア様は常に老婆の姿で顕現されると教えられています。惜しみない慈しみを万民に与えられる様に、そして
最後の言葉はティリティアも微笑みながら言っていたので、半分は冗談なのだろう。男性の視線から逃れるも何も、女神の方から「やっとく?」みたいな感じで誘われて、俺は彼女に童貞を捧げたのだから。
まぁ国家的な宗教らしいから、大多数の男から性的な思いを寄せられても神様としても困ってしまうだろう。普段は婆さんの格好で擬態していても何ら不思議ではない。
☆
ティリティアは神殿の中に入り「お偉いさんに挨拶してくる」と1人で奥へと進んで行き、そして俺は玄関で『部外者』として締め出されてしまった。
「すぐに戻りますので、お散歩でもなさってて下さいな」
なんて言いながらティリティアは部屋の奥へと消えて行った。
散歩って言われてもなぁ… 神殿の前には広場があり、いくつかの屋台がたっているが、雑多な人通りで何の店があるのかは判別出来ない。
広場の脇には教会の神官だろうか? 若い男が立って何かを演説しており、彼の話を聞こうと10数名の男女が群がっている。
暇つぶしがてら何を話しているのか聞いてみよう。
どうやら『新たな神託』とやらが下ったらしく、その内容を何度も繰り返し通行人に話して聞かせている、という形のようだ。
「この度我々アイトゥーシア教会では新たな神託を賜った!」
から始まる一連の
何でも近々『魔王』とやらが覚醒するらしい。それも邪悪な神々の力を携えて、世に恐怖と混乱を巻き起こす存在だそうだ。
へぇ、物騒な話になってきたねぇ。その『魔王』ってのは俺の聖剣で倒せるのかな?
話は続く。もちろんアイトゥーシア教会としてもただ手をこまねいているだけでは無い。新たに蘇る『魔王』に対抗するべく、『勇者』を招聘して事に当たらせるそうだ。
「選ばれし勇者によって邪神は封じられ、魔王も力を失ってやがて自滅する」みたいなストーリーを滔々と話していた。
『邪神』ってのは今ひとつピンと来ないけど、『愛の女神』とやらのアイトゥーシアは確かに実在していたし、聖剣を作ったのはアイトゥーシアの他に『知恵の神』と『力の神』が協力したと言っていた。然様に他にも様々な神々が存在していてもおかしくはない。
もし本当に邪神の力とやらで『魔王』が生まれた場合は、俺はどうしたら良いんだろう?
『勇者』となって『魔王』を倒す?
『魔王』に与し共に世界を手にする?
『勇者』も『魔王』も倒して独裁者になる?
下手に争いに関わらずに冒険者ライフをエンジョイする?
この世界に転生した際に女神に言われた事は「俺のやり直し人生なので自由に生きろ」だ。何の指標も無い。だから上の選択肢のどれを取っても構わないのだと思う。
「これからの人生か…」
世界の事、女達の事、いつかは何かを決断しないといけないんだよなぁ。そして俺はその結果に責任を持つ義務がある。
今ではない『いつか』。その時を想像して俺は少し身の引き締まる思いがした。
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