第75話 帰還報告
バルジオの街に帰還した俺は、仕事の報告に
正直気が重い… 依頼である「川の汚染問題の解決」は成し遂げたものの、同行した新人2人をむざむざと死なせてしまった。
加えて相性の問題もあるだろうが、今まで『ワイバーン』や『蛇』相手でもかすり傷程度で済んでいた戦闘ダメージが、今回はあわや死にかけた。
この街に来た頃は『タイマンなら誰にも負けない』などと思っていたが、考えを改めないと駄目だな。聖剣があっても死ぬ時は死ぬ。世界は俺の為には存在していない……。
反省点を挙げたらきりがない。ゴブリン相手と舐めて掛からずに油断しなければ… 狭い場所での戦い方を学習しておけば… 応急手当程度であっても治療の心得があったら… どれか1つでも出来ていたなら、新人のうち最低1人は救えたはずだ……。
「お帰りなさい。あの… お一人ですか…? ずいぶんやつれている様にお見受けしますけど、大丈夫ですか…?」
ギルド受付のお姉さんが
「…依頼は達成しました。上流にはゴブリンの巣があって、確認できる範囲では全滅させたので、汚染は止まったと思います。ただ、同行していた2人は…」
そう言って彼ら2人の認識票を机の上に置く。これで彼らの死亡手続きや家族への送達等の事務関係は、全てギルドが引き継いでやってくれるはずだ。
「そうですか… 冒険者さん、特に新人の方が戻らないのはよくある事です。何度やっても慣れないですけどね…」
受付さんも目に涙を溜めている。彼女の言う様に似たような事例は
例えゴブリンの様な雑魚モンスター相手でも、不意を突かれればベテランの
ただ『よくある事』だとしても、自分が「行ってらっしゃい」と送り出した相手が帰って来ない、或いは死体で帰って来るのは精神的にかなりな負荷になるのは理解できる。
「沈んでいても仕方ないですね… 『お仕事』を済ませてしまいましょう! 状況の詳細をお伺いしても…?」
受付嬢に促されるまま、俺はゴブリンが軍隊の様な高度な訓練を受けていた事、突如現れた恐らくは
「それでコレを拾ってきたんだけど、ギルドの方で調べて貰えます? 無理なら仲間の魔道士に頼むけど…」
取り出したのは、血の染みた包帯に巻かれたガドゥの左足だ。それを見た周りの冒険者達の空気が一瞬凍る。
「え? あの… 『調べる』とは…?」
あぁそうか、いきなり文字通りの『生足』を出されても反応に困るよな。説明をしなければ……。
俺は今回唯一の戦利品である『ガドゥの足』について、受付嬢に知っている限りを話した。その上で「ガドゥが本当にオーガなのか?」と「巻かれている包帯がどういう
「う〜ん… 宝石や細工品の鑑定なら
受付嬢が頭を抱えて考え込んでしまった。無理難題を言ってしまったらしい。
「こういう場合は
なるほど、そういう事ならチャロアイトに頼んだ方が良いかもな。例のゾンビパウダーの調査が終わっていたなら良いのだが、最低でも3日掛かるとか言っていた様な……。
☆
宿に帰った俺は、わずか2日しか離れていなかった仲間たちとの再開を心から喜んでいた。
今回の様に『仲間を死なせた』事が思いの
「事情は大体分かった。大変だったな… まぁゆっくり休め」
クロニアの言葉に皆が頷いて同情してくれる。そうだよ、大変だったんだよ、取り乱しはしたけれど、俺なりに精一杯打開してきたんだよ。
気分が落ち着いた所で、俺が出かけていた間の出来事を一通り聞いた。
クロニアとモンモンの弓の訓練は、モンモンをどうにか『初心者』から『素人』というレベル位まで上げられたそうだ。まぁ2日だしな、そんな劇的な進化はしないよな。
ちなみに新モンモンは用意した取り回しの悪い長弓を好まず、小回りの効く短弓を所望したらしいが、出来合いの短弓ではモンモンの引き絞る力に耐えきれずに折れてしまったそうだ。
そこで鉄で作られた大型
普段巻き上げ機で弦を巻く様な強靭な弓を、モンモンは素手で引くそうだ。命中率はともかく、威力は凄まじい物になるだろう。
そして何より「しばらく留守にする」と出掛けていったチャロアイトが宿にいるのが意外だった。例の調査は終わったのかな…?
「悪いけど良い知らせは持ってないの。前回の
チャロアイトが宿に帰ってきたのは調査の報告ではなく、新たな仕事の依頼の為であった。
今回の事件や蛇の時にモヤった事も含めて、チャロアイトには改めて色々聞かないと駄目だな。その為にはまたチャロアイトの持ってきた緊急ミッションのクリアが前提になる……。
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