第17話 新たな任務

「何で私の知らない間にティリティア様と同行するなんて話になっているのだ? 道中何かあったら責任が取れないではないか!」


「あらクロニア、こちらの勇者様がいらっしゃれば賊や魔物など物の数では無いのでしょう? わたくしの警護の為に変に大人数を割いて衛兵隊の職務に支障を来すよりも余程好都合だと思いますよ?」


「いえティリティア様、私の言っているのはそういう事ではなくてあの男は…」


「あの男は…?」


「な… 何でもありません!」


「では問題無いですね」


 クロニアとティリティアが出発前に揉めていた。何やらクロニアはティリティアが同行するのが気に入らないみたいなのだが、話を聞く限りティリティアの言い分は100%正しい。逆に普段冷静なクロニアがあんなに取り乱して反対するとは正直意外だった。


「自分より身分の高い人間を入れて立場が下がるのが面白くないのか、旅の仲間パーティに新しく女を入れたくないんだろうさ」


 俺の横でクロニアとティリティアのやり取りを見物したていたベルモが解説してくれた。なるほど、そういう物なのかねぇ…?

 そう考えると俺がティリティアを毒牙にかける事が前提で話をしているのだろう。

 

 それは使命感からティリティアの身を案じての事なのか、クロニアのヤキモチなのかまでは計り知れないが、まぁ両方だろうな。それならそれで、普段からもっと俺に優しくしてくれても良いと思うんだ。


 確かに聖剣の力でクロニアら女性を魅了出来るのは分かっているし、これが男には何の効力も無いのもベルモの仲間達との触れ合いで確認している。

 かと言って女達が俺の言葉に常に絶対服従するかと言うとそんな事は無く、普段の態度は変わらない。特に学級委員ポジのクロニアなんか俺の服装だの生活態度だのに何だかんだと文句を付けてくる。


 女神は聖剣の力で「女は何でも言う事を聞く」と言っていた。確かに「服を脱げ」とかならホイホイ聞いてくれるのだが、例えば「自殺しろ」とか言ったらどうなるのかな? 興味はあるが試すのはさすがに抵抗感が強いよな……。


 穏やかな顔してパーティ参加を捩じ込んできたティリティアもただのお嬢様では無さそうだ。

 何か裏があると思うので、厄介な事になる前にさっさと触れてしまうのが正解な気もするが、その結果俺にベタベタする様になると教義に反する、つまり『俺が何かした』事が周囲にバレる可能性が高い。

 

 別にバレた所で俺を害せる奴がいるとは思えないが、これから成り上がろうとしているのに『魔道鬼道で娘を洗脳した』等の疑いを招くのは避けたい。

 ティリティアはクロニアやベルモのような『戦う女』とは違った、抱き締めたら折れそうな細くしなやかな体をしている。彼女を抱きたい気持ちはあるが、少し様子を見るべきなのかな…?

 

 ☆


 侯爵の屋敷は幕営地から馬で2時間弱の距離らしいので、これから面倒事が山積みでゲッソリしているクロニアを除いて、俺達はハイキング気分でのんびりと馬の旅を続けていた。

 

 ちなみに今まで俺の乗ってきた元ヘッケラーさんの馬は、ヘッケラーさんの現場復帰がまだ先になりそうな事から、引き続き俺に貸してもらえる事になった。もうしばらく世話になるぜ相棒。


 さて、道中賊やモンスターが現れる事もなく、俺達は平和に侯爵の邸宅に到着した。

 邸宅は壁で囲まれてはいたものの警備は殆ど無く、守衛兼受付のオジサンが門の横の詰め所でくつろいでいた。

 

 クロニアは顔パスらしくそのまま俺とベルモが続く。オーガのベルモには少し警戒心を見せたけど、更に続いたティリティアを見て驚いて立ち上がり敬礼をする。侯爵令嬢なのは本当みたいだ。


 ☆


 侯爵の邸宅とは言え、予想していた程の大きさは無かった。ワンフロア4〜5世帯が入れる様な二階建てのアパートを、凹の字に3棟合体させたくらいの館を想像してもらえば分かりやすいと思う。

 

 俺達が会うのは侯爵本人ではなくて、領の運営の事務方である政務官さんだ。線の細い学者肌のオジサンで、真面目だけを取り柄に仕事をしてきた感じの人だった。温厚そうに見えるので、無駄な意地悪はしてこないと思いたい。

 

 俺達の前にひと組、別の陳情があったらしく少し待たされたが、特に問題はなくクロニアの話が始まった。状況を説明するのは主にクロニアで、俺やベルモはたまに聞かれた事に答えるくらいしかする事が無い。


 ジュガスさんの紹介状があったとはいえ、最初クロニアの説明だけでは難色を示していた政務官。だけど何故か俺の横に座っているティリティアが、ずっと貼り付けた笑顔で無言のまま政務官を見ていたのが圧力になったのか、


「し、狩猟と森の街道での商売は許可します… ただ、傭兵団契約についてはこの場では許可できませんし、野良の武装集団が森に陣取っているのも看過できません」


「じゃあどうするんだい? 軍隊送ってアタイらとり合うかい?」


 ベルモが激昂して政務官に殴りかかろうとする。威勢は良いが、筋肉の張り具合から本気じゃないのは見て取れた。その証拠に俺が手で遮るとベルモは大人しく拳を収める。


 政務官はベルモの威勢に顔を青ざめさせながらも、次の条件を出してきた。

 

「どうやら北方の村で近くにゴブリンの群れが住み着いたらしくて、対応を望む旨の陳情が来ているのですよ。少なくとも10体はいるらしいので、傭兵団として最低の力があるかどうかの試験をさせて下さい。期限は1週間で…」

 

 なるほど、俺達の前に来ていた別の陳情の人ね。ゴブリン相手なら敢えて俺が出るまでも無いかな?

 でもあの森に行って帰っては丸一日かかる。期限付きならベルモの部下を呼んでくる時間が惜しいし、俺も侯爵様に良い所を見せておきたい。


 何となく全員で目配せして。ティリティアの用事が済み次第、現状の4人で向かう流れになったぽい。

 まぁ俺はもちろん、クロニアやベルモもゴブリンに遅れを取る様な女じゃないし、ティリティアが狙われても簡単に助けられるだろうしな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る