第18話 ティリティア・ガルソム
「…どうしてお前は…」
「…ですわ!…」
「…のだな?…」
「…(聞き取り不能)…」
「…勝手にしろ!!…」
ティリティアが父親であるガルソム侯爵と話をしてくると言って入っていった談話室だったが、漏れ聞こえてくる話は何だか不穏な内容みたいだった。
ティリティアを除く俺達3人はそんな重苦しい雰囲気の中、彼らの話が終わるのを隣室で待たせてもらっているのだが、この様な空気でノホホンと茶など飲める訳もなく、何も悪い事はしていないのに、いつ怒られやしないかと戦々恐々とした時間を過ごす羽目になった。
☆
「お待たせしました。話は付きましたわ、これで正式に貴方達の
「…は?」
「…え?」
「…ん?」
談話室から「勝手にしろ」と言われたにも関わらず嬉しそうに出てきたティリティアの笑顔に、俺達3人は共に答える言葉を持たなかった。
一体何がどうなっているのやら全く見えてこない。付き合いの古い(らしい)クロニアですら困惑しているのが見て取れた。
「実はわたくしは『冒険者』になりたかったのですよ。深窓に閉じ込められて、お洒落と茶菓子の事しか頭にない愚かな御婦人方のお相手をするのは懲り懲りでしたの」
ほほぅ、なるほど。ティリティアは『お嬢様系聖職者』ではなくて『お転婆お姫様』の系統だったのね。
この後のティリティアの話を掻い摘んで話すと、ティリティアは昔から退屈な宮廷住まいが嫌いで、血湧き肉躍る冒険に憧れていたそうだ。
しかし貴族令嬢たる者、そんな事を言い出す訳にもいかない。夢は夢として半ば諦めて生活していたら、親から隣領の跡取り息子(しかもまだ9歳だそうだ)との縁談を告げられた。
これがティリティアには死刑宣告に聞こえたそうで、勘当を覚悟して婚約を拒否(というか既に婚儀に向けて色々と動き始めていたから実質『破棄』だな)してしまった。
貴族同士の婚約破棄は個人の問題では片付かない。隣領に対して大きな恥をかかされた父親のガルソム侯爵は大激怒、「嫁に行かない穀潰しならいっそ尼になれ」とティリティアをアイトゥーシア神教の教会に放り込んだ。
しかしこれはティリティアにとっては渡りに船だった。そこで彼女は
それから数ヶ月、兵士達の怪我を治したり薬草学や錬金学の勉強をして過ごし、それなりに充実していたティリティアの所に俺達が現れた。直感で『こいつらの仲間になれば冒険の旅が出来る』と判断したのだろう。それから捩じ込む様にパーティに入ってきた行動力は素直に称賛したい。
そして先程の会話は「本格的に冒険者として独り立ちする。幕営地勤めも辞める」と宣言しに行った、という訳だった。
…うーん、これは俺が言うのもナンだけど、この世界の『冒険者』って何処かから保証された職業じゃないんだよ? 「冒険者」と書いて『ゴロツキ』とか『ならず者』って読み仮名を付けた方が相応しい世界。
それこそティリティアみたいな娘がパーティメンバーに身元を明かしたら、彼らは一瞬で『誘拐犯』にクラスチェンジする様な世界だ。
そんな事情は侯爵らも十分に分かっているからこそ、先程の様な殺伐としたやり取りになっていたのだろう。俺には子供は居ないけど、侯爵さんの親の苦しみは何となく理解出来るよ。
「お
「余計な口出しはやめてちょうだいクロニア。わたくしはもう決めたのです。それに貴女はいつかまたラモグの幕営地に戻るのでしょう? 『冒険者』でない貴女には差し出口は控えて欲しいですわね」
年齢も体格もクロニアの方が上なのだが、クロニアは全くティリティアに頭が上がらない。まぁこれが貴族と平民の差なのだろう。
実際クロニアといつまで組んでいられるのかは俺にも分からない。現状俺やベルモの『お目付け役』として同行してはいるが、クロニアやベルモは厳密にはパーティメンバーではなくてゲストキャラクターだ。
彼女らには彼女らの当面の目標があって、たまたま俺と同行しているだけで、俺の様な根無し草ではない。いずれ幕営地や森の野営地へと帰っていくのが分かっている。
そう考えると俺にとって初の『正式な』パーティメンバーはティリティアになるのかも知れない。お互いに先が見えていない不安定な立場、という意味でもね。
クロニアが俺に向けて「お前も何か(ティリティアを止める事を)言え」とばかりに視線を投げてくる。
だがしかし俺はティリティアのパーティ参加は賛成派だ。だってこの先の旅に回復役は絶対必要だからね。
まぁ、かと言って明らかにティリティアの肩を持ってパーティに分断を招くのも利口な選択ではない。そこで条件付きの代替案を出してみることにした。
「それなら今受けているゴブリン討伐をティリティアに手伝って貰って、この娘の実力を測らせてもらおうよ。ゴブリン相手ならそんなに苦戦はしないだろうし、練習にも丁度いいと思うんだよね……」
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